再生可能エネルギーに取組む!/ながめやまバイオガス発電所・後藤博信さん(後編)
日本を代表するブランド黒毛和牛・米沢牛の生産地のひとつである山形県飯豊町で、2020年9月、「ながめやまバイオガス発電所」が完成、運転が開始されました。日本初の「肉牛の」排泄物を利用して電気を生み出す発電所です。
立ち上げたのは、これまで山形県南部や福島県において太陽光発電や小水力発電などの再生可能エネルギー事業を展開してきた東北おひさま発電株式会社。同社代表取締役を務める後藤博信さんは、野村証券副社長、野村総合研究所副会長を歴任してきた異色の経歴の持ち主であり、退任後ふるさと飯豊町に戻り、再生可能エネルギー事業にゼロから取り組みはじめました。
日本初というこの発電所はどんなものなのか。ここから、地域の未来をどう描こうとしているのか。そこにはどんな想いが隠されているのか、後藤社長のお話を伺いました。聞き手は、やまがた自然エネルギーネットワーク代表で東北芸術工科大学教授の三浦秀一さんです。
=== 東京の情報や資金力と比べれば地方は情報が遅く、資金的体力のある企業が少なく、また金融機関もお金も貸してくれないなど、地方の事業展開は後手に回る印象があります。
後藤:東京の大手資本が展開する支店やチェーンはどこにあっても同じです。どの町なのかもわからないような、同じ風景しか生み出していません。そこには地域の文化というものがまったくないのです。
六本木や銀座に建つ新しい巨大な商業ビルも、話題となるのはほんの一瞬です。なかを歩いてみれば同じブランド、同じ店ばかり。そんな貧弱な発想で、果たして集客を持続することができるでしょうか。東京ブランド、世界ブランドは高度成長やバブルの時代の発想にもとづく死滅寸前のものでしょう。これからは地域文化につながったものへと切り替わっていくだろうとわたしは見ています。
=== ながめやまバイオガス発電所は、地域企業によって、東京からは発想することができない日本初の事業を、地域資本で起こすことができました。それはなぜ可能だったのでしょうか。
後藤:わたしたちの「ながめやまバイオガス発電所」は10億円規模の投資になりましたが、荘内銀行からプロジェクトファイナンス的な融資をしていただくことができました。プラントになんども足を運んでいただき、事業の収益性やリスクを評価いただいた結果です。 FIT売電によるキャッシュフローを返済の原資としていきます。
もともとファイナンスの世界にいたわたしから言わせてもらうと、担保がなければ融資できないというような発想ではもうダメでしょう。これからの地方の信用金庫や銀行は、地域課題解決のためのファイナンスをどう組み立てていくかということにフォーカスすべきだろうと思います。そういう事業以外に、地方にはもう融資先がないのではないでしょうか。これから社会的価値を生み出す新しい事業とは一体どんなものなのだろうかということを考えながら、融資先である企業と一緒になって「じぶんたちも事業者である」という意識を持ってやっていく必要があるでしょう。
=== 世界もそしてとうとう日本でも、再生可能エネルギーへとグッとシフトした感があります。大手資本が「RE100」を謳いはじめ、大手資本がその巨大な資金を投じて洋上風車を建てはじめたり、再エネ事業をお金で動かすような動きが目につきますが、その状況をどのように見てらっしゃいますか?
