【岐阜県瑞浪市】 宿命のタイルづくりと使命のまちづくり 玉川幸枝さんインタビュー後編
インタビュー
美濃焼の産地・瑞浪市で生まれ育った玉川幸枝さん。家業である釉薬製造の技術を生かしたオーダーメイドタイルの企画・製造の会社を運営する一方で、瑞浪市のまちづくり活動にも精力的に取り組んでいます。
東京からUターンし、地場産業を再び盛り上げたいとの思いから活動を始めるに至るまでの紆余曲折をお話してくださった前編に続き、後編ではまちづくりへの想いをお聞きします。
【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】
消えることのなかったまちづくりへの情熱
――地場産業であるタイルの企画を仕事にしつつ、瑞浪のまちの活性化や空き家再利用などにも精力的に取り組んでいるそうですね。
「東京にいた頃、さまざまな仕事に携わってきて、あらためて自分が一番興味を感じるのは、ゼロから企画を考えたり、その企画をマネージメントすることなんだと気づきました。地元に戻ってからは培った企画力とマネージメント力で、家業を生かした仕事をしていくことと、自分が生まれ育ったこのまちのこと、どちらもやりたいという想いがますます強くなって、それなら同時にやってみようと思いました。」
――いま手掛けているプロジェクトは?
「シャッター街になってしまった瑞浪駅前の活性化を目指し、閉店した呉服屋さんの店舗をリノベして昨年の6月に〝チャレンジショップゑびすや〟をオープンしました。ここは例えば1日シェフのように、自分でお店を持つまでではないけれどちょっとチャレンジしてみたいという人の想いを叶えるような場所になればと思っています。」
――駅を出てすぐのとてもいい場所ですね。
「そうなんです。まちの人たちもけっこう関心を持ってくれていて、チャレンジショップをやってみたいという人も増えてきました。そもそもなぜ私が駅前でこんなことをやろうと思ったかというと、数年振りに地元に戻ってきたとき、瑞浪市が駅前の再開発を目標にしているということを知ったのがきっかけでした。もしかすると再開発で古くから愛されてきたものまで壊してしまって、新しいだけのピカピカしたまちになっちゃうんじゃないかと危惧したんです。」
――将来の瑞浪駅前エリアがどうなっていくといいと思いますか。
「賑わいはあった方がいいけれど、古くてかっこ悪いという理由で簡単に壊してしまうのは違うと思うし、今ある瑞浪らしさを生かして何か新しい価値を生み出せたらと。まちの人たちと話をしてみると、瑞浪の商店街ってかわいい!みたいな声があるんですよ。その気持ちを大切にしたくて実際に再開発のアイデアを提案するためにアクションを起こしました。現在は、瑞浪駅前の区画全てを一から作り直すのではなく、建て直しとリノベーションの両輪で駅前を変えていこうという方向になっています。」
――思いを実行に移すパワーが幸枝さんのすごいところですね。
「リノベーションスクールの事務局として働いた経験があり、その分野のトッププレイヤーたちの成功事例をたくさん見聞きしてきたというのもあるのかな。とはいえ、実際に地元に戻ってきた時には、厳しい現実だけがどーんと目の前にあったって感じでした(笑)。それでも地道にゴミ拾い活動はずっと続けていて、まちづくり活動で新たに出会った仲間たちに相談したり力を借りたりしながら進めてくることができました。」
まちづくりの活動は人口減少が著しい山間のエリアでも
――まちづくり活動は他のエリアでも?
