【鹿児島県阿久根市】じゃがいも焼酎MOTOを通して新しい選択肢を。蔵元の技術と地域資源を掛け合わせた新しい焼酎文化の始まり。/じゃがいも焼酎 MOTO
インタビュー
鹿児島北薩の『じゃがいも焼酎 MOTO』(以下:MOTO)。阿久根市の蔵元『大石酒造』の技術、長島町の『福崎ポテトファーム』のじゃがいもといった2つの地域資源を掛け合わせた蒸留酒です。MOTOが造られた背景や楽しみ方等について、プロジェクトに携わられたプロダクトデザイナーの石川秀和さんにお話を伺いました。
新しいもので課題解決を
MOTOが誕生するきっかけとなったのは2018年。
全国的にじゃがいもが余る年になり、鹿児島も例外ではありませんでした。
そんな時、石川さんは近隣地域の生産者から「じゃがいもが余って困っている」「販路はないか?」等の相談を受けることになります。
しかし、じゃがいもを生産している農家はどこも同じ悩みごとを抱えていたので販路は見つかりませんでした。
写真提供 石川秀和 じゃがいも焼酎MOTO
「販路が見つからないなら新しいものを作り、それを販路が無いところへ供給するしかないと考えました。」
「京都から鹿児島へ移住してから驚いたのは芋焼酎を飲む文化が根強かったことです。だから、焼酎を造る技術はある。そこで、材料を変えて焼酎を造ることはできないかと考えたんです。」
「海外をみると、じゃがいも等の雑穀類を材料にお酒を造っている国々は沢山あります。例えばウォッカ、アクアヴィットなど。じゃがいもはお酒に馴染みのある材料なんです。」
そこで創業120年を超え酒好きから絶大な信頼を得る阿久根市の蔵元『大石酒造』とアラゴナイト(10万年前の堆積貝化石)を堆肥として使い、こだわりのあるじゃがいもを生産している長島町の『福崎ポテトファーム』、
そして、デザイン会社の『細原意匠研究室』『遠望 EN&BOW』が手を組み、MOTOプロジェクトが始まったのです。
写真提供 石川秀和 福崎ポテトファームのじゃがいも
新しい焼酎としての選択肢を
石川さんは芋焼酎の文化が根強い鹿児島で、じゃがいも焼酎造りを始めることは新しいマーケットやお酒の多様性のスタートラインになるのでは考えているそうです。
「MOTOとは“始まり”や“根”を意味しています。じゃがいもを原料とした蒸留酒は世界中で愛されていて、MOTOは新しい焼酎として、国内だけではなく、世界中の蒸留酒ファンとの出会いも創っていけたら。」
「まずは、県外や都市部、国外に販路を増やしていき、その先に阿久根や長島で文化として定着するようなことが起きれば素敵ですよね。」
写真提供 石川秀和 MOTOのラベルを貼り付ける作業の様子
また、このプロジェクトのポイントは焼酎を愛するユーザー側(石川さんら)から企画提案をして蔵元が受け止めたところだといいます。
「どこも抱える課題として同じだと思いますが、ものづくりとして街に蔵元が残ってほしい気持ちがあります。最近では海外への営業や焼酎以外にウイスキーやクラフトジンを製造するメーカーが増えているのが現状です。」
「蔵元がもつ技術と地域資源を掛け合わせて、芋以外の素材で加工し、販路を作っていくことは1つのチャレンジなんです。そして、そのような選択肢があることをMOTOを通して多くの人に知ってほしいと思っています。」
写真提供 石川秀和 大石酒造で蒸留作業を行っている様子
それぞれのこだわりや技術を包み込めるデザインを
構想から販売開始までかかった期間は1年以上。
前提として、蒸留して味が馴染むまでに時間がかかることもですが、想定していなかったことも色々起きたそうです。
例えば、
芋に比べ、じゃがいもから採れるアルコールの量が少なかったり
製造の過程で加工されたじゃがいもが機械に粘着してしまったり…。
それでも石川さんに秘められたMOTOに対する想いは揺るぎないものでした。
「『大石酒造』は伝統的な蒸留設備がありますし、杜氏さんが何より蒸留技術に関する研究者だったので、安心して託せました。」
「完成したMOTOは想像以上に美味しかったです。北海道で造られているじゃがいも焼酎とは全然違う味でした。」
「割と飲みやすく、1度飲んだら「これはMOTOだよね」と言えるくらい個性が強い出来だったんです。」
企画やデザインに関しては商品ができる背景やコンセプトをしっかり汲み取るように練っていったといいます。
「単に可愛く・カッコ良くデザインするといった根拠の無い選択はしたくありませんでした。」
「『大石酒造』の伝統的な技術、そして、『福崎ポテトファーム』の土からこだわっているじゃがいも作り。それらはどこにでもあるものではありません。だから、その組み合わせをちゃんと包み込めるようなデザインができるように意識しながらプロジェクトを進めてきました。」
写真提供 石川秀和 MOTO発送前の作業
旅する感覚で楽しんでほしい
最後にMOTOの楽しみ方について尋ねました。
「ポテトサラダやポテトフライの代わりに置いてほしいと思っています。それが絶対的にオススメです。」
「飲むポテトとして捉えていただけたら。肉料理とのマッチングはベストです。」
飲み方はロックやソーダ割りで飲んだり、ハーブ類や柑橘類をカクテルしたりするのがオススメだといいます。
写真提供 Musumi MOTO関連イベントにて メニューで提供されたジビエ料理
写真提供 石川秀和 おすすめの飲み方 テキーラのようにショットで ライムと塩を添えて
「MOTOを旅する感覚で手にしてほしいと思っています。飲むことによって蔵元の『大石酒造』や生産者の『福崎ポテトファーム』、阿久根、長島のことをもっと知りたくなる。そんな飲むメディアとして捉えてほしいんです。」
「鹿児島でじゃがいもが生産されていることはあまり知られていません。嗅覚や触覚、味覚を通して鹿児島の風土や文化を身近に感じてもらうだけでもいいし、MOTOを飲んだことがきっかけで、実際に阿久根や長島に足を運んでくれたらさらに嬉しいです。」
写真提供 Musumi MOTO関連イベントにて 飲んだ後に臭みが口や鼻に残らないので若い世代にも親しみやすい焼酎です。
ピンチをチャンスに。
無いなら作ればいい。
今回のインタビューを通して、ふとそんな言葉が頭をよぎりました。
文化を創っていくことは非常に時間がかかります。
数年、いや、数十年かかることかもしれない。
それでも巡りめぐって、
世界中に広がった文化が阿久根や長島に浸透したら。
そんな未来を想像しながらMOTOを飲むと
さらに格別な味がすると感じました。
これからMOTOが切り拓いていく新しい焼酎文化が楽しみでたまりません。
屋号 | じゃがいも焼酎 MOTO |
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備考 | ・現在オンラインストアにて販売中。
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