【郡山】「いいものがとれるのに使わないのはもったいない」ーー工務店「BANKS」が実践する福島の資源を活かしたものづくり
福島の“いいもの”にこだわり、住まいだけでなく様々なものづくりに取り組む「株式会社 BANKS」。木のぬくもりを感じる素敵な事務所にお邪魔し、お話を伺ってきました。
郡山市出身の二人が「価値ある家をつくりたい」という思いから2017年に立ち上げた工務店「株式会社 BANKS」。地元の木材にこだわり、主に注文住宅の設計・施工やリノベーション、オリジナルの家具製作などを行っています。一方で、工務店でありながら酒蔵や寝具メーカーなど他業種の事業者とタッグを組み、木桶をつくったりベッドをつくったり。次々に新しい取り組みをしています。
今回は郡山市清水台にある「株式会社 BANKS」の事務所にお邪魔し、地域資源に対する想いと工務店の垣根を超えたものづくりについて、長谷川大輔さんにお話をお聞きしました。
【1】福島産の木材の質は折り紙付き
ー入り口の扉を開けた瞬間、木のいい香りがしました。目も鼻も癒される素敵な空間ですね。
ありがとうございます。使っている木材はほとんどが福島県産なんです。あまり知られてないですが、実は福島県って木材の産出量がかなり多いんですよ。
ーへ〜知りませんでした・・・!
福島の木材は都心部などの高級住宅の仕上材として多く使用されていて、質の高さは折り紙つきです。
ー福島県は木材の産出量が多いだけでなく質も良いんですね。
そうなんです。BANKSではそんな福島で育った木を使用し、次の世代へ住み継ぐことができる住まいをつくるために木材に関して2つのことにこだわっています。
ー2つのこだわり。
1つ目は木材を無垢の状態(丸太から切り出した自然なままのこと)で使うことです。無垢材は複数の木の板を張り合わせた合板よりも耐久性があり、長く使うことで色合いが変わるので経年変化を楽しめる良さもあります。
ーなるほど。2つ目は何ですか?
2つ目は自然乾燥材であることです。切ってすぐの木は建材として使うには水分量が多く、乾燥させる必要があります。乾燥方法は日にさらし乾燥させる自然乾燥と機械を使い人工的に乾燥させる人工乾燥の二通り。人工乾燥は水分と一緒に油分も抜けてしまい、割れやすくなってしまうというデメリットがあります。その一方で、自然乾燥は油分が残り、「粘り」と言われる木材が本来持つ耐久性が保持されます。この2つのこだわりによって福島県産の木材のポテンシャルをさらに引き出しています。
ー高品質な木材が県内で手に入るということは、大手のハウスメーカーさんでもよく県産材は使われているんですか?
いや、実はそこまで使われていないんです。それにはわけがあって・・・。
【2】地元のものだけで勝負したい
ーいいものが地元でとれるのに地元で消費されていない。なぜでしょうか?
いくつか理由はありますが、一つ挙げられるのは住まいづくりに使う材料の入手方法が変化したからです。飲食チェーン店をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。チェーン店では、コスト削減のために大きな工場でまとめて加工したものを使っている事が多いですよね。それと同じような仕組みが建築業界にも根付いているんです。昔は近くでとれる木や石などの地域資源を地元で加工して家を建てていました。しかし、大手の建材メーカーさんやハウスメーカーさんの中で「海外から安く買った木材を工場でまとめてカットして、全国に振り分けた方が人件費や加工費の削減ができるんじゃないか」という考えが広まり、国産材はあまり使われなくなってしまいました。
ーそんななか、BANKSが県産材にこだわって住まいづくりをしているのは何か理由があるんですか?
質がいいのはもちろんですが、それ以上に「住まいへの愛着を持っていただきたい」という想いからです。たとえば、食材や洋服が「どこでつくられたか」「誰がつくったか」といったストーリーを知ると、ものに対して愛着が湧くじゃないですか。住まいも同じだと思うんです。地元でとれた木材を使い、地元の製材所の方に加工してもらう。そういった「顔の見える住まいづくり」をすることで、お客様は住まいに愛着を持って大切に住み続けてくださると思っています。より住まいへの愛着を持っていただければと、お客様と一緒に山林へ行き、林務作業員の方が住まいに使う木を伐採するところを見に行くツアーを実施したり、製材所へ見学に行ったりもしています。
ーとはいえ、工場で加工された木材ではなく県産材を使うとなると住まいづくりにかかるコストは上がってしまうんじゃないですか?
