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【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽18

連載

2022.06.25

「穏やかな休日のための音楽」では、毎回山形に縁のある南米のアーティストとそのアルバムを紹介しています。

今まで沢山のアーティストを山形に招聘してきました。幸運にも我々が真に望んでいた音楽家を呼ぶことができていて、ご協力いただいた皆さんには感謝しかありません。さて、ほとんどは望み通りに山形に来ていただくことができたのですが、残念ながらうまく行かないケースもありました。

カルロス・アギーレ、キケ・シネシ、アンドレス・ベエウサエルトなど、現代フォルクローレを代表する音楽家に来て頂きましたが、彼らの一つ後の世代として注目されているグループにクリバス(Cribas)という、ラ・プラタで結成されたグループがあります。彼らの音楽は、フォルクローレの魂をしっかりと維持しつつ、透徹した美意識を貫いたもので、複雑な室内楽的アンサンブルと、洗練された分かりやすさを併せ持つ、瑞々しい音を創造しているユニットです。

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽18
写真撮影:宇戸裕紀

現在までに3枚のオリジナル・アルバムをリリースしていますが三作とも美しく映像的な秀作です。
彼らの3作目のアルバム”La Ofrenda”を聴いてみてください。

また日本の女性シンガー・ソングライター「コトリンゴ」との共演でも知られています。

そのクリバスは2020年2月に来日したのですが、その前年、まだコロナ禍の始まる前に山形公演のお話を頂来ました。彼らの音楽をこよなく愛していたのですが、五人組という人数が我々には荷が重く、十分なサポートが難しいと考えて、泣く泣く公演をお受けしませんでした。実際彼らが来日した頃にはコロナが猛威を震い始めていて、もし山形公演を受けていたとしても実現できたかどうかは極めて怪しかったと思います。彼らが無事にアルゼンチンに戻れたのは実に幸運でした。

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽18
日本でのクリバスのメンバーたち。写真撮影:宇戸裕紀

さて今回紹介するのは、そのクリバスのピアニスト兼作曲家である、フアン・フェルミン・フェラリス(Juan Fermin Ferraris)の2作目となるソロ・アルバム「Jogo」です。

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽18
フアン・フェルミン・フェラリス。写真撮影:宇戸裕紀

【山形 / 連載】穏やかな休日のための音楽18

「Jogo」とは、「遊び」を意味するポルトガル語で、「遊び」の中で生まれる音楽に新たな価値を見出す」という試みを行っているそうです。フォーマットとしてはピアノ・トリオで、彼以外のトリオのメンバーは、クリバスでも一緒に活動するディエゴ・アメリセ(Diego Amerise、ベース)と、セッション・ドラマーのパブロ・ビアンチェット(Pablo Bianchetto、ドラム)です。形態的にはピアノ・トリオなのですが、スタンダードなジャズのピアノ・トリオとして聴いたのではこのアルバムの魅力は理解できません。

本作でフアン・フェルミン・フェラリスは、クリバスで聴かれる特徴的なあの柔らかい歌を歌っていません。しかしその代わりにピアノから歌声が聞こえてくるような演奏なのです。メランコリックでノスタルジックな旋律と演奏は、フアン・フェルミン・フェラリスらしい、彼ならではと言うべき純粋な歌心で貫かれています。聴くものの気持ちを暖かくしてくれるような、ピアノ・トリオの傑作です。穏やかな夏の休日にのんびりと聴いてほしい作品です。

果たして彼らをまた山形に招聘する機会は訪れるでしょうか。