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越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!

体験プログラム

2022.04.09

「日常に触れる旅」と題して、福井県丹南地域のローカルトライアルツアー第9弾を紹介します。アーカイブはこちらからどうぞご覧ください。

こんにちは!すっかり福井暮らしも板についてきたreal local福井ライターの牛久保です。ここ数年、私は越前海岸の水仙畑のある風景にすっかり魅せられてきました。水仙は福井県の県花であり、越前海岸の水仙畑は冬の福井の風物詩として福井県民に親しまれています。2021年にはその景観が国の文化的景観にも指定されました。※越前海岸水仙畑についてはこちらから。

今回のローカルトライアルツアーは、そんな越前水仙を軸にしたツアー。越前焼の花瓶をつくって、その後花瓶に活ける水仙を摘みます。それではローカルツアーにレッツゴー!

オリジナルの越前焼花瓶をつくろう

越前町に根付く越前焼は、日本に中世から現在まで続く代表的な6つの窯元「六古窯(ろっこよう)」の1つに数えられます。越前焼は古くは壺や甕、すり鉢などを中心とした人々の生活に欠かせない生活雑器と呼ばれるものを中心に制作されていました。現在は越前焼の地では、越前瓦や陶芸家の方々による多様な作品が生み出されています。※越前焼についてはこちらのツアー記事からどうぞ!

まずは越前陶芸村にある福井県陶芸館で陶芸体験!オリジナルの花瓶をつくります。

最初に越前焼の作り方の説明を受けます。マスコットキャラクターのつぼにゃんが映像で楽しく越前焼の作り方をレクチャー。担当のスタッフの方が優しくサポートしてくれるので初心者でもリラックスして作品づくりができます。

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つぼにゃんとお姉さんのレクチャーにみなさん真剣に耳を傾けています。

今回のローカルツアー参加者は、腕に自信あり!手先が器用なお三方です。
まずろくろに粘土を切り出して設置します。わきをしめてしっかり固定。各自、土と向かい合います。みなさん緊張の面持ちです。

越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!

土台が決まったら、粘土を縄状にして徐々に高さを出していきます。外側につけすぎると崩れちゃうので要注意!

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最初は「気持ちいいー!」「他では味わえない感覚だよね」と和気あいあいとしゃべりながら。

越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!

スタッフの方に「どの工程が一番むずかしいですか?」と伺うと、「薄く作ること、高さを出してまっすぐ作ること、厚みをそろえて積み上げていくこと、この3点がむずかしいですね」との回答。
みなさん、工程が進むにつれ、集中して口数も少なくなっていきます。

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最後に自分たちの好きな模様をつけて、切り取れば体験終了です!これから焼き上げて、完成した作品ができるのはおよそ45日後。ゆっくりと時間をかけて焼き上げます。

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焼き上がりは一回り小さくなるので、一回り大きくつくるのがポイント。焼いても薬がかかるので厚みは殆ど変わりません。

小さい子の体験から、芸術家まで集う越前陶芸村

参加者のみなさんが制作中にスタッフの方たちにお話を伺いました。
親子でつくるなら未就学児でも体験できるとのこと。日頃から粘土遊びをやっていると感覚がつかみやすいから小さな子のほうが上手な時もあるそうです。

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置物つくるのは小さいお子さんから可能。シーサーつくりなど年間通じて体験ができます。

ここ越前陶芸館では、季節ごとの体験で1年通して楽しめるワークショップを企画しています。2021年の4月には「妖怪コンテスト」を開催しました。つくるだけではなく、コンテストにしたことがポイント。SNSにUPして一番いいねが付いた人が優勝です。

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妖怪は想像力の塊。参加者にお子さんが多くて思いもつかないようなオリジナル妖怪も。

スタッフのみなさんは、それぞれ得意な分野があるとのこと。立体が上手な人、造作が上手な人。共通していることはみんなつくることが好きだということです。

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今回花瓶づくりをサポートしてくださったスタッフの馬田裕子さん。笑顔がステキです!

陶芸ははまりだすとやめられないと話してくれたスタッフの方の話が印象的でした。とにかくこだわりはじめると際限がないそう!
例えば陶芸家の方になると自分でつくった薪窯で作品を仕上げます。薪窯は2、3日寝ずに番をしなければいけないけれど、焚き方で仕上がりが大きく変わります。窯変(ようへん)と言って、入れる薪や火の具合で窯の中で予期しない釉薬(ゆうやく)の変化が起こることも。

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陶芸館のリーダーは薪窯で焼くとのこと(取材時は不在)。「同じ薪をくべていても同じにはならない。むずかしいけれど面白い」

山に行って木を切る、土を掘ることからスタートする人もいるそうです。うーん、陶芸の世界は奥が深い!

