福井県内観光地を盛り上げる甲冑仲間を集めるため新栄商店街に出没中/王暁さん
移住者の声
福井の地域情報誌URALA編集長が、福井県内を飛び回り、気になる人にインタビューしていく企画です。第2回は福井県で甲冑を使ったボランティア団体設立を計画している王暁(ショーン・ワン)さんです。
甲冑愛・日本愛が止まらない!
「西洋の鎧(よろい)は全部オーダーメイドで、転んだら自分で起き上がれないくらい重くて不便なんです。一方、日本の甲冑(かっちゅう)は実は紐で結ぶようにしてどんな体型の人でも着ることができました。戦のときには貸し出し用甲冑というのも存在していたくらいです。こんなに利便性が高く、着ても飾っても美しいものはありません。しゃもじやトンボ、ムカデなどさまざまなものをモチーフにした個性的な兜(かぶと)も特長的で、それぞれ意味を持たせて作っています。そういったゲン担ぎというかウィットに富んだ感じがとても素晴らしいと思います。甲冑は刀から鉄砲へと武器が変わるたびに時代に応じて進化していきますし、着方の順番もあるんですよ。足から、それも左側から付けていくんです。その理由は……」。
甲冑の話をしだしたら止まらないほど、日本の歴史や文化への愛情があふれ出ている中国・瀋陽(しんよう)出身の王暁さん。現在所有する甲冑は14を数えているそうです。
「姫路城甲冑隊」に所属して甲冑を着てボランティアガイドをするなど、アクティブに甲冑と関わってきました。母親が日本人であることから何度か日本に訪れ興味を持って、その際にイギリスで読破したのが『古事記』と『日本書紀』の英語版です。
「両者を読むと記載に差があるんですね。こちらは載っているけどこちらは削除されているとか。その意味を知りたいと思ったのが日本への興味の始まりです」。
些細なことが積み重なって福井愛に
小さい頃からいつも何かに疑問を感じて、調べることを常としていました。10歳の頃に博物館で見たミイラに大変衝撃を受けて、なぜこういったものを残したのか俄然興味が湧き、ミイラ=エジプトという図式からエジプトの歴史を学び、大学もエジプト史を専攻します。
「でも18歳になって実はあのとき見たミイラはエジプトじゃなくてインカ帝国のミイラだったというのがわかったんです(笑)」。
知的探求心の強い王さんは単なる甲冑マニアではありません。そのバックボーンはきらめくようなハイキャリア。イギリスの最高峰ラグビースクールからオックスフォード大学へ、そして卒業後は中国外務省にて一等書記官を務めていたそうです。今は福井に移住して7年、中国と日本の企業の橋渡しをする仕事をしています。しかし、そもそも何故福井に?
「彼女が福井の人だからです」。日本人ならば「嫁を連れて来ればいいじゃない」と思いがちですが、王さんの生まれ育った地域では奥さんの家に入って暮らすことが多いそうです。神戸に住む王さんの両親も「電車で一本の場所だし近いからいいじゃない」と送り出してくれたとか。父親の仕事の関係で数多くの国で暮らしてきたから感じる距離感と価値観を垣間見た感じがします。福井に移住した頃は3週間おきに元々家がある神戸に戻っていたそうです。そこから変化が始まります。
「福井に帰ってくるたびにほっとするんです。何というか安心感があるんですね。本当に細かいんですが、都会ではエスカレーターの片側を開けるじゃないですか。そういうのって気忙しさの表れでもありますけど、福井ではそういうことがありません。そうした些細なことが積み重なって福井を好きになっていくんです」。
甲冑は記憶に残る旅にしてもらうツール
今では福井を愛してやまない一人。良さを聞けばきりがないくらい福井愛があふれ出ています。この良さを伝えたいと思い、ボランティアガイドの団体を作っていきたいと企画しています。その原型は「姫路城甲冑隊」での経験。
「甲冑隊の人たちは本当にボランティアで、姫路城に来られた方々を楽しませたいと活動していました。福井は素晴らしい歴史があるし、それが点で存在しているのではなく線や面で存在しています。だから一つの観光地でその場所だけを案内するだけでは1回で終わってしまいますし、ガイドをして他の観光地もおススメすることで、2回3回と福井に足を運んでもらうきっかけができる思います」。
甲冑を着るのはあくまでも観光客を楽しませる一つのツールで、本質は福井全県の愛を伝えること。姫路城ではかなりの外国人が甲冑姿に熱狂していました。やがて来る北陸新幹線で福井にも外国人が訪れる日がきっとやってきます。そのときに甲冑でおもてなしをして福井を記憶に残る旅にしてもらう、それが王さんの目標なのです。
今、仲間を集めるため、大好きな福井駅前の新栄商店街に出没中。「新栄にある立ち飲み屋『マスヤ』さんのようにいろんな方と話ができるような場が好きなんです。いろんな人生を聞けるのは自分のためにもなりますし、何よりも楽しいですから」。