【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽8
地域の連載
「穏やかな休日のための音楽」では、毎回山形に縁のある南米のアーティストとそのアルバムを紹介しています。
ブラジルはリズムの宝庫と言われています。これは多民族の混淆で成立している国ブラジル故に、結果としてさまざまな音楽のミクスチャーの賜物といえます。したがってブラジル独自に発展した打楽器も多いのです。例えばこの楽器はパンデイロと言います。
日本で言う皮を張った「タンバリン」ですが、テンションを調節してチューニングできるようになっています。サンバを中心に様々なブラジル音楽で使用される楽器です。単純なようでいて、ブラジルの打楽器の中でも最も難易度の高い、奥深いものの一つです。
今回紹介するのは、その難しい楽器に独自の奏法をもたらし、“パンデイロの革命児”と言われる演奏家、マルコス・スザーノです。まずは彼の演奏を見てください。
なんだこれは?と驚かれる方も多いのではないでしょうか。この小さな太鼓に無限の可能性が見て取れるのではないでしょうか。目を瞑って聴いていただけば、まさかこの音が一つの打楽器から生み出されているとは思えないですよね。
マルコス・スザーノは、1963年リオデジャネイロに生まれました。ロックが好きな少年だったそうです。その後サンバの魅力に取りつかれ打楽器の演奏を始め、プロの演奏家として活動を開始しました。サンバ、ショーロ、ジャズ、ファンク、ヒップホップなどあらゆるジャンルのアーティストの録音やステージで活躍しています。
1993年には、ヴォーカル・ギターのレニーニとのデュオ・アルバム『魚眼』を発表。アルバムは大ヒット。1996年にはファースト・リーダー・アルバム『サンバタウン』を発表。レニーニとのデュオでの初来日では、その独自のパンデイロでファンの熱狂を巻き起こしました。1998年には、パンデイロ奏法に惚れ込んだ宮沢和史のソロ・コンサートに招かれ、東京と大阪でライブを行い、宮沢のソロ・アルバム『アフロシック』にも参加。その後も何回となく来日をしています。
レニーニとマルコス・スザーノのステージから。
一方で、パンデイロという楽器の普及にも力を入れていた彼は、日本でも数多くのワークショップを開催し、パンデイロの普及に多大な貢献をしました。ちなみに個人的には2002にリオのスザーノのお宅に伺ったことがあり、そんな縁があって2005年と2006年には山形でもワークショップを開催させて頂きました。
2005年に来県したときには、NHK山形のニュース番組にも出演して、演奏も披露してもらいました。
読売新聞山形版にはこんな新聞記事も。
彼は教えることに非常に熱心で、2回のワークショップとも多くの方に参加していただきました。残念ながら我が山形ではパンデイロが上手くなった方はほとんどいませんでしたが。
今回紹介するのは、今まで本稿で紹介してきた穏やかなアルバムとは違って、熱気あふれるヒップなアルバムです。前述しましたが、シンガー・ソングライター、レニーニとの1993年の作品で、ブラジル音楽ファンの間で大ヒットした名盤『魚眼(Olho de Peixe)』というアルバムです。
まさに一世を風靡した作品。レニーニの切れ味鋭いギターと、マルコス・スザーノのパンデイロを中心に、ブラジル北東部の音楽やロック、ファンクなどをミクスチャーした迫力あるサウンドは、当時他に類を見ない斬新でかっこいい音楽を作り上げています。残念ながら現在では袂を分かってしまった二人ですが、ブラジル音楽ファンには忘れることが出来ない作品です。穏やかな休日にちょっと高揚した気分を味わって下さい。