今のところ大手ハウスメーカーさんよりも高い価格設定なのは確かです。その分、僕たちは高品質な材料を使うだけでなく、暮らしやすさや耐久性を考えた設計に力を入れ、より良い家をつくる努力をしています。BANKSがやっているのは、極力大手のハウスメーカーさんの価格に近づけながらも地元のものだけで勝負できないかっていうチャレンジなんです。現在、コロナの影響により木材の輸入が難しくなっています。その結果、木材の値段が高騰し多くの工務店さんに影響がでているんです。しかし、BANKSでは山林整備の事業で知り合った地元の山主さんや、材木屋さんとの深い関係を大事にし直接木材の取引をしているため、コロナ前とあまり変わらない値段で住まいづくりを実現できています。
【3】木材、馬の毛・・・次はどんな資源を活かせるか考え中
ー長谷川さんが代表を務める「福島木桶プロジェクト」と郡山の糀屋さん「宝来屋本店」が共同で開催した「味噌づくりワークショップ」でも郡山市産の杉の木を使用していましたよね。
かつて、お酒や味噌をつくるために家庭で親しまれていた木桶文化を福島県産の木材を使って復活させたい。郡山市の酒蔵「仁井田本家」さんからそのようにお声がけいただいて始まったのが「福島木桶プロジェクト」です。ワークショップでは郡山産のブランド杉「ときめ木」でつくった木桶に郡山産のお米や大豆などを入れ、味噌を仕込みました。「郡山のブランド杉があるなんて知らなかった」「郡山のどこで育った杉なの?」といったお声を参加者の方からいただき、県産材の魅力を知っていただけるイベントになったのではないかと思います。
ーその他にも地域資源を活用した取り組みはされているんですか?
金沢にある老舗寝具店メーカー「石田屋」さんの寝具に合わせたベッドフレームを、福島県産の桐の木で4年ほど前からつくらせていただいています。そのご縁から、福島県産の馬毛を使ったマットレスをつくろうというプロジェクトが2021年に立ちあがりました。
ー馬毛を使ったマットレス・・・はじめて聞きました!
海外で馬毛は高級寝具に使われるほど貴重なものですが、日本では産業廃棄物として捨てられてしまうんです。そこで目をつけたのが馬肉を食べる文化が盛んな会津地方。食肉業者さんに馬の毛がほしいと相談すると快く譲ってくださることになったため、プロダクト化に向けて施策を練っている段階です。
ー木材や馬の毛の他にも、価値があるのに活用されていない地元の資源はまだまだたくさんありそうですよね。
そうだと思います。知られていないだけで、身近に高品質な資源があることをもっと知ってもらえたら嬉しいですね。
【4】工務店の垣根を超えたユニークなものづくりをしていきたい
ー地域の方はBANKSさんの様々な取り組みを通して、地元で生まれる“いいもの”をたくさん知ることができているんじゃないかと思います。
そうなっていたら嬉しいですね。大量生産された安価なものを選ぶことが悪いわけではないですが、僕たちは近くにある資源の価値に目を向けていきたいと思っています。BANKSを立ち上げたのも、「地元の資源を活かしたものづくりをしたい」という思いからだったんです。
ーそうだったんですね。
今後、世の中がコスパだけを追い求めていけば、いま以上に地元の資源は使われなくなってしまいます。それを防ぐために、近くでとれる資源にスポットライトを当て、ものづくりをしていくのが地域に根ざした工務店であるBANKSの役目だと思っています。
ーBANKSさんが木桶やベッドに続き、地元の資源で次は何をつくるんだろうと思うと楽しみです!
これまで工務店の垣根を超えたユニークなものづくりをできているのは他でもない、共にプロジェクトを進めてくださっている事業者さんのおかげです。「地域資源を活かす」という軸はぶらさずに、今後も県内外の事業者さんと共にユニークな取り組みをしていければと思います。
名称 | 株式会社 BANKS |
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URL | WEBサイト:https://banks.house/ |
住所 | 〒963−8005 福島県郡山市清水台一丁目6-22 |
TEL | 024−926−0662 |