【山形・最上町】再生可能エネルギーに取り組む!/丸徳ふるせ・菅徳嘉さん(後編)
インタビュー
面積の80%以上を森林が占める山形県最上郡最上町は、バイオマス産業都市の認定を受け、さらに2050年までにCO2排出実質ゼロをめざす「ゼロカーボンシティ」の実現に向かうと宣言したまち。先進的な取り組みを進めるこのまちには、創業以来100年以上にも渡って、地域に生きる人たちの暮らしを支えてきた企業があります。それが、丸徳ふるせです。
生活雑貨や必需品の行商が原点であるという丸徳ふるせは、時代とともに変化するひとびとの暮らしに寄り添いながら、ガソリンスタンド、ホームセンター、産直施設など事業領域を広げてきました。そして2011年の東日本震災以降は、木質バイオマスを利用したストーブや燃料の普及にも取り組み、さらに現在では、地域熱供給システムの運営管理事業にも携わっています。
現在に至るまで止まることのないこうした再生可能エネルギーの取り組みについて、株式会社丸徳ふるせ代表取締役・菅徳嘉さんにお話を伺いました。聞き手は、やまがた自然エネルギーネットワーク代表で東北芸術工科大学教授の三浦秀一さんです。
木質バイオマスの普及そして
地域熱供給システムの運営管理へ
三浦:木質バイオマス事業を始めてからの展開について、改めて、より具体的に、教えてください。
菅:薪ストーブの販売は40年ほど前から行っていましたが、2011年からは地元の木材を原料とした薪の製造と販売をスタートさせました。そして2014年からは、前述しましたとおり「ペレットマン最上店」を、住まいる館マルトクという既存店舗内にオープンしました。これにより、ペレットストーブの販売、設置、木質バイオマス燃料の供給といったサービスを始めたわけです。さらに2015年からは、薪とペレットの製造のためのペレットプラントを立ち上げ、地域の木材を原料とした木質燃料ペレットの製造を開始しました。
そして2016年からは、「最上町若者定住環境モデルタウン」において導入されている木質バイオマスによる熱供給システムの管理運営を、町からの業務委託を受けて行っている状況です。
この「最上町若者定住環境モデルタウン」というのは、合計23世帯が暮らす住居エリアで、木質バイオマスを燃焼させてつくった熱によって全世帯の暖房と給湯をまかなう仕組みが取り入れられています。ここに暮らす家族は、暖房や給湯にかかるエネルギーを地元原料の木質バイオマス燃料から得るという生活をしているわけで、しかも、暖房費や電気代といったコストも非常に小さく済むというメリットを享受できます。このモデルタウンに隣接した地域熱供給施設で、わたしたちはボイラーを管理し、各家庭に暖房とお湯が適切に供給されるようコントロールしています。
設置されているボイラーはどれもオーストリア製のもの。チップボイラー、ペレットボイラー、薪ボイラーという燃料が違う3台のボイラーを並列に運転させています。燃料となる木製チップもペレットも薪もこのまちの木材を原料としていますから、地産地消のエネルギーです。
オーストリア製や海外の他の国のボイラーを導入している事例は全国的にもたくさんありますが、これを24時間365日管理するヒーティングネットワークシステムにSCHNEIDというオーストリアのメーカーのものを導入しているのは日本で唯一ここだけです。わたしたちが最も重要だと思っているのは、じつはこの制御システムの存在です。これがあるからこそ、地域へのエネルギー供給を経済的、安定的に保つことができている、というわけです。
オーストリアから直接学びながら
メンテナンスのノウハウを獲得
菅:どんなに優れたものであってもトラブルはつきもの。日常のなかではなにかが起きます。とはいえ、エネルギーのトラブルが起きてしまえば、暖房やお湯が供給されない事態となるわけで、それはもう家庭にとっては死活問題です。そのとき、「木質バイオマスエネルギーだからごめんなさい」という言い訳は許されないと思います。わたしたちのような小さい会社であっても、もしなにかあればすぐにお客さんのところに駆けつけて絶対になんとかしなくちゃいけないし、お客様が安心して生活できる状況を守っていかなくてはいけないんです。
