人々が集い楽しむ名古屋のお寺「東別院」
ローカル 気になる人
昔から露店で賑わい、人々が自ずと集まって来た東別院。それが現代となって、今ではお寺の境内でマルシェやコンサートが開かれ、花火も上がります。こうしたお寺でのイベントごとは、他の地域にはない貴重なもの。今回は、そんなイベントの企画に携わる東別院の浅野信暁さんと田中智教さんに話を聞いてきました。
お寺は本来、みんなの場所。
名古屋別院(東別院)のホームページ「お東ネット」にアクセスしてみると、多種多様なイベントが開催されていることにまず驚きます。定例の法話や人生講座のほか、子供たちにカレーやミートスパゲティなどの食事を提供する「青空こどもカフェ」や、夏の夜には花火を上げたり、盆踊りをしたり、浴衣でシャンパンを楽しんだり、音楽大学のジャズ演奏会だって開催されてきました。本堂にプロジェクターで映し出す「デジタル掛け軸」は年末の恒例となり、2019年にはゆく年くる年で紹介されたほどです。
これもすべて、お寺は本当に身近な存在なんだと感じてもらうため。想いや願いが同じ方向にあれば、どんなイベントも柔軟に受け入れてきたといいます。かつてのお寺がそうであったように、もっと広く人に開かれた場所であるべきなのだと話してくれました。
東別院エリアは、庶民の娯楽のまちだった。
正式名称は「真宗大谷派名古屋東別院」。古くから地元尾張では親しみを込めて「御坊(ごぼう)さん」と呼ばれてきた東別院は、1690年に一如(いちにょ)上人によって開かれた寺院で、その教えは親鸞聖人による浄土真宗です。この場所はもともと織田信長の父が居城した「古渡城」。その跡地を当時の尾張藩主だった徳川光友から寄進されて建てられました。
東別院のあるこの地域は、たくさんの寺社仏閣に囲まれた寺町として、また城下初の芝居小屋が設けられるなど、庶民の娯楽のまちとしても栄えてきました。お彼岸といえばみんな東別院の縁日に繰り出すほど、多くの露店が境内に並び、賑わっていたのだとか。
かつての賑わいを取り戻すために。
金山から栄へ向かう途中にありながら、若い世代の人に素通りされる駅となっていた東別院駅が、さまざまな人が立ち寄るようになったきっかけは、2013年にスタートした「東別院 てづくり朝市」です。
「もともと毎月12日、一如上人の命日にちなんで開催されている「一如さん」でも露店が並びますが、それとは別に毎月28日、親鸞聖人の命日にちなんで「東別院てづくり朝市」を開催するようになりました。これは甚目寺観音てづくり朝市から始まったマルシェです。 噂を聞いて訪れてみたら、その賑わいにびっくりしました。「これだ!」と、主催者の協力を得て100店舗からスタートし、ピーク時には200店舗が出店してくれるほどになりました。そして、名古屋定期開催最大のマルシェになったわけです。」と浅野さん。
その後、近くにある西別院と日置神社でもマルシェがスタートすると、この界隈を周遊して楽しめる「寺町めぐり」として、地域で一緒に盛り上がろうという気運が生まれました。春と秋の年2回開催されるアンティークマーケットは、様々なジャンルが集まる現代版・蚤の市として人気に。現在は境内で開催されていますが、もともとは東別院の西側で地元の人が大切にしてきた大木戸と呼ばれる通りで始まったのだとか。
「東別院暮らしの朝市」でコミュニティづくり。
毎月28日から、「8」のつく日の毎月3回にリニューアルしたのは昨年の夏のこと。いずれも朝市の名の通り、テーマは暮らしです。8日はオーガニックを中心としたマルシェ、18日は先鋭的で個性あふれる新しい店に出会えるマルシェ、28日は定番のお店が集うマルシェになりました。
何かしら暮らしを豊かにするモノやアイデアだったり、人と人との繋がりだったり、そういうことに出会える場所という位置づけなのだとか。お寺という非日常空間がそうでなくなるのがマルシェの良いところ。子育て中のお母さんがコミュニケーションを取れる場所になっているなど、出会いとつながりを生み出すコミュニティづくりに一役買っているようです。
オンラインでつながるコミュニティづくり。
コミュニティづくりは、オンライン上にも広がっています。”BuDitalism Branch(仏教✖️デジタル)”というムーブメントを起こそうと動き出したのが「Ohigashi Official Site」。コロナ禍において、なかなか東別院に足を運ぶことができない方たちに向けたサブスクサービスです。
動画配信では法座はもちろんのこと、映画「名も無い日」の日比遊一監督との対談や、仏寺指導を行ったNHK大河ドラマの裏話では、舞台セットの再現にあたる時代考証や仏具・装束といったレアな話を聞くことができます。コロナ禍でお参りができていない人たちへ、どんな状況にあっても教えに触れることができる場所となり、古くから東別院を支えてくれている人たちがオンライン上でつながれるような仕組みづくりをしています。
開かれた境内、親しみやすいお寺。
親鸞聖人の教えを伝えるはじめの一歩として、まずはお寺に来てもらうために様々なイベントを企画してきた東別院。名古屋の東別院は、良くも悪くも俗っぽいお寺。でもお寺は別世界ではなく、人間の営みそのものが内在しているのだと田中さんは言います。その俗っぽさも人間らしさとして良しとするところに、東別院の懐の深さを感じます。
そして、これまで以上に様々なイベントにも対応していきたいと、境内の中にあるお茶所では、東別院暮らしの朝市の時には、かき氷屋になることもあるようです。
「まずはお寺に来てもらうこと。そこで何かを感じてもらえれば。」
様々な年代の人に訪れてもらい、仏教の世界を身近に感じて欲しいと願う東別院にて、この夏は年末恒例のデジタル掛け軸が、お盆の歓喜会期間中(8/13〜15)に開催されます。夜間参拝と合わせて、お出かけしてみてはどうでしょう。