【山形/連載】穏やかな休日のための音楽10
地域の連載
「穏やかな休日のための音楽」では、毎回山形に縁のある南米のアーティストとそのアルバムを紹介しています。
セルカン・イルマスは、ブエノスアイレス在住のトルコ人ギタリストで、作・編曲家でもあります。超絶技巧のギタリストであり、その技術をもって複雑でいて繊細で、凄みすら感じさせる演奏を聴かせてくる、唯一無二の圧倒的な名手と言って良いと思います。そのセルカンが山形を訪れたのは2015年、世界的ケーナ奏者で、僕と同郷の弘前出身の岩川光氏との公演でした。
以下は来日公演で使用した、セルカンのプロフィールです(若干改変)。
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セルカン・イルマス(10 弦ギター)
ブエノスアイレス在住のトルコ人ギタリスト。
20 歳にして初めてギターを手にし、その 2 年後にはすでにトルコ国内の名だたるフェス ティバルに招聘され公演していたという天才的キャリアの持ち主。その類稀なる才能は 各方面で絶賛され、ギタリストとして確固たる地位を確立する。
アルゼンチンには、巨匠フアン・ファルーが主宰するギター・フェスティバル 「Guitarras del mundo」への招聘をきっかけに初めて訪問。これを契機に、隣国ブラジルなどでの公演も成功させた彼は、ブエノスアイレスを拠点とした活動を開始。彼が作り出す音楽は、アルゼンチンやブラジルをはじめとする南米諸国の音楽のエッセ ンスはもちろん、彼の祖国トルコの音楽の根も随所に感じさせる、極めてクリエイティ ブかつ独特なものである。また優れた作曲家でもある彼の好奇心は、ジャズ、現代音楽、ワールドミュージックなど、常に幅広く新しい音世界に開かれている。
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前述した通り、山形での公演は岩川光氏とのデュオによるもので、ともに常識を逸脱した技量を持つ二人だけに、生演奏以外では味わうことができない、火の出る様にヴィヴィッドで、スリリングな素晴らしい公演でした。こういう迫力は生でしか、その場でしか決して経験し得ないものです。こういう高いレベルの生演奏を山形に招聘することは、我々のすべきことの一つだと思っています。
ステージをおりたセルカンは、とても気さくでフレンドリーな好青年でした。皆とよく話し、よく食べました。日本酒と台湾你好の料理を存分に楽しんでくれたと思います。
さて本日紹介するのは2019年の「Descalzo」というアルバムです。まずは強烈なテンションで始まる1曲目″Silencio Horizontal”。そして穏やかな寛ぎに満ちた2曲目″Columpio”へ。冒頭の緊張と弛緩とでその音楽に引き込まれてしまいます。ギタリストとしての驚異的な演奏はもちろんですが、作曲家としての品格やアイデア、そしてインテリジェンスも突出しています。パーカッション、チェロ、フルート等を交えた抑揚や陰影のある演奏は創造性に富み、渋い歌声も彼らしい味があります。超絶技巧のギタリストであるのみではなく、トータルな音楽家としての彼の魅力が濃縮されたアルバムです。穏やかな休日にちょっとスパイスの効いたセルカン・イルマスの音楽を楽しんでください。
(試聴)
追記:セルカンは昨年大病を患い、大きな手術を受け、我々もとても心配いたしました。その後は回復して現在は積極的に音楽活動を再開しているようです。これからの彼の健康とさらなる活躍を地球の裏側から願って止みません。