【加賀】山中漆器の技芸と物語を巡る「CRAFTOUR」のプライベートツアーを体験
体験ツアー
2021年春に石川県加賀市の山中温泉街で始まった「CRAFTOUR(クラフツアー)」に参加してきました!
山中温泉エリアは、400年続く漆器の一大産地であり、木地づくりから、美しい手仕事の真骨頂ともいわれる蒔絵技師まで、多様な職人・作家が活躍しています。しかし、それらの伝統技術の多くは公開されず、関係者以外は立ち入り禁止の工房も珍しくありません。
そこで、山中漆器づくりの現場を目の前で堪能できる体験型プライベートツアーの企画・提供を始めたのが、2021年春に山中温泉街にオープンした「CRAFTOUR(クラフツアー)」です。今回は「CRAFTOUR」の篠崎健治さんに産地を案内してもらい、山中漆器の工房、職人さんの手仕事を見て、触れて、体験してきました。
山中漆器を知る・体験する旅のエントランス「CRAFTOUR」へ
山中温泉バスターミナルのすぐそば、まさに温泉街の入口に「CRAFTOUR」はあります。お店の扉を開けると、満面の笑顔で案内人の篠崎健治さんが迎えてくれました。
「CRAFTOUR」は、山中漆器の工房巡りツアーをコーディネートするだけでなく、山中漆器のセレクトショップでもあり、店内にはツアーで案内してもらえる工房、職人さんが手がけた器やアクセサリーが並び、ここで購入することもできます。
体験ツアーは、山中漆器が出来上がるまでの「木地挽き」「漆塗り・蒔絵」、近代漆器(プラスチック樹脂製品)の「成形・塗装」の3つのテーマで構成され、通常はテーマ別やテーマを組み合わせたコース、おまかせコースなど計6コースから選べます。今回は3つのテーマ全てを体験するため、通常の2時間コースを2回分で体験してきました。
店内に並ぶ商品から「これを作っている工房へ行ってみたい」というリクエストもできたり、当日のツアー申し込みも受け付けていますが、希望の工房・職人さんの都合がつかない場合もあるので事前の予約がおすすめです。
CRAFTOUR(クラフツアー)
石川県加賀市山中温泉東町1丁目マ21
TEL 0761-75-7394
営/10:00-17:00 休/火・水・木曜 ※WEBからのツアー予約は随時受付
公式サイト https://www.craftour.jp
Instagram https://www.instagram.com/craftour_
「白鷺木工」で山中が誇る【木地挽き】を見学
「山中漆器は問屋がプロデューサーになり、木地師・下地師・塗師・蒔絵師といった職人による分業でつくられてきました。まずは山中漆器のベースとなる木地を専門に製造する工場を見学しましょう」と篠崎さんが最初に案内してくれたのは「白鷺木工」という工場。
木材を轆轤(ろくろ)や旋盤で回転させ、刃物を当てて器の形に削り出す技法を「木地挽き」といい、この工程を専門とする職人を「木地師」といいます。「白鷺木工」では2代目の戸田義治さん、3代目の戸田勝利さんをはじめ、6人の職人さんが木地師をされています。
石川県には「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と呼ばれる三大産地があり、山中は轆轤挽物木地の分野で質・量ともに国内トップを誇り、「山中木地挽物」の名で石川県無形文化財にも登録されています。また、轆轤を使って作る椀・盆・丸膳などの円形の器が多い山中漆器は「山中の丸物」、輪島塗は「輪島の角物」といわれているそう。
山中漆器では「縦木取り(たてぎどり)」という、輪切りにした木材から木地を削り出しているのも特徴です。横木取りより取れる量が減るけれど、美しい木目が現れ、歪みや変形が少ない薄引きの漆器が作れるのだと教えてくれました。
木取りされた木材は、大まかに仕上がり予定の形に削り出す「荒挽き」が施され、乾燥させてから出荷されます。工場内にはいろいろな形のカンナや型があり、それらを使って巧みに削り出していく様子は見ていて飽きません。
「うちではずっと『荒挽き』だけを製造し、その後の『仕上げ挽き』は別の工房で行われましたが、10年前に3代目の私が加わり『仕上げ挽き』も自社でするようになり、4年前から自社で企画から製造まで一貫して行う自社ブランド『SHIRASAGI』を始めました。作業場の向かいにある直売所と通販でお椀、カップ、皿などを販売しています」と勝利さん。
