【愛知県名古屋市】地域密着のフードロスゼロをめざす「どんぐりピット」
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大手自動車メーカーで働く20代のエンジニア達が、自らの事業として立ち上げたフードロス“ゼロ”プロジェクト。「もったいない」と思うだけ、を超えたフードロスゼロへ向けて、確かな足取りで動き出した「どんぐりピット」代表の鶴田彩乃さんに話を伺ってきました。
“食”を通じて地域に貢献したい
2020年の7月に立ち上がったばかりの合同会社「どんぐりピット」。特徴は全社員が愛知県内の自動車メーカーでエンジニアとしても働いているということ。会社で副業が認められるようになると、社内でもいろんな活動が活発なり、鶴田さんが所属する企画部でも仲間たちの間で「社会に貢献できる何かをしたい」という話題が自然と増えたのだとか。
「“食”をテーマにしたのは、誰にとっても身近なことだから。“食”を通じて何か社会貢献できないかと考えました。調べてみると、日本では年間60万トン以上のフードロスがあって、かなり深刻だと知りました。それをなくすためにどんなことができるだろうとサービスを企画する中で、どうせやるなら起業しよう!ということになり、グループ会社で働く同級生も誘ってみることにしました。企画部の仲間はいろんな考えを持っていて、新しいことに挑戦していくことに前向きです。慎重になることより、まずはやってみよう!前に進もう!と、7月には起業していました。」
余った食材を誰もが気軽に売買できる冷蔵庫
本業の企画部では、これからの車に必要とされるサービスを考えることが多いと言う鶴田さん。モビリティーを通じて人々の生活を豊かに自由にすることが本業の目標なら、フードロスを通じて人々の生活を豊かに便利にすることが「どんぐりピット」の目標なのだと言います。ここでめざすのは、身近にあるフードロスを、ほんの少しのテクノロジーで解消していくこと。その第一弾となったのが、「シェア冷蔵庫」サービスです。
「フードロスには、いくつかの理由があります。形が悪くてお店に並ばない規格外の野菜だったり、売れ残りや賞味期限切れの食品はもちろんのこと、家庭でも使いきれなかった食材が残ってしまうことも。シェア冷蔵庫は、人が集まる場所に設置して、まだ食べられる食材の相互販売を行い、個人レベルでフードロスをなくしていくサービスです。登録さえすれば誰でもいつでも、スマホを使って食べ物を買うことや売ることが気軽に簡単にできるんです。」
どんな冷蔵庫にも後付けして使える販売ユニットには、ロック、カメラ、販売モニターが付いており、登録会員はQRコードを利用して売買を行う仕組みになっています。商品の取り違えがないように、また小単位のやり取りもできるよう工夫がされているのだとか。現在は日進市と名古屋市を中心に、いろいろな場所で試験的に設置させてもらいながら改善を進めているそうです。設置場所によって冷蔵庫の大きさも様々で、野菜やお弁当など内容に応じて設定温度も調整可能。どんな冷蔵庫でもシェア冷蔵庫にできるため、新品でなくとも余っている中古冷蔵庫を活用できることも素晴らしい。
おすそ分け文化を再び
すでに市役所や大学、企業の食堂などに設置されており、地元農家の規格外野菜や、食堂で提供される昼食の余りをお弁当にして販売しているシェア冷蔵庫。今後は人が集まる町の集会所をはじめ、施設や病院、マンションやオフィスなどに設置して、市民の人たちが広く利用できるようにしていくことが目標なのだとか。コンセプトは「町中の食材がつながる」こと。まだ食べられる食材を地域の人たちと使い合う、お裾分け文化の復活です。シェア冷蔵庫があることで、そこに人が集まり、それが町のつながりにもなっていく。そんな「冷蔵庫コミュニケーション」をめざしていると言います。
「社名である『どんぐりピット』とは、弥生時代よりも前から日本の集落にあった『どんぐり穴』から名付けられました。自分たちで採ってきた食料を入れる「どんぐり穴」と呼ばれる穴。そこからみんなで分け合うという風習が日本にはあったんですね。「シェア冷蔵庫」の構想にとてもよく似ています。ご近所付き合いや、おすそ分けがしづらくなった現代で、このシェア冷蔵庫が地域をつなげ、フードロスゼロにつながることを願っています。」
フードロス問題は遠い世界の話じゃない
地元の農家さんたちと、とことん話すことで見えてきたのが、このシェア冷蔵庫サービスだったと言います。お客様の困りごとを吸い上げてソリューションを提案することを本業とする彼らにとって、サービスの立ち上げや事業創出は得意とするところ。けれど運営までしていくのは初めてのこと。日頃から仲間として協力してくれるサポーターの方たちをはじめ、いろんな人が関わってくれているのだとか。
「税理士の方が決算のお手伝いをしてくれたりと、新たな出会いや人とのつながりも楽しみのひとつ。また7月にはクラウドファンディングを達成し、200人以上の方からの支援と応援の声を頂き、感謝しています。コロナ禍でも接触することなく、地元の農家や飲食店と連携して購入できるサービスとして、9月には愛知県新型コロナウイルス感染症対策新サービス支援事業補助に採択されました。とても励みになります。フードロス食材は足が早いので、いかに短時間で売り切るかがポイントになります。自然と使い切ってもらえるサービスになっていかなければならないですね。」
シェア冷蔵庫は使い勝手を確かめながらアップデートを続け、現在は3号機目。このシェア冷蔵庫サービスを皮切りに、1m×1mから始める気軽な畑シェアサービス「どんぐりファーム」や、野菜の移動販売、サルベージイベントなど、今後も様々なフードロスゼロの取り組みを進めていくそうです。私たちのフードロスへの意識は、こうした身近なところから深まっていくものなのかもしれません。