【福島・郡山】食を通して記憶にそっと挟まる「栞」をつくる。「工房栞」國分美枝子さん
インタビュー
たくさんの野菜を使ったお料理と華やかなデザートが食べられる「工房栞」。食材を一からつくったり、出張調理をしたり、どうやらただのカフェではなさそう。その中身に迫りました。
「工房栞」は元々、私が通う福島大学近くのコンテナに出店をしていました。私もお客さんとして一度、訪れたことがあります。
2021年8月、郡山に店舗をオープンされたということで、店舗に足を運び、店主の國分美枝子さんに話を伺ってきました。
工房栞をひらくまで
もともと料理や畑作業が好きだった國分さん。生まれ育った郡山で自分のお店を開きたい想いがありました。そしてあるとき、知り合いの紹介で、福島県福島市金谷川にある、飲食店などのチャレンジショップとして活用できるコンテナの存在を知ります。「じゃあ、ちょっとやってみよう!」と、ポップアップ的に、自分の料理をふるまうようになったのです。これが「工房栞」のはじまりです。
地元郡山でお店を開く場所を探してましたが、なかなか見つからない状態。そんなとき、郡山に本社を持つ住宅メーカー「四季工房」の方が、國分さんが出店するコンテナにたまたま来店したそうです。お話をしていくなかで、なんと四季工房のそばの空き家を貸し出してもらえることに!そして、2021年8月8日、ついに地元郡山で店舗をオープンしました。
ここは、「カフェ」ではなく「工房」
「工房栞」という名前は、コンテナでお店を開くことになったときにうまれました。「カフェ」ではなく「工房」という名前をつけた理由を語っていただきました。
「いろんなことするために、「カフェ」とはつけていません。カフェってくくると、この場所のこの料理と限定されてしまう気がして。この場所を飛び出すことだってありますし、料理だけではなく、食材をつくるのも、お客様に楽しんでもらう企画を考えるのも含めて「工房栞」です。」
料理をつくるだけではない「工房栞」。國分さんは定休日には畑に行き、食材を一からつくっています。店内にある薪ストーブに使う木の薪割りも、自分の手で行うんだとか!そのすべてをつくる「工房」。お客さんに楽しんでいただけるよう、Instagramで、畑作業の様子や調理の様子をライブ配信することも。どこで採れたのかわからないものはなく、すべてのストーリーを語ることができる透明性を大切にしています。
料理をふるまうのはお店の中にとどまりません。「出張調理」というスタイルで、ご要望があれば料理をご家庭や会社までつくりに行きます。郡山市内はもちろん、県内幅広く出張しているそうです。
野菜と向き合うことで生まれる料理
「工房栞」のメニューは、季節によってどんどんと入れ替わっていきます。
メニューをどんなふうに考案しているのか尋ねると、國分さんは「野菜が訴えかけてくる」と言いました。
「スーパーとかって1個1個食材とか個包装されてるじゃないですか。あんまりあれ見ても、こういうふうにしてあげたいとか思わないんですけど、畑でなってる野菜はすごく美味しそうに見えて、「こうやったら美味しそうだな」とか、「これしてみたい!」みたいな感じでアイデアが湧いてくるんですよね。」
これは、自分の手で畑を耕し、日々野菜と向き合う國分さんだからこそ湧いてくるものではないでしょうか?そんな國分さんの料理は、いい意味で野菜に左右されています。
「うちはよくメニューが変わるんですけど、それは季節に沿ってやってるからなんですよね。ハウスで栽培されているものは年中食べられるけど、旬じゃないものを、わざわざ高いお金出して仕入れるよりも、心もおなかも満足する季節の料理を味わってほしいです。
「これいつやるんですか?」って言われると、「食材がないとこれってつくれないからなんとも言えないな」とか。「これっていつまでやるんですか?」って言われると、「う~んとね、野菜に聞いてほしい」みたいな。笑」
記憶に「栞」が挟まるように
「工房栞」の「栞」。よく、國分さんご自身の名前からつけたと思われるそうですが、そうではありません。この「栞」に込めた想いを教えていただきました。