塗師・清水一人さんの工房で、漆の不思議と魅力に出会う
木地作りの次は、塗師(木地に漆を塗る仕事)をされている清水さんの工房を訪問。清水さんも親子で塗師をされていて、息子の清水一人さんが塗師の仕事を紹介してくれました。
漆を使う作業は埃を嫌うため、なかなか職人の仕事は見ることができませんが、「CRAFTOUR」を通して工房内や仕事の様子を見せてもらうことができます。本漆を使っているので、勝手に器や道具に触れてかぶれないように、肌が弱い人は空気中の成分でもかゆくなる場合があるので注意が必要です。それもまた、リアルなモノづくりの現場を訪れている臨場感ですね。
「漆を塗るときに使うこの刷毛、何の毛でできているか知っていますか?」と清水さん。「確か人毛を使っていると聞いたことがあります」と答えると、「よくご存知ですね、この持ち手の中にも毛が詰まっていて、鉛筆みたいに削って使うんですよ」と聞いて、刷毛の先だけだと思ったら、長い髪が筒状になった持ち手の中に続いているなんてビックリでした。
他にも、中に入れた漆器を回転させながら均等に乾燥(硬化)させる「回転風呂」と呼ばれる棚や、器に貼り付けて作業時の持ち手にし、風呂にかける道具にもなる「ツク」の説明もしてくれました。
「これは変わり塗りで、叢雲(むらくも)塗りと、ぼかし塗りをした器ですよ」と「風呂」の中から漆器を出して見せてくれた清水さん。他にも「うず塗り」「蜻蛉(せいれい)塗り」など独特の技を使った変わり塗りがあり、木の器だけでなく、陶胎漆器という陶器に漆塗りをした作品もあります。工房には珍しい道具がたくさんあって、漆の使い方、塗り方の技法などの解説も、日常では出会えない貴重なお話で引き込まれてしまいます。
「うるしアートはりや」で伝統の技と新しい蒔絵の世界に出会う
工程順に木地・塗りの工房を巡ってきましたが、次に訪れたのは蒔絵の工房「うるしアートはりや」です。1981年に茶道具の蒔絵師である針谷祐之さん、妻の絹代さんが設立した蒔絵工房、現在は息子の針谷崇之さん、祥吾さんも加わり、親子4人で蒔絵作品を製作しています。
蒔絵とは漆工芸の代表的な加飾技法の一つで、漆で絵や文様を描き、漆が固まらないうちに蒔絵粉(金・銀などの金属粉)を蒔いて表面に付着させ装飾すること。「うるしアートはりや」は茶道具専門でしたが、現在は蒔絵を身近に感じて欲しいと蒔絵アクセサリーの製作や新しい素材への蒔絵にも取り組んでいるそう。
ギャラリーには、かわいらしい動物モチーフから、スタイリッシュなデザインのものまで、さまざまな蒔絵アクセサリーが並びます。アクセサリーというと女性のイメージですが、息子さんたちが考案・製作しているメンズアイテムも豊富なので、男性も楽しめるし、男性向けのプレゼント選びにもよさそうです。
ギャラリーには父の祐之さんの作品を中心に、茶道具や文箱、酒器などが展示販売されています。さすが茶道具専門でスタートした工房で、棗や香合などは全体の造形も蒔絵も素晴らしく、神業的な筆さばきと技にハッと息を飲みます。
「宮本産業」で今や暮らしに欠かせない近代漆器の現場を見学
「近代漆器と聞くと何だろう?と思いますよね。耳慣れないけれど、主原料にプラスチック(樹脂)を使用した製品を近代漆器や合成漆器と呼び、普段の生活でたくさん目にしているはずです。東急ハンズ、LOFTなど大手雑貨店・量販店で売られているお椀や食器、お弁当箱の多くは、名前は出ていないこともありますが、うちで作られたものですよ」と話してくれたのは「宮本産業」の宮本昌和社長。
「近代漆器」は、木から削り出す木製漆器では実現できない自由度が高いデザインや、時代のニーズにフィットした形状・色彩・機能が実現できるそう。広いショールームには、漆塗りに見えるけれど電子レンジや食洗機もOKなプラスチック製の器から、まるで陶器のように見えるもの、抗菌や特殊性能を持った樹脂製の器なども並んでいました。確かに、普段何気なく使っているアレも、コレも山中で作られたものかもしれないですね。
工場はガラス越しに作業場を見学できる作りになっています。器の表面に樹脂を吹き付ける塗装作業をしていたスタッフのほとんどが若い女性だったのも、意外な発見でした。地元の産業として地域に根ざしているんだなと感じました。