後藤:2050年までの数値目標を達成するために、東京や外国の大手資本がぶわーっと地方の土地を押さえ込んで大規模な設備をつくって…、というやり方はちがうだろうと思います。そのような発想は、これまでの火力・水力そして原子力といった従来型の、大規模な集中型の発電の考え方です。いまの時代にふさわしいものではありません。
再生可能エネルギーの特性は、小規模で、分散型であることです。にもかかわらず、大手企業がやってることは、再エネのその特性を無視して、巨大な資本のちからでじぶんたちの企業の数値目標に取り込もうとしているのです。「わたしたちはいいことをやっています」と謳いたいだけではないでしょうか。まるでアクセサリーのように飾り付けているだけです。実際にやっていることは、地方の資源を収奪していることにほかなりません。
地域と地域の総和が
日本になり世界になる
後藤:ですから、地方は、それぞれの地域において、地域資本で、地域企業が参画し、じぶんたちの資源をじぶんたちで活用する仕組みをつくりだしていく、ということがとても重要です。東京や大手資本に対して「外からは来ないでね、どうしてもほしいのなら分けてあげますからね」というくらいのスタンスで望まなければなりません。国が言う「地方創生」というのも、地域資源を地域で活用する仕組みづくりさえできれば実現できるはずです。
これから日本が「脱炭素化」や「ゼロカーボン」をめざすのなら、大企業を中心に考えたり、東京発で動くのはまちがいです。自然と共生するなかでの資源というものを人間の暮らしにどう取り入れていくかという、地域中心の発想でなければいけません。まずはそれぞれに地域が、じぶんたちがやるんだという発想で、ローカルに考え行動することです。その総和が日本全体の「脱炭素化」の動きとなっていくのです。
大切なことはトライ&エラー
しながら前進すること
後藤:わたしたちのバイオガス発電所は、まだはじまったばかりです。いざはじめてみれば「もっとこうしておけばよかった」と思うことや、「論理的にはこうなるはずなのに、うまくいってないな」ということだらけ。データを蓄積しながら、検証や改善を重ねているところです。
でも、それでいいんです。最初から成功だけしか許されないなかでは、なんのチャレンジもできません。「成果主義」といいながら成功しか許さないような空気が、社会のどん詰まりを招いているように思います。遊びや余白がなければ、みんな鬱になってしまいます。どんなことにもエラーはあります。エラーから成功が生まれると考えるくらいでいいのです。
失敗してもいいからじぶんからやってみる。うまくいかなかったら、なにかを変えてまたチャレンジする。そういうトライアンドエラーをよしとし、そこで得られる経験値をどんどん上げていくような社会を、地域のなかでこそ大切にしていきたいものです。若い世代のひとたちに、どんどんトライアンドエラーをしてほしいと願っています。
自然界の摂理のなかで
ねじ伏せるのではなく共生していく
後藤:福島原発事故のような社会的な出来事さえ、じぶんごととして受け止めることができず、すべてをマーケットの判断に委ねている。そんなマーケット至上主義の金融の世界からわたしは抜け出して、このふるさとに帰ってきました。それは結果的に良かったと思っています。ゼロ回帰して、いま、人生を生き直しているような気持ちでいます。
自然とともに地域に生きていれば、「自然が相手のことだから、うまくいかないこともある」というのは当然のことだと思えてきます。バイオガス発電もそうです。メタンガス発生のための発酵作用は、微生物という生き物がやってくれていること。じぶんたちでは制御できないものがいっぱいあるのです。
これまでのわたしのなかにも科学や知がすべてを管理したり制御したりできると思っていた奢りがありましたが、「そうじゃないんだな、そう思っちゃいけないんだな」と気づかされる日々です。わたしたちは自然の摂理のなかに生きています。自然が先であって、人間が先ではない。自然をねじ伏せるのではなく、わたしたちは自然と共生して生きているのです。
いま、わたしたちの周りに張り巡らされている送電線は、地方から東京などの大量消費地に送られるためだけの送電線です。でも、やっぱりそうではなく、わたしたちはこの送電線の仕組みを、地域だけで自立してつくり、地域に循環させるようなものとしてつくらなければなりません。それによって、多くの地域課題は解決されていくと思います。
日本全体のことを語るのではなく、わたしたちは地域内だけのことにフォーカスする。地域をどうすべきかを考え、地域で行動する。自治体、民間企業、住民みんなで力を合わせて、そこをやっていくしかないと思っています。
東北おひさま発電webサイト
reallocal「再生可能エネルギーに取組む!(グリーンエネルギーフロンティア)」シリーズ
text 那須ミノル
photo 根岸功