「「工房栞」の「栞」は漢字の通り、本に挟む「栞」の意味です。「こういうことあったよね」とか、「あそこでまた食べたいよね」とか、人の記憶に挟まる栞のようなものを届けたいという意味で、この名前をつけています。」
國分さんは、お客様に美味しい料理を食べていただくことはもちろん、お客様との会話も大切にしています。
昨日採れた野菜について話したり、何気ない世間話をしたり。コンテナ時代からのお客様も、福島市から郡山の店舗まで来てくださることも多々あるのだとか。福島市と郡山市、車でも1時間かかるこの距離を越えて足を運ぶのは、「美味しいからまた食べたい」という思いはもちろん、「國分さんに会いたい、話したい」という気持ちがあるからだと思います。
コンテナ時代には、お店が混雑してくると、常連さんが配膳をお手伝いすることもあったそう。郡山に店舗をオープンしてからも、「お昼は混んで大変だと思って時間ずらして来たよ」という声をかけてくれるお客さんが多いそうです。この優しい配慮も、きっと何気ない会話をできるような関係性だからこそ起こること。お客さんも「工房栞」という優しく温かい空間をつくりあげていく一員なのです。
美味しい料理を食べる時間。そして、國分さんと楽しくお話する時間。そして、自分自身もこの空間をつくりあげる一員となる。これが、栞のように、みなさんの記憶に挟まって大切な思い出となるのでしょう。
取材中、お店に忘れ物をしたという方が訪ねて来たのですが、國分さんは、「待ってましたよ~!」と笑顔でそのお客さんのもとへ駆け寄りました。その一瞬だけで、國分さんとお客さんのあたたかい関係性が伝わりました。
生活の中に「工房栞」が溶け込む
國分さんが目指すのは、工房栞を訪れた人たちの健やかな暮らしを後押しするきっかけの場。来てくれた方が家に帰ってからも、毎日続いていく生活の中で、食事や健康を気遣うようになったら嬉しいと語ります。
「健康にいい食事は、続けることが何より大事だと思っています。何だかわからないけどとりあえず健康にいいから食べるのではなく、何がいいのか理解できてることが大事かな。来てくださる方が自分に合った食事を理解することや、継続していくことを、少しでも手助けできたらいいなって思います。」
そういった想いから、「この料理どうやってつくるの?」とお客さまに聞かれたら何でも答えるようにしているそうです。メニューにないものでも、余った野菜の活用法を教えることも。つくり方を聞いたお客さまが、実際につくって持ってきてくれたり、Instagramで写真を送ってくれたりするのだとか。
「工房栞」は美味しい料理を提供してくれるだけの場所ではありません。國分さんが待っていてくれる場所。あたたかく迎え入れてくれる場所。そして、暮らしにまるごと寄り添ってくれる。そこには、「店主」と「お客さん」を超えた関係性が感じられました。
この日、取材というより、國分さんと楽しくお話をしてきたという感覚でした。帰るのが名残惜しかったくらい。取材後、外は真っ暗。「気をつけて帰るんだよ~!」と優しく手を振る國分さん。寒い中でしたが、こころがほっこりしました。今年の冬は、ここでビーフシチューを食べながら國分さんとお話をしよう。そうわくわくしながら帰りました。
ぜひ、みなさんも「工房栞」へ、心をあたために来てみてください。
「工房栞」さんが出店していたコンテナについての記事はこちらから。
【福島・金谷川】何でもできるコンテナがある。金谷川、面白いかもしれない。「かがや区」佐藤直也さん 齋藤哲也さん
名称 | 工房栞 |
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URL | Instagram:@koubou_shiori |
住所 | 福島県郡山市南2-84 |
TEL | 080-5846-3851 |
営業時間 | 11:30~19:00(ラストオーダー18:00) |
定休日 | 水・木・第1.第3金曜日 他不定期休み有 |