三重県・桑名 おめかしして出かけたい!みんなのクローゼット「Fukumochi vintage」
ローカル お店の情報
real local名古屋では名古屋を中心に、愛知や東海地方の、ユニークな人やプロジェクトについて積極的に取材しています。
名古屋から電車に揺られておよそ20分。古くはお伊勢参りの玄関口として栄えた東海道四十二番目の宿場町、桑名。市の中心部からもほど近い益生(ますお)と呼ばれるエリアは、いまも往時の面影を残す旧街道沿いの小さなまち。その一角に、少し変わった古着屋さん「Fukumochi vintage(フクモチ・ヴィンテージ)」があります。
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「Our closet」
というコンセプトに込めた思い
懐かしさを誘うレトロなプリントのワンピースに仕立ての良いブラウス。色もデザインもとりどりな洋服が並ぶ店先で、店長の生駒郁代さんが笑顔で出迎えてくれました。
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「うちは古着屋ですが、販売はしていないんですよ。」
かわいいディスプレイにさっそく目を奪われていると、生駒さんがお店のシステムを説明してくれました。
「Fukumochi vintage」は会費制で成り立つレンタルのヴィンテージショップ。最初に会費3,000円を支払って好きな洋服を1着持ち帰り、何度でも着て楽しみ、再び来店すれば別のものを再度レンタルできるという独自の仕組み。
一着一着の古着が持つ思い出や物語を大切に、繰り返し着て楽しむ喜びとともにみんなで共有したい。このシステムにはそんな生駒さんの思いが込められています。
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店先でお話を聞いていたら、奥から小柄なおばあちゃんがひょいと姿を見せました。この店の主、坂本都始子さん。益生で60年以上にわたり「福餅」というお餅屋さんを営んでこられました。40年ほど前に息子さんが独り立ちし、その後、ご主人を亡くしてからはずっとここで一人暮らしをしているそう。
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二人は5年ほど前、福餅のお向かいにある善西寺の住職さんを介し、お寺で開かれた子ども食堂で出会いました。
当時、お店を開く場所を探していた生駒さんの思いを知った坂本さんが、数年前まで営んでいた福餅のスペースを快く貸してくださったのです。
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年齢差50歳の名コンビ
「7歳と3歳、まだ手のかかる二人の男の子を育てながらお店をやっているのですが、接客中、坂本さんが本当の孫のように子供たちの面倒を見てくれるのでとても助かっています。それに坂本さんは洋裁の腕前もプロ並みで、古着のリメイクのアイデアを伝えると手際良く、ささっと仕上げてくれるんです。」
一方で、移動の足がない坂本さんのために、生駒さんが車で病院やお買い物に連れて行ってあげることも。お互い持ちつ持たれつ、支え合いながらの毎日。いまでは息の合う相棒のような存在なのだそう。
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知らないまちで経験する初めての子育て心に去来した孤独感
生駒さんが結婚を機に愛知県から桑名に移り住んだのは10年前。まちに溶け込み、楽しげにお店を切り盛りするいまの姿からは想像できないけれど、知らない土地での孤独な子育てに悶々と悩んだ時期があったといいます。
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「最初はここから少し離れた住宅街に住んでいて、長男を出産後に益生に越してきました。家々がきゅっと並び、こぢんまりとしたまちという印象で、歴史あるお寺や長く続くお店が残っているところもいいなと思いました。」
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独身時代は名古屋にある企業に長く勤め、その後、転職してまちづくりやイベント企画に関わる組織のスタッフに。結婚後も充実した毎日を送っていた生駒さんでしたが、初めての子育てで生活はがらりと一変。そこに思いがけない気持ちの変化が訪れました。
「地に足が着いていないような心許ない気持ちになってしまったんです。会いたい人に気軽に会えない、楽しい場所にも出かけられない。仲間とのミーティングには自分だけがリモート参加。社会との関わりが突然ぷっつりと断ち切られちゃったようなネガティブな感情に襲われてしまって…。」
仕方がないとわかっていても感じてしまう不自由さやさみしさに、自分だけが孤立しているような気持ちに。子育てをしながらお店を始めるという思い切ったチャレンジは、そんな気持ちの変化が大きなきっかけになったといいます。
持ち前の好奇心とチャレンジ精神が再び目覚めた瞬間
「もやもやしながらも妄想だけは次々に浮かんで、まちで空き家を見つけると、ここにこんなお店ができたらいいな、なんてあれこれ思いを巡らせたりしていました。そんな時ふと、考えているだけでは何もできずに終わってしまう、これじゃだめだって思ったんです。」
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まちのリサイクルショップが「Fukumochi vintage」のアイデアに
「はじめは普通にものを売るお店をやろうと思いました。でも、そもそもの目的はこのまちが自分にとってより楽しくなること。ただ売るだけでは何か足りないなと…。」
ヒントになったのが、近所にあるリサイクルショップ。そこでは古着や家具などが安く販売されていて、子供とのお散歩のついでによく通っていたのだとか。
「実は益生って高齢者の割合がすごく高いんですよ。お年寄りが多いまちの特性を生かして、みんなの家のタンスに眠る仕立ての良い服や思い出の詰まった服たちを譲り受け、良い形で再利用できたらいいなと考えました。」
さっそく善西寺の住職さんらの協力を得て、お寺に集う地元のおばあちゃんたちの要らなくなった古着を集めてもらうことに。
「洋服は仕入れるのではなく寄付で賄うので、店頭の品物が無くならないようにしたかったんですよね。それと私の性格的に初対面の人とすぐに打ち解けられる自信がなくて(笑)。レンタル方式なら洋服はまた戻ってくるし、同じお客さんに繰り返し来てもらえるので少しずつ仲良くなれそうだなって。」
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大好きなこの場所でやりたいこと、できることはまだまだ尽きない
古着好きな人なら、益生の雰囲気もきっと気に入ってくれるに違いない。そう考えた生駒さん。今後は見どころやおすすめの場所をマップにして、お店を訪れるお客さんたちにまち案内もしたいと夢は限りなく広がります。
「そうそう!いま坂本さんと二人で密かに進めているプロジェクトがあるんですよ!」
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「海外で話題のヤーン・ボーミングをこのまちでやりたいんです。直訳すると毛糸爆弾。まちにあるいろんなものを編み物でくるんじゃうっていうアートです。着られなくなった古着がいっぱいあるので、それを裂き編みにしてまちじゅうをくるんじゃおうと思ってるんです。…とは言っても私はアイデアを考えるだけ。実際に編むのは坂本さんなんですけど(笑)。思いっきりカラフルに仕上げて、まちをポップにしたら楽しいだろうなあ…。」
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目を輝かせながら壮大な〝野望〟を語る生駒さんの横で、
「とにかく派手にと言うもんだから、こうしてせっせと編んどるんやけど、なかなか進まん。こりゃまだまだ先は長いなー。」
と、ため息混じりに呟きつつも、手を動かすのがとても楽しそうな坂本さん。
微笑ましい掛け合いは、いまやまちの名物に。
益生での暮らしを仲良く楽しむ二人にまた会いに来たくなりそうです。
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2018年のオープンから3年。孤独を感じていたことが嘘のように、生駒さんにとってこのまちがどこよりも楽しく面白い居場所になりました。
名称 | Fukumochi vintage(フクモチ ヴィンテージ) |
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住所 | 三重県桑名市西矢田町35 |
営業時間 | 水ー金 11:00-15:00 |
備考 | facebook:https://www.facebook.com/fukumochivintage/ |