【鹿児島県出水市】ミツバチが運んでくるのは恐怖ではなく新しい価値観や人の輪。そして、無限の可能性/かごしま蜂針療法研究所 福井隆司さん
インタビュー
鹿児島県薩摩半島の北端に位置する出水市野田町。『かごしま蜂針療法研究所』の養蜂家でもあり『日本アピセラピー協会』・理事の福井隆司さんに、このお仕事をされるようになったきっかけやミツバチのことについて話を伺いました。
ミツバチは怖くない
地元・出水の高校を卒業後、会社員として県外の企業へ就職された福井さん。
就職して数年経った時のこと。神経痛持ちだったお父さんが近所の人から「蜂の針が神経痛に効く」と耳にし、実際に処置してみたところ神経痛が完治したといいます。
そこから、お父さんは当時勤めていた職場を辞め、蜂針療法(アピセラピー)の道へ。そういった背景やスポーツ選手の体調管理等の仕事をしたい気持ちが元々あったので、お父さんと同じ道を歩む決意をすることになります。
会社を退職後は千葉の養蜂家の下で、蜂の生態や蜂針療法について1年間学びました。
生き物を扱うため、天気や季節等に左右される世界。ミツバチの飼育数や蜂蜜の採取量も日々の出来事で変化することを肌で感じた1年だったといいます。
1年後、出水へUターン。お父さんの手伝いをしながらアピセラピー協会に所属し、研修でドイツへ行くことも。ドイツでは福井さんの価値観を揺るがす出来事が起きました。
「日本ではミツバチに対して「危ない」「逃げなさい」と教わりますが、ドイツでは真逆でした。」
「ドイツでは「ミツバチがいる場所は花や水が綺麗なんだよ」と教わると聞き、カルチャーショックを受けました。」
そこから日本人のミツバチに対する恐怖感を払拭したいと思うようになり、様々な取り組みも行っていくようになります。
ミツバチが教えてくれる新しい価値観
福井さんは商品加工や施術以外にも蜂蜜搾りといった体験学習や紙芝居を活用したミツバチの生態を伝える活動を行っています。
どちらも子供たちを対象にした内容ですが、意外にリアクションが大きいのが親御さんたち。大人でも知らない内容ばかりなので、のめり込んで話を聞いてくれるといいます。
最近は出水市内の街中でも活動を展開。
その1つが『千宝の湯』の屋上で蜂を飼ってハチミツを採るプロジェクトです。
『銀座ミツバチ物語–美味しい景観づくりのススメ–』(著 田中淳夫)の内容を参考に運営者へ提案し、一緒に取り組むようになったとのこと。
『千宝の湯』の周辺にはミカンの木がたくさんあり、ミツバチがその木から集めた蜂蜜を販売しました。
「身近な場所でもこんなに蜂蜜が採れるんだね」
「味がサッバリしていて美味しい」
そんな嬉しい反応が多くのお客さんからあったといいます。
他にも『すみとカフェ』と連携して商店街周辺に咲いている桜レンゲと呼ばれる花の近くに蜂の巣箱を設置し、そこでも蜂蜜を採取しました。
それに一番驚いたのは商店街近辺に住んでいる人やお店の人でした。
「商店街はお店に目がいっても、通りに咲いている花には目がいくことは中々ないと思います。それは、地元の人にとって、その光景が当たり前だからかもしれません」
「温泉の屋上や商店街の取り組みで、ミツバチを通して地域に対する見方も変わったと思います」
ミツバチを通して体を守る
アピセラピーとは生きた状態のミツバチから針を抜き、その針と蜂針液を使った行う療法です。
「施術に使用するミツバチは健康状態の良いものを」という想いからミツバチの育成から携わっています。
蜂針を刺すといっても体に悪い成分はなく、体に優しい成分です。肌に刺した後は、血行が良くなりタンパク質が作られます。
そこから組織が壊れ、それを修復するためにタンパク質が集まりコラーゲンができ、免疫力が活性化されるというのです。
様々な効能もあり、通院して調子が良くなった人たちから広がり、今では患者さんは小さい子供から高齢者までいます。中には20年以上通っている方も。
「患者さんの中には『ここに通っているからこそ毎日元気に過ごせている』とおっしゃってくださる方もいて、そういった言葉がとても励みになっています」
「これからは治療ではなく予防の時代だと思っています。自分の体は自分で守っていかないと。僕はそのお手伝いができれば嬉しいです」
そんな福井さんは今年に入ってから新しいサービスを展開しています。きっかけはお母さんとの何気ない会話から。
お母さんは健康のために毎日蜂針を顔に刺していたのですが、数日刺せない日が続くと肌に弾力がなくなったといいます。
調べていくうちにコラーゲンが肌の弾力を作っていることが判明。そこで、ニキビ・肌トラブル・肌弾力改善等の目的で「1ヶ月刺し放題」と称し、美顔サブスクのサービスを始めることになったのです。
ミツバチは人に近い存在
『かごしま蜂針療法研究所』の看板は数字の8で表現されています。福井さんを初めて訪ねて来る人は、その看板を目印にやって来るそうです。
単純に蜂(ハチ)と数字の8をかけたみたいなのですが、最近は違った視点で捉えているといいます。
「数字を横にすれば無限大のマークになります。だから、無限の可能性や繋がり等、ミツバチをきっかけに色々広がっていきそうな予感がするんです」
「蜂の巣にある一つ一つの穴は六角形の形をしています。それは人間の身の回りの技術でも、強度の面等で取り入れられたりしているそうです」
「蜂はそれを人間が生まれる前から作り出しています。食や健康だけではなく、知恵までも人間に提供していて、昔から人にとって非常に近い存在なんですよね」
福井さんは会社員時代に海外へ長期旅行をする機会がありました。その時に触れた異文化の価値観によって自身の人生を大きく変えることができたと話します。
地元に住んでいると異文化に触れる機会は中々ないかもしれません。でも、それを体験した人とミツバチを通して違う価値観に触れる。
そうすることによって、ミツバチに対する怖いイメージの払拭だけではなく目の前の物事に対する見方が変わるかもしれない。
そんな経験を地元の子供たちにできるように貢献することが自分の夢だと語っていました。
「それを実現するには僕一人では限界があります。自分に手を差し伸べてくれる街の人やご縁で広がっていった人たちと一緒に少しずつ形にしていきたいです」
「怖い」とイメージを持たれがちのミツバチ。
でも、実際はそうではない。僕たち人間に多くの恵みに提供をしてくれる優しい存在であることを感じました。
そして、一方的なイメージだけではなく、もう少し物事に触れることで物事の本質を見極めていこう。そう思えた時間でした。
屋号 | かごしま蜂針療法研究所 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県出水市野田町上名4272
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