【鹿児島県阿久根市】地域資源をリビルドすることを諦めない。まちの未来を次の世代へ。 / 株式会社まちの灯台阿久根 -前編-
インタビュー
2019年春に設立された『株式会社まちの灯台阿久根』(以下:まちの灯台)は既存の観光協会を解散し、その後、20名以上の株主で構成され民営化されました。その背景や設立後の動き等について、代表取締役の石川秀和さん、取締役の下園正博さん・中野浩治さんにお話を伺いました。
組織のリビルドを通し、具体的なアクションを
石川さんは地域おこし協力隊(以下;協力隊)として阿久根市へ2015年に移住してきました。
活動していく上で「阿久根はどのような地域で、どのような資源があるのか?」を考えた時に目をつけたのが観光協会でした。
「当時、観光協会は自主財源でまちづくり事業が展開できていない状況でした。観光を通して、まちの産業を元気にする軸は僕たちも変わらないのですが、そこに対して具体的なアクションをどうしていけばいいのかが見えなかったんです。」
「過去の観光協会の活動があってこその今の阿久根があるし、まちの皆さんの信頼度も高いです。だからこそ、新しい組織を作るのではなく、想いを引き継ぎ、元々あった組織をリビルドし、具体的なアクションをすることで、自主財源の確保や様々なまちづくり事業を展開しようと心に決めました。」
その後、資金調達のため、阿久根の未来を中長期的に見守ってくれる株主を20名以上集め、既存の観光協会を解散し、まちの灯台としてスタートを切りました。
まちの灯台としてのスタートに至るまでには多くの市民との対話がありました。
1対1で話すこともあれば4〜5人のグループもあったり、時には50人規模に対しても…。
既存の組織を解散させる話に対し、反対の声も多く、心が挫けそうになることもあったといいます。
「会社のビジョンとしては道の駅を軸にした柱事業の経営を行い、補助金に依存しない組織と財源をまず作っていくことを計画していました。それが、資金確保や人材育成に繋がり、その先に稼いだ資金や育てた人材をまちに投資していくことも含めて。」
「その流れを何周も繰り返していくことで、まちに様々な自主事業が生まれ、自然とまちづくりに繋がってくると考えました。例えば、若い人の雇用を生み出せそうな珈琲焙煎所の事業もありますし、非営利の事業ならスタンプラリーだったり。将来的には賞金付きのビジネスコンペの開催等やっていきたいです。」
地域の課題からビジネスを
まちの灯台が最初の柱事業として始めたのが『道の駅阿久根』(以下:道の駅)でした。
なぜ、道の駅から始めたのか。
それは、元々あった地域資源であったため、新規で何かをつくるより初期投資が少なく済むこと。
そして、来客数が少ない道の駅にまちの価値を加えることで、まちのエントランスとして賑わいを創出できるのではないかと考えたからだといいます。
「阿久根ではたくさんの農作物が作られています。そこから出る規格外品を預かり、商品開発を行いました。例えば、果物ならジャムにしたり、野菜になら惣菜にしたり。規格外品は原材料も安いので、加工品で利益が出ると考えたんです。」
「道の駅の店内の雰囲気も変えるために、一部リノベーションし、商品陳列の方法も変えました。また、入り口にはコーヒースタンドとドーナツ屋も始めることにしたんです。そうすることで、今までと違った若い層のお客さんが足を運んでくれるようになりました。」
「実際、若い人がコーヒースタンドのスタッフとして働いてくれました。そのスタッフは独立して、今年の春に阿久根でお店を開業しました。それは事業を始めた当初は予想もしていませんでした。」
変化があったのは若い世代だけではありません。
道の駅では地域のお母さんたちが活躍する場所にもなりつつあります。
「例えば、毎月自主的に手作りのチラシを作成していて、それを地域の人たちに配布しているのですが、それが温度感のあるものだと評判なんです。それは道の駅を健全に経営できているパロメーターだなと感じています。」
「若い30~40代には企画関連やホスピタリティの向上を、50~70代のお母さんたちには日々の業務の担当を任せていて、皆さん一生懸命動いてくれています。役割分担をすることで、関係性の意識づけが少しずつできているのかなと。正直、そのレベルになるまでは大変でした。」
「目に見える形で道の駅が変化してきて、地域の人や株主も評価してくれるようになりました。今後は地域や事業者さんとどのように関係を深めていくか次第かなと思っています。周辺に活用できる地域資源がまだあるので、皆さんと一緒にできることを少しずつ進めていく。それしかないと思います。」
