【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽17
連載
「穏やかな休日のための音楽」では、毎回山形に縁のある南米のアーティストとそのアルバムを紹介しています。
カルロス・アギーレについては、もう何度もこの記事で触れていますが、アルゼンチンの現代フォルクローレの最重要アーティストです。彼のプロフィール等についてはこちらをご覧ください。
縁あって、2010年には初来日のソロ公演、2012年にはアルゼンチンを代表するギタリストで盟友のキケ・シネシとのデュオ、2018年には再び初来日と同じソロで、そして2019年にはセバスティアン・マッキ・トリオの一員として山形に来ていただきました。
山形には来日の度に毎回来て頂いています。南米のアーティストとして、キケ・シネシの次に山形に数多く来ているのがカルロス・アギーレです。もちろん我々にとっては、最も尊敬するアーティストですが、おそらくは彼も山形の風土や人々に、愛着を持ってくれているように感じます。
さてそのカルロス・アギーレのニュー・アルバムがリリースされたとあれば、これは紹介しないわけにはいきません。本作は、長年に渡り活動を続けていて、SNSなどでもしばしばその活動を垣間見ることができた、カルロス・アギーレ・ギター五重奏団の、まさに待望のアルバム、「Va siendo tiempo」です。
メンバーは、カルロス・アギーレ(Carlos Aguirre:g、b、vo、per、accordion、bandoneon、syn)、ルイス・メディーナ(Luis Medina:g、vo)、マウリシオ・ラフェラーラ(Mauricio Laferrara:g、vo)、マウロ・レジェス(Mauro Leyes:g、b、vo)、セバスティアン・ナルバエス(Sebastian Narvaez:g、mandolin、vo)。
この五人による演奏は、新緑のような音楽とでも言いますか、柔らく明るい景色と、穏やかな、しかし確かなエネルギーを内包した音楽です。陽光に輝く水面のように、広がる波紋のように、輝かしく親密なギターのアンサンブルは見事に研鑽の果実を結んでいます。洗練されたハーモニーと、祝祭的で少し土着的な感触のアコーディオンの音色、控えめなボンボのリズム、全てがこの音楽を形成する重要な要素です。
そしていつにも増してカルロス・アギーレの歌が素晴らしい。ますます歌が磨かれた、と感じます。
美しい叙情を湛えた、繊細に寄り添うようなその歌は、聴くものの裡なる琴線に清冽な響きをもたらします。
近年のカルロス・アギーレのアルバムとしてはフォルクローレの香りが強い作品です。それゆえにカルロス・アギーレ・グループのファースト・アルバム、”Crema”に感触が近いと思います。
前々回に本稿で紹介したキケ・シネシの新作に続き、本作も現代フォルクローレを代表する傑作と言って良いでしょう。印象的なジャケットの写真も全てカルロス・アギーレ本人の手によるものです。草木が芽吹き、新緑に輝くこの季節にこそぜひ聴いていただきたいアルバムです。