水仙畑、南越前町糠(ぬか)地区の現状を知る

次に越前町から場所を移動して到着したのは、南越前町糠地区!ここで花瓶に活ける水仙を摘みます。

実は糠地区は、現在深刻な獣害に悩まされています。越前水仙の文化的景観地区に指定されましたが、一面水仙畑だった景観が損なわれてしまいました。

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岩肌の見える急斜面。元々は水仙が群生していました。

案内してくださったのは大浦和博さん。南越前町の町議会議員をしながら景観保全の活動を行っています。「昔は足の踏み場もないほどの水仙畑だったのですが、今はところどころ生えている状態です。特に鹿の獣害が深刻。鹿が水仙や植物を食べ、踏んで荒らすので山に耐久力がなくなるんです。そうすると雨が大量に降った時に土砂崩れを起こし、土が流されて岩が出てきてしまいました」と大浦さん。

 

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案内してもらった場所は3年前に鹿対策の柵をした一部の畑。まだ細い茎の水仙ですが、あと1,2年で太い水仙になると期待しているそう。

それでも一筋の希望が見えてきました。
「重要文化的景観に選定されたので、南越前町にお願いして、今年から糠地区の集落に獣害防止柵や防護壁を設置していくことになりました。まずは300メートル程。設置されたところから地権者の方には球根を植えてもらうという取り組みも今年からやろうと思っています。せっかく指定されたのに、この状況だと来てくれた人をがっかりさせてしまう。景観を育ててみせていかなければね」

越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!
眼下は日本海。景観が戻るのは4,5年先の未来ですが、海沿いの一面の水仙畑を思い浮かべると光が見えてきます。

水仙を摘んでみよう。水仙刈り体験!

「先日の暴風雪で水仙が潮やけをしていてなかなかいい水仙がないのが実情なんです」と大浦さん。下の道から急斜面を登って向かいますが、まさかこんなところに水仙の花畑がひろがるとは!さながら秘密の花園というロケーションです。

越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!
急斜面を登ります。気を付けないとすべって足をとられてしまうので要注意!

球根を傷つけないように気を付けながら、土の1センチ2センチ下まで食い込ませて刈ります。農協に出荷するには、はかま(水仙の根元の白い部分)が4センチ以上ないと商品価値がないそう。これがなかなかむずかしい!
「これは出荷できないね」「これも3センチくらいかな」と真剣な参加者のみなさんです。

 

越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!
水仙農家さんは、良いお顔の方ばかり!花が好きな人は笑顔が優しいです。

「本当にこれからが楽しみですね。葉っぱだけのものも来年には咲くかな」と大浦さん。
「花束需要ができれば八重※もいいよね」「刈り取ってから陶芸すると、もっとインスピレーションがもっと湧きそう!逆のパターンもやってみたい!」など参加したみなさんから積極的な意見が出ました。
※越前水仙と呼ばれる日本水仙は6枚の花びら。八重はその変異種で生け花としての出荷価値はありません。

越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!
水仙を収穫してパチリ!「はやく花瓶にかざりたい!」

未来に向けてのローカルツアーを

最後に企画のJTB福井支店の石原さんからこのツアーに対する想いを伺いました。私と石原さんはこの2年越前水仙カメラというローカルフォトの企画に参加していますが、それに参加していなければこの企画は思いつかなかったと石原さん。
「鹿の獣害は南から始まりました。水仙畑の南端にあった南越前町の糠地区の被害に気付いたからこそ、越前町と福井市の群生地は防護柵の対策が取れたんです。だから現状を知ってもらうという意味も込めてこのツアーを企画しました」。
大浦さんと相談した時には「もう糠には水仙はほとんどないよ」と言われたそう。でも実際にまわってみたら水仙は徐々に再生しはじめていました。水仙は本当に強い植物です!

越前丹南、日常に触れる旅9/文化的景観に指定された越前海岸の水仙畑を知ろう。越前焼の花瓶作りと越前水仙摘み体験!

「大浦さんが再生しつつある水仙をみて、『ちょっとやる気が出た』と言ってくれたことに勇気をもらいました。だから未来に向けてのローカルツアーです。単純にお客さんが来てよかったねというツアーじゃなくて、地域に暮らす人がツアーをきっかけに自分たちの地域の価値を再認識してがんばろうと思ってくれることに価値があると思うんです」と石原さん。

この地域に暮らす人と、訪れた人がお互い気づきを持てるツアーの実現を目指して、水仙の花のようにねばり強く企画は進行しています。訪れた人は水仙を花瓶に飾ります。水仙は香ります。きっとその香りがツアーの記憶を思い起こさせることでしょう。地域に根付いた観光の可能性を探っていくこの企画の本質に触れることのできたツアーでした。

(文:牛久保星子、写真:黒川照太)