「駅から離れた山の方になりますが、ほとんど限界集落になりかけている大湫町(おおくてちょう)というまちがあります。そこで空き家になっていた築150年のお屋敷を再生し、田舎暮らしをまるごと体験できる拠点にしようという〝西森川邸再生プロジェクト〟を進行中です。その向いにある古民家・柏屋をシェアハウスにし、ここには若い世代の人たちが移住してきてくれています。私自身も大湫町に住所を置き、実際に暮らしながらまちのことに取り組んでいます。」
――風情のある雰囲気のいいまちですね。
「中山道に面している大湫は、昔は街道の宿場町でした。当時の面影を残しつつも、使われていない古民家が増えていて、このままではやがて地区全体が廃れてしまうと感じました。そんなことを考えながらまちの様子を見て歩いていた時に、たまたま空き家になって放置されている古いお屋敷を見つけたんです。」
――立派なお屋敷ですね。
「そうなんです。棚橋さんというご近所のおばさんに相談したら持ち主さんに連絡をしてくださって。そこから再生活動を始めることができました。母屋はすでに解体されていて、離れや納戸、蔵などが残っていたものの全部ボロボロ。まずは町や地元の銀行さんに相談して、地域活性の一環として掃除を決行しました。全部で6回、最終的には300人くらい参加してくれたんじゃないかな。」
――大変な作業なのにたくさんの人が積極的に参加してくれるのが不思議です。秘訣は?
「若い頃、名古屋で始めたレンジャー服を着てゴミ拾いっていうアイデアも〝つまらないことを面白く〟というコンセプトで考えたアイデアでした。掃除やゴミ拾いってなんだか真面目だなとか地味だなというイメージだけど、ネガティブに向きがちな気持ちも、ポジティブにスイッチする工夫ひとつで楽しくなると思うんです。そうやって関わるみんなが楽しめる手法を考えるのが好きなんですよね。それを社会の課題の解決につなげられたらと常に思っています。」
――誰もが楽しく取り組める仕掛けが社会を変える大きなパワーになる。理想的な形ですね。ところで今後、西森川邸はどのように進めていくのですか。
「建物を再生して田舎暮らしの拠点を目指していこうと資金集めのためにクラウドファンディングを立ち上げたら、目標金額を超える519万円の寄付が集まりました。全部を直すにはとても足りませんが、お風呂をつけて生活ができるようにしたり、自分たちの手で少しずつ進めているところです。」
地元の年配の方々らと膝を突き合わせての語り合いは毎回エキサイティング!
――玉川さんの活動をまちのみなさんはどのように感じていらっしゃるのでしょうか。
「まずは最初に相談に乗ってくださった大湫町の棚橋さんは、いまでも一番力になってくれています。とにかく巻き込み力がすごくて〝妖怪・人たらし〟と呼んでます(笑)。そんな棚橋さんをはじめ、人口わずか300人あまりの小さな集落なのにみんなすごく主体的。きっと、小さなまちであるという自覚や、今後、行政のサービスも行き届かなくなるのではないかという危機感があるのか、自分たちで頑張る!みたいな自主自立の精神がすごいんでしょうね。そんなまちで活動をしながら、大湫町ってめちゃいいまちだなって思えてきました。」
――世代も違うみなさんと一緒にまちのことに取り組んでいる姿は本当に楽しそう。
「30も40も歳の離れた人たちと定期的に会議を続けているんですが、いつもすごく白熱して刺激的です。〝わしらの目の前にいま、お前のようなやつがいることがこれまでやってきたことの成果だわ〟なんて言ってもらえたときは本当に嬉しかった。西森川邸も、最初は負の遺産だと言っていた持ち主さんが、私たちの活動を見てクラファンに一番たくさんの寄付をしてくださったり、障子の張り替えも提案してくれたりして。一緒に活動してきた棚橋さんもそれが何よりだよねって喜んでくれていて、それが一番嬉しいですね。」
――家業である釉薬工場の仕事とまちづくり。まったく違うもののようであっても、玉川さんの中では自然に繋がっているのですね。
「私にとってはどちらも同じです。これまでの経験で自分にはまちづくりがすごく向いていると感じていましたし、いまは新しい価値の創造はどこにいてもできることだと自然に思えるようになりました。世界一周の旅から始まり、東京で学んだことがとても大きいです。大事なのは思いを共有できる仲間がいれくれること。やりたいと思った時に仲間さえしてくれたらすぐに動ける。仲間の存在は本当に大きいですね。」
●玉川幸枝さんの前編記事はこちら●
「【岐阜県瑞浪市】タイルひとつひとつに物語があるTILE made代表・玉川幸枝さんインタビュー前編」
URL | 合同会社プロトビ:https://www.protob.com |
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