山中漆器の技・魅力を発信する「我戸幹男商店 GATO MIKIO/1」
次に篠崎さんが案内してくれたのは、「我戸幹男商店」の直営店「GATO MIKIO/1」。1908年に「我戸木工所」という木地屋として創業し、その後、社名を変えて山中漆器の製品の企画から販売までを行なう山中漆器の問屋として活動してきた「我戸幹男商店」の4代目・我戸正幸さんが、2017年に「原点回帰」をコンセプトにオープンしたお店です。
店内に並ぶ器のほとんどが「拭き漆」という塗りの技法で仕上げられています。漆を木地に塗り、余分な漆を拭き取って、乾燥させて仕上げる「拭き漆」は、木地の木目がそのまま器の模様になるため、木地の良し悪しが如実に現れます。
まさに、山中の木地の加工技術の高さを示す塗りの技法が「拭き漆」なのです。加えて、デザイン性にも目が行きます。革新的なデザイナーとコラボしてシリーズ展開する商品は、どれもシンプルで洗練され、現代の暮らしと空間にマッチします。
「山中漆器は400年の歴史があり、長く湯治客の土産物として作られてきました。弊社が扱う山中漆器は国内外の様々な場所で販売されていますが、原点である山中の地で湯治客に触れて欲しいという思いと、木工所からスタートした創業の原点に立ち返り、挽物木地の技術・魅力を最大に引き出す山中漆器づくりに取り組んでいます」と我戸正幸さん。
「僕が『CRAFTOUR』を始めたのは、我戸正幸さんの影響が大きいんですよ。我戸さんは山中漆器の魅力や奥深さを教えてくれた一人であり、2019年秋に山中で開催した山中漆器を中心としたモノづくりの現場を体感・見学できるイベント『around(アラウンド)』の発起人で、僕もそのイベントに関わらせてもらって。3日間のイベントはとても有意義で、これが年間を通して体験できたらいいなと思ったのが『CRAFTOUR』の原点です」と篠崎さん。
なるほど、山中漆器の産地をいろいろな角度から巡る「CRAFTOUR」の産業観光・プライベートツアーの誕生には、こうした思いがあったのですね。
さて、「CRAFTOUR」の見学ツアーはこれにて終了。今回は特別に2回分のコースをぎゅっと1日で体験しましたが、約2時間のコースなら温泉入浴と合わせて山中観光を日帰りで充分楽しむこともできます。1泊の観光なら、宿のチェックイン前や翌朝のアクティビティとして計画するのもいいですよね。
食事や温泉も楽しむことで、山中の魅力が2倍、3倍に
泊まりで観光するなら、温泉街の入口にある温泉宿「花紫」は徒歩5分ほどの距離にあり、「CRAFTOUR」のツアーとも連携しています。全室が美しい渓谷に面したリバービューの宿で、風情ある日本建築のお部屋で心安らぐ時間が過ごせます。
夕食はおまかせコースの他に、およそ50種類の季節のメニューから好きな料理を自由に組み合わせて楽しめる「アラカルト懐石」も人気があり、季節ごとの旬の味覚が楽しめます。そして、食事の器にも、地元の名産である山中漆器や九谷焼が用いられていているのも魅力です。
「お客さまから『この器はどこで買えますか?』『つくっている工房を教えて欲しい』と聞かれることも多いんですよ。実際に山中漆器を使って良さを感じでいただいて、作り手にも興味を持っていただいた方には、販売店や『CRAFTOUR』さんのツアーをご紹介しています」とスタッフの方も話されていました。
いかがでしたか? 完成品だけでは伝えきれないモノづくりの魅力や価値を、作り手の職人との対話を通じて楽しめる「CRAFTOUR」のプログラムで、山中漆器の魅力を再発見してみたくなりませんか。興味がある方は「CRAFTOUR」公式サイトお問合フォームからお問い合わせしてみてください。
名称 | CRAFTOUR(クラフツアー) |
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URL |
Instagram https://www.instagram.com/craftour_ |
住所 | 石川県加賀市山中温泉東町1丁目マ21 |
TEL | 0761-75-7394 |
営業時間 | 金・土・日曜、祝日 10:00-17:00 ※WEBからのツアー予約は随時受付 |
定休日 | 火・水・木曜 |