【鹿児島県阿久根市】お客様に喜んでもらうために、産地と消費者の間の架け橋的な存在としてできること/株式会社さるがく水産 猿楽逸人さん
インタビュー
鹿児島県阿久根市にて活魚・鮮魚の仕入れ販売や加工を行っている『株式会社さるがく水産』(以下:さるがく水産)。代表取締役である猿楽逸人さんに継業するに至った経緯や、水産業の課題や今後の展望についてお話を伺いました。
自然なバトンパス
中学時代は自動車整備士になることが夢で工業系の高校へ進学された猿楽さん。
しかし、高校時代からアルバイトでお父さんが経営されていた『さるがく水産』で働いていたこともあり、卒業後は、そのまま社員として入社することになります。
アルバイト時代は配達や競りの現場へ同行することがほとんどでしたが、それらを自分自身でやらないといけませんでした。そのため、仕事に慣れるのが大変だったそうです。
「自分で商売をしたことがありませんでしたし、何より社会人として大人とコミュニケーションをとったことがなかったので、わからないことだらけでした。」
『さるがく水産』 猿楽逸人さん
また、日によって漁獲量や天候等も異なるため競り値を決めるのも、お父さんや先輩社員の背中を見ながら学んでいきました。
周りの同業者からは「お前が2代目か!」と言われることが多かったといいます。継業はどんなタイミングだったのでしょうか。
それはお父さんなりの配慮や温かさが感じられるものでした。
「父は僕の成長に合わせて少しずつ仕事を任せてくれたり、会合に参加させてくれたりしました。」
「無理に「継ぎなさい」と話すこともありませんでした。父なりに考えながら、自然と継ぐタイミングや流れを作ってくれたんだと思います。」
「まだまだ仲買人として力不足を感じることもあります。ある局面に直面した時に、どう判断したらいいかわからないこともあるんです。そんな時、もっと他の市場のことも勉強しておけばと思う時もあります。だから、更に日々精進していかなきゃと思うんです。」
長島東町漁協
お客様に良いものを届けるために
お客様に新鮮で質の良い魚を届けること。
それが仲買人として猿楽さんが一番大切にしていることです。
「自分が「この魚を売って間違いない」と自信を持てるものしか提供していません。」
「まずは鮮度が命です。毎日仕入れに行き、その日のうちに捌いた魚をお客様へ提供しています。」
長島東町漁協にて 競りの様子
こだわりとして消費者の元に美味しい鮮魚・活魚を届けるために、活魚車や生け簀の活用、そして、直営の加工場を設置しています。
自社に生け簀があることで時化の時等に柔軟な対応ができ、魚にストレスがかからないような管理も徹底しているそうです。
また、早朝4時に活け締めや神経抜きを行うことで、鮮度を保持することができています。
最近では刺身を切ることを気軽に体験し楽しむために「鹿児島県産!お刺身切るだけセット」を阿久根市のふるさと納税で提供し始めました。
新型コロナウィルスの影響もあり、自宅で過ごす時間が長くなった人が増えたことが背景にあります。
「自分たちが考えたことが形になって、それでお客様が喜んでくださる。これほど嬉しいことはないです。」
「新しい挑戦として、タカ海老を使った餃子も開発しました。タカ海老を加工品として食べる機会は中々ありませんし、餃子であれば、魚介類が苦手な人でも、どの世代でも気軽に食べられると思ったんです。」
長島東町漁協にて 競りの様子
魚を身近に感じてもらうためには
日本人の魚離れが進んでいく中で、魚に触れ、調理する機会が減少し、鮮魚店等の水産部門で働く人材が不足してきている今の時代。
そんな現状で自分に何かできることはないかと猿楽さんは考えています。
「新型コロナウィルスが蔓延する前は近くの幼稚園に魚の切り方や食べ方を教える機会があったので、世の中の状況が落ち着いたら、以前のように魚を身近に感じられる取り組みをしていきたいと思っています。」
「印象に残っている出来事として、幼稚園の散歩時間で会社に時々立ち寄ってくれたことがあったんです。子供たちが生け簀の魚を見て「わーすごい!」と声を上げてくれて。そのような機会があるだけでも魚を身近に感じてもらう機会としてはいいことだと感じています。」
また、一緒に働く社員として弟さんが魚を捌くことをメインに従事されています。
小さい頃から長靴を履いて職場へやってきて、魚を捌いていたそうです。
近いエリアの同業者でも弟さんのような若い人が水産業に就く話を耳にするといいます。
「小さい頃から魚に触れたり、僕らが働く光景を見たりするだけでも、その子たちや周りの人にとって働く選択肢が増えると思うんです。小さなことかもしれませんが、それがきっかけで将来この仕事を選んでくれたらありがたいですよね。」
「弟のように20代で魚を上手く捌ける人は少ないと思います。阿久根は海の街なので、自分で魚を調理できる人が少しでも増えたら嬉しいです。」
『さるがく水産』で捌いたお刺身
産地と消費者を繋ぐ架け橋として
水産業といっても魚を獲る漁師や魚を加工する水産加工業者等、様々の仕事があります。
その中でも『さるがく水産』は仲買人として市場に水揚げされた水産物を消費地市場に出荷する役割を担っているのです。
仲買人は消費者の目が中々届かない裏方でもありますが
産地と消費者の間の架け橋のような存在にも感じます。
仕入れた魚を生け簀へ移す作業
そんな仲買人としての日々について「毎日が面白いです」と笑顔で話します。
「出荷した業者さんを通して、お客様から美味しかったと声があったと聞いた瞬間は今までの頑張りが報われるんです。「あー、この仕事をしていてよかったな」って。」
「20代の時に周りの先輩たちから「若い時の苦労は買ってでもしなさい」と言われていたんです。当時はわかりませんでしたが、この年齢になって、先輩たちの言葉の意味をヒシヒシと感じるようになりました。」
「苦しいこともありますが、何でもチャレンジしていくことが大事だと思います。小さな積み重ねを毎日コツコツとしていくことで、世の中から見えづらいことでも、きっと誰かが喜んでくれるし、それが自分にとって良い形で必ず返ってくるんですから。」
私たちが食卓で当たり前のように美味しく食べている魚たち。
それは見えない舞台で愛情をもって
魚を仕入れ、捌いてくれる仲買人の存在があってこそだと気付かされました。
その気づきは
普段周りに溢れている1つ1つの何かに対しても
結果ではない過程へ
目を向けるようになるきっかけにもなるとも感じました。
屋号 | 株式会社さるがく水産 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県阿久根市脇本267-1 |