【愛知県豊田市足助町】「はじまりapartment」〜1ヶ月間のシェアハウスからはじまったもの
プロジェクトレポート
自然豊かな山間のまち、豊田市足助町の「地域核エリア再生事業」の一環として行われた地域滞在プログラム「はじまりapartment」は、県内外から集まった9名の若者たちが1ヶ月間のシェアハウス生活を体験し、まちで出会った人たちと積極的に交流を重ねながら地域の課題について考え、それぞれの持ち味やスキルを生かしたユニークで有意義な企画の数々を形にしました。
県下屈指の紅葉の名所としても知られる豊田市足助町。山の木々が色づき始めた頃にプロジェクトの活動拠点となった「小松屋」を訪ね、「はじまりapartment」企画・運営統括の林厚見さん、現地での管理を担う株式会社セミコロンの後藤あゆみさんのお二人にお話をうかがいました。
――参加者公募により行われた今回のプロジェクト、どんな方々が参加されたのですか?
後藤:建築を学ぶ学生やイラストレーター、デザイナー、鍼灸師、俳優、管理栄養士など、さまざまな経験やスキルを持つ幅広い顔ぶれのメンバーが集まりました。
21名の応募者の中から選出し、当初予定していた8名から一人増やして最終的には9名になりました。
――スタート時に、「はじまりapartment」として最終的に目指す目標のようなものはあったのでしょうか。
林:具体的にこれをして欲しいとか、しなければならないということはなく、まずはまちとの間に縁をつくり、今後に繋いでいくことが一番の目的でした。
僕たちはこのプロジェクトの前から足助のまちで何年かにわたりお手伝いをさせていただいてきましたが、行政側が大きな投資をして人を動かすというのではなく、住民側からのアクションによりボトムアップという形でまちを良い方向に動かしてもらえたらということを期待されてきた背景があります。
後藤:それを踏まえて今回、「はじまりapartment」として2つの課題を掲げて活動をスタートしました。一つはまちの人たちの思いや課題を理解し、地域のポジティブな未来につながるプランを考える。もう一つはここでの暮らしで感じたことや日々の発見を何らかの形で発信すること。滞在期間中、具体的に何かを形にしてもいいし、企画やアイデアを考えるだけでもいい。もちろんリモートワークの拠点としてここで働きながら1ヶ月滞在するだけでもいいという自由な関わり方で滞在してもらいました。
――はっきりとした目標がないと、メンバーのみなさんは自由な反面、戸惑いも感じられたのではないですか?
林:確かにそういう部分もあったと思います。ただ、「はじまりapartment」のコンセプト自体はまちの人たちに好意をもって受け入れていただけましたし、僕らとしては1ヶ月の滞在期間にまちへの愛着を感じてもらえるようになるだけでいいと思っていました。しかしメンバーたちの間には、受け入れていただいたことで何かしら成果や結果を出さなければというプレッシャーもあったようです。そういう葛藤に対して、みんなとても真剣に対峙してくれましたね。
後藤:メンバーのほとんどが初対面でしたが初めからすぐに打ち解けて、シェアハウスのリビングでは夜ごと深夜まで熱い議論が交わされました。そういう中から生まれたアイデアや企画もいくつかあります。
――具体的には?
後藤:まずはどんなメンバーがいてここで何をしているのかを知ってもらおうと、イラストレーターと編集者の二人が『はじまりマガジン』という壁新聞のようなメディアを作りました。メンバーを一人一人似顔絵つきで紹介したり、日々の出来事を漫画にしたり。道ゆく人たちにも見てもらえるように小松屋の前の外壁に貼り出して同時にインスタグラムでも発信。期間中に3号発行しました。
後藤:また、建築学科の学生のメンバーは「聞き屋」というユニークな企画を行いました。手作りの屋台を曳いてまちを歩き、出会った人のお話を聞くというものです。
じっくり向き合って話を聞いてみると、食事ができる店が少ない、車がないと買い物が不便など、まちの人たちが日頃感じている課題がいろいろ見えてきて、そういう声がヒントとなって別の新しいプロジェクトを考えるきっかけにもなりました。
――直接人に会い、話を聞くことの大切さも、まちに滞在したからこそ感じられたことかもしれませんね。
後藤:そうですね。最初はとても勇気がいったと思います。それでも「小松屋」さんが昔からまちの人たちに愛されてきた馴染み深い場所だったこともあり、「小松屋さんでシェアハウスしてます」と言うと「ああ、あそこにいる人たちね!」とすぐに受け入れてもらえたのはとても良かったと思います。
後藤:そして鍼灸師と管理栄養士、二人のメンバーがタッグを組んで行った「鍼と箸」というイベントは、高齢者の多い山間のまちということもあり、非常に好評でした。二人もできれば今後も継続したいと言っています。
後藤:二人はもともと知り合いどうしで、鍼灸師は直接患部に触れて治療を行うことはできるけれど、食事など普段の生活習慣まで管理することができない、逆に管理栄養士は食事の指導などはできるのに体に触れる治療はできないと、お互いにジレンマを感じていたようです。今回、それぞれのスキルを生かしてこの「小松屋」を使い、両方を同時に行える場が実現しました。
他には俳優とクリエイティブディレクターの二人が小松屋のカウンターでカレーうどんとチャイを振る舞う期間限定のお店を開いたり、デザイナーがまちのお店のロゴやのれんをデザインしたり。それぞれにできること、やりたいことを形にできたと思います。
――活動を終えて報告会も開かれたそうですが、1ヶ月を振り返ってみてどんな意見や感想がありましたか?
後藤:短い期間でしたが地域の人たちに温かく受け入れていただき、参加者たちみんなが足助に愛着を感じるようになったと言っていますし、また折々に足助に戻ってきたいという気持ちも芽生えたようです。しっかりと関係性が築けた結果として、今後は離れた場所からでもまちのためにできることがいろいろありそうという可能性を感じたメンバーもいます。
実際に移住して、事業や仕事として成り立たせていくにはまだまだ現実的な面で難しい部分もありますが、確実にまちとの間に縁と愛着が生まれ今後も何らかの繋がりは続いていくのではないでしょうか。まさにここからが「はじまり」ですね。
名称 | はじまりapartment |
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URL | HP:https://hajimari-apartment.jp |