【愛知県一宮市】誰もが自分らしく輝けることを目指す「小さな芸術の森」
NPO法人「響愛学園」が運営する〈Kyoai小さな芸術の森〉は、「ミュージック」と「アート」の二つの柱を軸に、児童発達支援、放課後デイサービスなどを行う全国的にも数少ない子どもの療育(幼児〜18歳)に特化した施設です。
緑豊かな風景の中に溶け込むように建つ〈kyoai 小さな芸術の森〉。こちらでは日々、芸術を通じ、全ての人が自分らしく輝けることを目指す取り組みが行われています。
響愛学園は2010年、障がいのある方々のピアノ演奏の啓蒙活動として、国内外でコンサートを開催した経験を持つ代表の児島真里子さんが中心となり、全ての人にあらゆる表現の可能性を持つ「芸術の力」を生かして、誰もが輝ける社会を目指し設立されました。
愛知県内をはじめ、東京都府中市、兵庫県神戸市など全国に8カ所の施設を有しており、一宮市にあるここ〈kyoai小さな芸術の森〉だけでも、現在およそ90名の子どもたちが通っているそうです。
響愛学園の理事で事務局長の芹川亜紀子さんと、アート講師として子どもたちの指導にあたる鈴木学さんのお二人に施設を案内していただきながら、響愛学園が目指すもの、子どもたちと接するなかで大切にしていることなどについてうかがいました。
芹川さん「この建物は、真ん中が円形のアートホールになっていて、それを取り囲むようにアートとミュージックそれぞれの教室が並び、就労継続支援B型のアトリエと、その隣にカフェを併設しています。エントランスはアートギャラリーになっていて、おもに※PAMが行う事業のもとで活躍するアーティストたちの作品が常時展示されています。」
※PAM(パラ・アーティスト・マネージメント協会)
響愛学園が行う芸術的支援(児童発達支援・放課後等デイサービス)就労B型の事業とは別に、何らかの障がいを持つ人を対象に、音楽やアート活動を通して才能を見つけ出し活躍の場所をサポートすることを目的に立ち上げた一般社団法人。芹川さん、鈴木さんが理事を務める。
建物内をぐるりと見学し、さらに奥へと進むと、B型のアトリエ「ハミング」から楽しそうな笑い声が。中におじゃまして創作の様子を見せていただきました。
織り機を操り、色とりどりの糸で布を織るゆっこさん。その横では緻密なタッチのイラストや数字などを描くのが得意だという洸さんが、丁寧に彩色を施したカードを並べて見せてくれました。みんな、この小さな芸術の森で才能を花開かせ活躍するアーティストたちです。
ここで生み出される作品の多くが商品化され、雑貨を扱うショップで販売されたり、企業より依頼を受けて作品を制作したり、チラシや年賀状用のイラストを描く機会も増えているそうです。また、作品の良さを伝えながら商品かやノベルティとして使用していただけるようにプロデュースするなど、障がいのあるアーティストたちを紹介することにも力を入れています。
続いて案内してくださったカフェでは、ピアノの演奏が始まりました。
芹川さん「ご覧いただいたように、それぞれに自分の好きなこと、得意なことを表現することで社会と積極的に関わっていくことを目指しています。例えばこちらのカフェでは人と関わることが好きなメンバーが働いてくれています。ミュージッククラスで学ぶ子供たちによる演奏も披露していて、地元のお客様たちとの交流の場にもなっています。ここでは毎日のミュージックタイムに生演奏を聴きながらお食事を楽しんでいただいていますが、
〝今度いつ来てくれる?〟〝ピアノ演奏良かった?〟など、彼らの素直な質問にお客様もにこやかにお答えいただけるので、そんなシーンを見るととても嬉しく思います。」
障がいの有無にかかわらず、それぞれに合った創作、自己表現の方法を模索し、みんなの「輝ける瞬間」を見出すことに力を注ぎ続けているのだといいます。
芹川さん「私たちの役割は、それぞれ個性や特性に合わせた声かけで仕事の進め方や方法を見つけ出す、その一点にフォーカスしていると言い切ってもいいくらいです。コミュニケーションの方法はみんな違い、中にはまったく発語がない子もいます。どうしたいのかを聞いても明確に答えてはくれないので、根気よく向き合い続けなければいけません。やり方を探っていくなかで、本人にとって、これが楽しいと感じる瞬間が必ずあります。そんな時、私たちも大きな喜びを感じるのはもちろんですが、それ以上に、よかった!これで間違っていなかったんだ、とほっとしますね。」
互いの思いがぴたりと合う瞬間に生まれる作品には大きなパワーがある、と話すのは講師の鈴木さん。響愛学園で指導にあたる講師のみなさんは、鈴木さんをはじめ、全員が芸術大学や音楽大学出身の方だそうです。
鈴木さん「芸術には、基礎として必要な知識はあるかもしれませんが、作品そのものを見て感じる芸術の本質的な価値の部分は、受け取る側の感性の問題だと思うんです。僕自身、ここに来る前は福祉や障害児指導の知識や経験はありませんでしたが、彼らと接する中で人に境界線はなく、みんな違うということを実感するようになりました。僕だってそんな違いのひとつ。できることできないことはだれにもありますし、大切なのはそれをどのようにカバーして、その人のやりたいことを達成していくかということだと思います。」
芹川さん「いいコミュニケーションが生まれる環境づくりと、いい笑顔を引き出す工夫、その相乗効果が無限の価値につながります。私はどんな時もクリエイティブでユニバーサルな考え方ややり方が大切だと思っています。これっ!と思う方法を見つけられたら、それをまた他の人とも共感し合い、共有できること、そういうものを目指していきたいです。」
こうした視点のもとで生み出されるアートや音楽だからこそ、すべてが他のどこにもない唯一無二の価値になっていくのだと語るお二人。しかし、毎日の取り組みの中には私たちの想像を超える努力や大変さもありそうです。
芹川さん「大変なことも多いですが毎日楽しいです。私自身、B型の事業に携わるようになって自分の使命や目標がよりはっきりしてきたからかもしれません。障がいがある人の作品だからとか、そうでないとかではなく、すべての人が〝個〟であるだけ。そういう感覚がこれからのスタンダードになっていくといいなと思います。」
鈴木さん「彼らの才能や生み出すものは、アートの専門知識を学んだ僕たちにも真似ができない力と魅力があります。だからこそ、敬意をもってきちんとした形にプロデュースして社会とつなげていくのが僕たちの重要な役目だと思っています。背景やプロセスを含め、価値を伝えていきたい。これからはすべてにおいてそういうものが求められる時代になっていくのではないでしょうか。」
名称 | 特定非営利活動法人 響愛学園 Kyoai小さな芸術の森 |
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URL | |
住所 | 愛知県一宮市時之島妙光寺6-1 |
TEL | 0586-64-8491 |
備考 | 本記事にてご紹介した響愛学園の学生さんたち制作のグッズは、日本の手仕事から生まれる、生活道具の店 tsunagu 江南店(江南市江森町南78-1)の実店舗でも扱っております。 |