【鹿児島県曽於市】包容力のある対話を通して、お互いに安心できる関係性を広げていく/橋口製茶舗 橋口まゆさん
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鹿児島県と宮崎県の境目に位置する曽於市財部(たからべ)町。この町で『橋口製茶舗』の一員として茶業に従事しつつ、曽於市内の同業種や異業種交流の対話の場作りをされている橋口まゆさん。そんな橋口さんから、財部町で暮らすことになった経緯や、ファシリテーションを用いた対話の場作りの活動に至った背景や想いを伺いました。
居心地の良い場所
しかし、家庭の事情で20歳の時に鹿児島へUターン。その後、派遣会社の仕事先で夫・利隆さん(以下:夫)と出会い、結婚しました。
夫の実家は曽於市財部町で茶業を営んでいたからか、
「農業は大変だし苦労するよ。」
「鹿児島市に住んでいる方が色々と便利なんじゃない?」
と周りから心配されたそうです。
それでも橋口さんの心の中に迷いはありませんでした。それには2つ理由がありました。
1つ目はお茶と向き合う夫の真摯な姿勢。そんな姿勢を見て夫に対して尊敬の念を抱いていたといいます。
そして、2つ目は夫の家族の優しさ。
「結婚してから未だに農家に嫁いだことについて「勇気があるね」と言われます。それでも、私は結婚する前から今も財部での暮らしは居心地良いと思っています。それは気遣いなく自然に家族の一員として接してくれる財部の家族のおかげです。」
財部へ嫁いだ後は、サービス業から一転し、お茶農家としての日々を過ごすことになります。
橋口まゆさん
家庭以外で不安を話せる人の存在と横の繋がり
お茶に関する知識や経験が皆無の上に、家族から何かしら指示が出るわけでもない。そんな状況で橋口さんが最初に考えたのは美味しいご飯を作ることでした。
「作業を頑張る家族や茶師が料理を食べて「美味しい!」と喜んでもらうことが、その時の私にとって一番貢献できることだと感じました。」
「実際に美味しそうに食べている様子を見て安堵したのを覚えています。そこから少しずつ状況を見極めながら自分の役割を見つけていきました。」
当時のことをそのように振り返ります。
そんな矢先のこと。
同業者の女性メンバーで開催する味噌作りに参加することになります。それは義母からの声かけでした。
それまで他の同業者と知り合う機会がほとんどなかった橋口さん。味噌作りを通して不安を話せる人の存在や同業者の横の繋がりを作ることができたといいます。
「義母が私に家庭以外の人と付き合うきっかけを与えてくれたから、他の同業者の状況を知ることができました。そして、少しずつ広がりもできてきて、家族以外にもわからないことを聞けるようになってきました。本当にありがたいことです。」
自身でそのような場を経験した後、他の同業者で不安や悩みを一人で抱え込んでいる実態もあると知った橋口さんは対話の重要性を考えるようになります。
ファシリテーションとの出会い
1つ目は県内の地域活動を行う人たちの集まり。参加者の熱に圧倒され、自分と向き合った結果「私にはお茶という武器がある。」と強く思えるようになったといいます。
2つ目はファシリテーションとの出会い。
「こんな世界があるんだ。」
知人の勧めで参加したファシリテーション講座では、お互いをアダ名で呼び合って世代ギャップを埋めたり、お互い心を開くことで職種関係なく温かい対話をしたり、橋口さんにとって衝撃を受けることばかり。この学びを農業に派生していこうと決意します。
そこで財部でお茶農家として働いている女性の茶話会を開催することに。主催は橋口さん、そして、異業種の女性の集まりである『soo tea trip』のメンバーたち。
お茶を飲みながら、お互いの仕事で不安に思っていることを共有する場にしたそうです。
お茶を飲むことで雰囲気を和らげ、異業種のメンバーが入ることで違った視点で話をすることができ、参加者は心を開いて色々話してくれた場になったといいます。
外で誰かに不安を話す機会がなく、そのままにしていたことが誰かと共有し共感することで安心に繋がる効果もあったそうです。
自分のフィルターを通して伝えたいこと
「“嫁ぐ”以外にも農業の選択肢が出てきたことで、場の価値や可能性が変わってきているのでは?」と橋口さんは感じているそうです。
「財部では農業を生業としている年齢層は60代以上が多いので、若い世代の人たちが話し合い等で意見が言いづらい部分もあるかもしれません。だから、若い人たちの新しい考えを引き出せるような安心できる場を作っていきたいと思っています。」
橋口さんは仲間からの依頼で曽於高校にて授業を行っています。その中で大切にしていることは“自分の正直な心のフィルターを通して伝える”こと。
橋口さん自身、多くの人が今までかけてくれた時間や言葉、想いに救われたといいます。
だから、その学びを“ありのまま”伝えることで、高校生にも自分なりのフィルターを持ってほしい。そんな想いで授業に望んでいます。
それは、農家の人たちに対しても同じ。世代が自分より上の人たちに対しても、自身のフィルターを通した想いを伝えることで、若い人たちが少しでも動きやすい環境にするように心がけているそうです。
「対話を通して「助けて」「お願い」を言い合える関係性は常に大事にしていきたいです。でも、自分の想いを言葉にすることが苦手な人もいます。だから、言葉じゃなくてもお互いハグし合って、包容力のある場を身近に少しずつ濃く作っていけたらと思います。」
写真提供:橋口まゆさん
橋口さんが身近な人たちと作り上げる対話の場。
それは何かあった時に気軽に自分の想いや状況を伝えられる温かい関係性の輪が広がっていくように思えます。
その先に地域の一人一人が安心できる日々の暮らしが作られていくのではと実感しました。
屋号 | 橋口製茶舗 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県曽於市財部町南俣11377 |