まちの楽しそうな空気感を創っていくために
まちの灯台では協力隊の受け入れも行っています。
協力隊は現在、全国6000名以上。
そのほとんどが自治体に席を置く形で採用されている中、
どうして民間側が受け入れを行ったのでしょうか。
その背景には現役の協力隊に対する石川さんの想いが込められていました。
「協力隊は公でもあり民でもあります。行政職員ができないことを遂行することで、事業の精度を上げ、さらに新しい事業ができるようになると僕は考えています。そのためには、市役所の中に席があると、色々な制限があり、チャレンジしづらいと思うんです。」
「まちの灯台が設立されてから、阿久根駅近くの一角に事務所を設けることにしました。阿久根市ではミッション型の協力隊をこれまで採用しているところです。ミッション型の場合、中途の過程や改善点等を自分で考えていかないといけません。」
「だから、ある程度の行動力や経験がある人材が求められます。ありがたいことに、今まで阿久根市ではそのような人材が協力隊としてやってきてくれました。関係人口を作ってくれたり、退任後も阿久根に残って活動してくれたりするので、まちの皆さんにも評価してもらっています。」
現在、協力隊も5代目となり、今年4月からは初めてのUターンの協力隊が2名配属されました。
雇用促進をミッションに、阿久根市内の企業や一次産業等を訪問し、求人情報を整理し、noteにて随時発信しています。
「今までは県外の方が「阿久根って面白そう」と思ってきてくれるパターンがほとんどでしたが、初めて地元の人がそう思ってUターンしてくれたことは嬉しいことです。」
「まちづくり会社として、株式会社として、阿久根の楽しそうな空気感を創っていくことは結構重要だと思っています。そこにおいては、ある程度成果を出せているのかなと肌で感じています。これからの課題は、それをどう経済に転換していくか。そこかなと。」
「チャレンジしやすい環境に少しずつ変化させているとはいえ、協力隊が活動に躓いた際のサポートがまだ足りていないと感じていて…。行政側も色々な事情がある中で動いてくれているので、その両者をフォローしながら事業の精度や達成度を上げていけたらと思っています。」
関係性を再編していくことで歯車が動き出す
「まちづくりに関していうと、阿久根は1つの“舞台”だと思っています。」
今後、どんな協力隊に来てほしいか話をしている中で、そのような言葉が出てきました。
その言葉の真意とは何なのでしょうか。
「お客さんは市外から足を運んでくれる観光客です。そして、楽しませる側は市民やまちのプレイヤー、事業者だと思っていて、それぞれキャスティングがあって楽しい舞台を一緒に作っているんじゃないかって。」
「春に採用された協力隊は阿久根の価値がある仕事をうまく外へ情報発信し、後継者不足で悩む事業者さん等をサポートするために雇用促進をメインにしています。それでも、他にも足りていないキャスティングがあって、例えば、空き家バンク関連だったり。」
「そんな風に阿久根に来てほしい演者がまだたくさんあるんです。その演者が1つ、また、1つ埋まっていくことで、今までにない歯車が動き出すのではないかと思っています。」
それは協力隊だけではなく
まちの灯台としての営利事業や非営利事業でも同じ想いで展開されています。
「他所から新しい何かをもってきて、まちを楽しくするのではなく、既存のネットワークの中から関係性を再編していくことで、まだまだできることはたくさんあると思います。」
「阿久根には個性のある地域資源もキャスティングがたくさんあります。わざわざやってもいないことをゼロから始めるのは勿体無い。会社として事業を展開していくうちに、僕らにはそれらが少しずつですが見えつつあるので、それらをうまく活かしながら、阿久根を楽しんでもらえる仕掛けを作っていきたいです。」
「現時点では非営利事業の方が営利事業よりもウエイトが大きいです。それはまちづくりを軸にした場合にぶつかる壁だと思っています。それでも、非営利事業は長い目で見た時に絶対不可欠なものになってくるんです。」
後編では、まちの灯台が非営利事業を継続してきたからこそ、生まれてきたものや想い描く未来についてお話してもらいます。
屋号 | 株式会社まちの灯台阿久根 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県阿久根市新町1 |
備考 |
クラウドファンディングを実施しています。 「地域がつながる魚屋をみんなでつくりたい」 |