福島県須賀川市【ゲストハウスオーナーからの便り 3】滞在から生まれるクリエイション
福島の連載
2019年に夫婦で福島へUターンをし、ゲストハウスをオープンさせた佐藤美郷(さとうみさと)の連載第3回。(第2回はこちら)
滞在の思い出を “創作で” 残す
「これは、私たちのアーティスト・イン・レジデンスだ」
二人の友人クリエイターをNafshaに迎え入れている最中、そう思いました。
Artist in Residence(通称:AIR)とは、アーティストがある地域に一定期間滞在し、その中で得たインスピレーションから制作をする取り組みのこと。その起源は17世紀のフランスにまで遡るらしく、日本のみならず世界中の各地域で現在も行われています。
こんな風に説明してしまうとどこかアカデミックな話に聞こえてしまいますが、規模の大小はあれ、「ある地域に」「実際に足を運んで」制作することの全てを、私はAIRと呼べるのではないかと勝手ながら思っています。
四月の末、二人の友人が関東からNafshaへ訪れてくれました。
一人は絵描き、もう一人はグラフィックデザイナーとして、埼玉・東京を中心にフリーで活動しています。私たち夫婦のつくったゲストハウスにぜひ来てみたい、須賀川を知りたいということからの来訪でしたが、彼女たちの滞在の楽しみ方には目を見張るものがありました。
まず絵描きのささきさとみは、滞在中に早起きをしてNafsha周辺を散歩した時の思い出を、ひとつの作品にしてくれました。
晩春の田畑に囲われた旧・岩瀬村の朝の光景は、若葉がすくすくと芽を出しはじめ、陽の光に当たると緑が萌えるように立ち上がります。田んぼには水が張られ、田植えも始まり、まさに春から初夏にかけての季節の移り目。そんな光景が彼女の目にはこのように映っていたのでしょう。写真で撮ってしまえば一瞬ですが、ここにはあの時の散歩の時間が、何層にも重なって描かれているように見えます。
またグラフィックデザイナーの川口明日香は、一泊二日の滞在の記録をイラストに起こしてくれました。帰った翌々日にこの絵をシェアしてくれたことからも、 “絵を描いて記録する” ということがいかに彼女にとって無理なく、日常的なことであるかが分かります。文字を費やした説明よりずっと分かりやすく、写真で見せるよりもぐっと体温が伝わってくるような滞在記録です。
Nafshaで提供したいのは、“思わず創りたくなる”滞在
何より私が嬉しかったのは、彼女たちがこれらの制作を “自分で進んで”してくれたことでした。つまり誰かに頼まれたからでも、何か明確な目的があったわけでもない。ただ「描きたかった」が動機だということ。そこに何とも言えない感激がこみ上げてきます。
もしかするとこういった創作活動が、NafshaらしいAIRのあり方なのかもしれないと、彼女たちを見ていて思いました。一般的にAIRとは、地域活性やアーティスト支援といった「目的」を持って運営されている場合が多いかもしれません。しかし「描きたくなったから」「創りたくなったから」が先立ち、「思わず絵に残していた」なんて順序で成り立つ滞在制作があっても、それはそれで純粋で良いんじゃないかと思うのです。肩肘張らず、ちょうど日記を書くような気軽さで。
来てくれた人が自然とインスパイアされ、創りたくなる場所、空間、時間…。それらを用意することが、guesthouse Nafshaが提供できる価値なのかもしれないと感じています。
須賀川滞在から「新・プロジェクト」が始動
この須賀川滞在をきっかけにして、実は新しい取り組みもスタートしました。デザイナーの川口明日香、絵描きのささきさとみ、ライターの私の三人からなるクリエイティブチーム、その名も『nacre(ナクレ)』*です。
nacreとはフランス語で “貝殻の裏” の意味。一見なんの変哲もない貝殻が、その裏に七色のきらめきを持っているように、一見何の特徴もない土地やモノの内側にも、オリジナルな輝きがあるかもしれない。そんな “内に秘められた魅力” を見つけ、磨き、伝えたいという想いが、この取り組みの発端となっています。
第一弾のプロジェクトは「レターセット」の制作に決まりました。貝殻の裏のきらめきと、須賀川で過ごしたゆったりとした時間を表現したこのレターセットは、7月上旬に発売予定です。出来上がったものはNafshaのお手紙予約の返信としても使いますので、ぜひ楽しみにしていて下さいね。
ゲストハウスを超えて、人と地域の“結び目”を目指す
こんな風に宿泊体験が多方面に広がっていくことは、私たち夫婦が理想としていたゲストハウスのあり方でもあります。Nafshaを入り口として、来てくれたゲストがそれぞれのやり方で地域との結びつきを深めていく…。今回のnacreの活動も、そのひとつの結び目なのだと思っています。もしかするとそれは、既存のゲストハウスやAIRの形とは違っているかもしれません。ですが、「ゲストハウスはこうゆうもの」「AIRはこうあるべき」という枠組みから一旦外へ出て、実際に感じたインスピレーションの方をまず大切にしてみる。その中にこそまだ見たことのない、Nafshaらしいクリエイティビティがあるかもしれないと、ほのかに期待もしています。
宿泊施設という枠組みを超えて、地域と人との “結節点” となる場所を目指したい。
そんなことを思う、6月のお便りです。
*nacreは人・モノ・土地の魅力を見つけ、磨き、発信する、多拠点のクリエイティブチームです。
instagram @nacre_colors
名称 | guesthouse Nafsha |
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URL | 公式HPはこちら |
住所 | 福島県須賀川市矢沢八幡山45-24 |
備考 | ご予約はお手紙にて受付中。※詳細は公式HPをご覧ください。 |