【福井県大野市COCONOアートプレイス】桃子と大野、アートの小さな旅
展覧会
福井県大野市にあるCOCONOアートプレイスでは現在、浅野桃子展「ドス ト ス(扉図と棲)」が開催されています。今回は3歳の息子を連れて、アートの小さな旅に出かけました。
訪れたのは8月中旬。福井駅から越美北線の2両編成の電車に乗っておよそ1時間。車窓には、里山の風景が映ります。この日は台風直前の強い風の吹く日。雲の動きを見ながら越前大野駅からゆっくり歩いて10分ほどでCOCONOアートプレイスに着きました。
小コレクター運動とCOCONOアートプレイス
桃子さん本人が、手を振って私たちを出迎えてくれました。※桃子さんと私の出会いはこちらからどうぞ。
福井県大野市は1950年代に「小コレクター運動」というアート運動が展開されました。この活動は、実力がありながらも不遇の地位にいる画家を、市民が絵を購入することで支えていこうというもの。そのムーブメントから70年余り。2018年3月、大野市元町に築130年の民家をリノベーションした「COCONO(ココノ)アートプレイス」がオープンしました。小コレクター運動で集められた作品たちが常設展示され、これからまた多くの人たちにアートの輪が広がり、集う場になるようにと創られたアートスペースです。
この場所の作品をつくりました
今回の企画展の展示スペースは蔵の中、廊下、中庭と多岐に渡ります。特にマップに書いていませんが、無数の展示が至るところにあるそう!
「ここにありますって言っちゃうと、探すことに夢中になってしまうし、見つけられなかったら残念な気持ちになってしまうかもしれないので。見えないものを見ていることが大事かなと思います。」と桃子さん。
中庭に出ると、セミの声が聞こえてきました。薄暗い蔵の中との光の差に思わず目を細めます。
「この場所での個展が決まってから、作品をつくりました。大野は水のイメージが強くて、かなり強く引っ張られたなあと思います。水の流れとか音とか、つながりとか。
今回、展示期間がたっぷりあるので、こちらも焦らずやっているよと言えます。ゆっくり見てもらえると嬉しいです。」
中庭の作品は風で表情が変わり、蔵の中の作品は光によって表情が変わります。ゆれる光、流れる雲、風の音、すべての刺激が作品として体感できるような気がしました。
桃子さんは息子と中庭で遊びながら話をしてくれます。
「蔵の照明、立派なものが付いているんだけど、ひとつもつけずに自然光だけでやりたくて。あの場所に入っていった時の光と影が美しかったから、そこに触れていかないとだめだなあと思ったの。」
身近な人に見てほしい
桃子さんの作品の多くは、インスタレーションと呼ばれるものです。展示空間を含めて、その場全体を体感する芸術作品と言ったらよいのでしょうか。
「身近な人で、普段作品を見てもらっていない人とか、あまり美術館に行かない人に見てもらいたいです。
身構えずに見てほしい。分かる、分からないということも含めて自分でどう感じるか。空間全体で楽しんでほしいなと思います。日々、風景をボーっと見ている瞬間があったりすると思うけれど、そんな感覚で、佇んでもらえると、違う心の動きがあるんじゃないのかな。」
「この場所は、これまでは小コレクター運動で常設していた作品展示が多かったけれど、今後色々な作家の展示がしたいっておっしゃっていて、そこに加われたのは光栄だなと思いますね。」
どう思うことも自由だ
桃子さんの作品は、説明がほとんどない。
「正直なところ、アートに触れることは、慣れも必要かもしれません。そういう意味で沢山色々な作品を見る機会はあったほうがいいと思います。
この作品の見方を間違えたくないから説明してほしいと思う方もいらっしゃいます。こんなこと思っていいのかな、これは正解じゃないかなと。でも、どう思うことも自由だと思うんです。当の本人がそれでいいと言っているんだから。ほんとうにそれでいいんです笑。
その日によって、違うように見えるのが真実。浅野桃子がつくりだしたものだけれど、今その作品を見て、感じているのはあなた自身。だから、ひとつの答えだけあるわけでは決してないと思います。」
「さっき、息子ちゃんが蔵の中に入って『こわーい』ってお母さんの方を振り返った。そういうことでいいんだなと思います。その空間を肌で感じて、お母さんはどこにいるのと思ったことと行動は、彼がちゃんと作品を見て感じたことなのだから。」
市民が目を養うことが、アーティストを育てる
今回、桃子さんは美術家として展示会をしましたが、最近は、福井の中でアート全体をどうしていくかという活動(アーツ&コミュニティふくい。略称AsC)もされています。
「ひとつのきっかけや衝動になればいいなと思って活動をしています。
アートは、目が養われないと育っていきません。今回の展示もそうだし、今私が関わっている活動もそうですが、色々な人達が芸術に触れる機会にしたいです。
観察する目が全体的に養われることで、アーティストが育ち、その地域の芸術表現も成熟していきます。最初の一歩として、まずは触れる機会をつくるところから。でも、いつまでも同じことは言わないぞとも思っていますよ笑。
大野は70年前の運動からの文脈もあって、今活動している人たちもしなやかな人たちが多いです。アート表現というのはつくらざるおえないという何か。それを育て成熟させるそんな兆しが、この場所にはあるように思います。」
浅野桃子展は今月9月20日まで。肩の力を抜いて、アートの扉に触れてみるのはいかがでしょうか。
浅野桃子展「ドス ト ス(扉図と棲)」
2021年7月17日(土)~9月20日(月・祝)
COCONOアートプレイス https://www.cocono-art.jp/
観覧料/大人300円 中学生以下無料
日時 | 2021年7月17日(土)~9月20日(月・祝)9:00~17:00毎週月曜休(祝日の場合は翌日) |
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会場 | COCONOアートプレイス |
住所 | 福井県大野市元町12-2 |
TEL | 0779-64-4848 |
料金 | 大人300円、中学生以下無料 |
URL | COCONOアートプレイス https://www.cocono-art.jp/ |