三浦:安心のインフラとなるためには、きちんとした湯守がいて、しっかりと管理してくれたりメンテナンスしてくれたり、もしなにか問題が起きたらすぐにバックアップしてくれる存在が非常に重要なわけですね。
菅:わたしたちの場合は、この制御システムがあるおかげで、パソコンの画面上で、どの家庭にどれだけのお湯が使われているか、トラブルはないかというのが、どこからでもリアルタイムでわかります。もしなにかあれば、すぐに対応することができますし、わからないことが生じた場合には、オーストリアに直接連絡をとって問題解決を図ることも珍しいことではありません。
コロナ禍になる前、わたしは半年に1回くらいのペースでオーストリアに行き、ボイラのメンテナンスやプログラムのトレーニングを受けてきました。やればやるほど知識がつくので、行くたびに新しい課題が見えてきますし、たとえシステムのロジックの詳細までは理解できなくても、経験を積むことで感覚的に掴めることも増えてきます。そういう積み重ねがノウハウの厚みになっていくのです。いまのわたしにとって、ヨーロッパの木質バイオマスボイラーについて「わからないことがあったら、あいつに聞いたらわかる」と思ってもらえるくらい、ヨーロッパのスタンダードを知り尽くした存在になる、というのがひとつの目標になっています。
木質バイオマスによるエネルギーの
裾野を広げる役割を果たしていきたい
菅:こうした木質バイオマスを利用した事業や地域熱供給の管理業務は、同じことをすれば、他のエリアにも広げていけます。ですから、もしこういうことをやりたいというひとが他の県やまちで手を挙げたら、トレーニングや情報を共有することによって、うまく展開できるだろうと思います。
実際いろいろと多方面から実践的な内容の相談事をもらうことも増えてきました。たとえば、チップボイラーのチップは水分の含有量が多いとトラブルに繋がるケースがあるのですが、「そういう問題を、最上町ではどうしているの?」っていう問合せを山梨とか岐阜の事業者の方からいただきました。それに対して、特効薬みたいな回答があるわけではないので、一緒に考えたり議論したりしています。あるいはまた、地域熱供給というのはいわばエネルギーの6次産業化と言えるものですが、これをいろんなエリアでやっていって、それぞれの経験値をみんなで共有するようなことができれば、ノウハウもますます蓄積され、より安定的なインフラにもなり、地域に雇用を生みだすことにも繋がっていくでしょう。
わたしたちは、薪やペレットにしても、ただ作るだけでなく、工業製品のような高品質さをめざして製造しています。薪の乾燥には2年もの時間をかけます。もちろんそのぶんコストがかかりますが、乾燥に時間をかけて含水量をしっかりと下げることで、薪ストーブユーザーさんに高品質な薪を提供できます。わたしたちはエネルギーを供給する事業者として、石油であろうと天然木質バイオマスであろうと、お客様に安心して使ってもらえるよう安定した品質のものを供給することが大切だと考えているんです。
木質バイオマスボイラーについても、これからいかにコストを抑えたシステムをお客様に提案できるのか、ということが重要になってくると思います。「木質バイオマスのボイラーでつくったエネルギーなら、コストも軽減できるし、メンテナンスも楽だよ」って言えるようになってはじめて、裾野が広がっていくのではないでしょうか。木質バイオマスという再生可能エネルギーは、バイオマス発電とか洋上風力のような派手さはないですが、一般のひとが使える伸び代がある、というところがいいところだと思います。そこの部分でしっかりと裾野を広げていくというのがわたしたちの役割だと考えています。
とにかく、これから大切なのは、継続していくことです。続けていくためには体力がいります。会社としての体力です。なんとかバランスをとりながら、この最上の地で、お客様のためにやれることはなんだろうと考え続けながら、わたしたちがやるべきことを継続していきたいです。
丸徳ふるせWebサイト:https://furuse.co.jp/
reallocal「再生可能エネルギーに取組む!(グリーンエネルギーフロンティア)」シリーズ
冊子「やまがたの自然からエネルギーを作るやまがたのひと」(PDF版)
text : 那須ミノル
photo : 根岸功