【鹿児島県阿久根市】地域資源をリビルドすることを諦めない。まちの未来を次の世代へ。 / 株式会社まちの灯台阿久根 -後編-
前編ではまちの灯台の設立背景等を伺いました。後編では非営利事業等を通して生まれたきたものや想い描く未来についてお話を伺っていきます。
前編はこちら。
水産業の可能性と価値を感じてもらう
阿久根は戦後から水産業のまちとして発展してきました。
しかし、時代の変化につれて、後継者が不足する等の問題に直面してきています。
水産業といっても業種は様々です。
魚を獲る漁師だけではなく
仲買人や製造業、飲食店、
そして、造船や修理を担う鉄工所や大漁旗を作る染め物工房。
「阿久根では魚を通して、まちの経済が回っているといっても過言ではありません。しかし、問題が色々ありすぎて、どこから着手すればいいかわからない状況でした。」
「雇用の様に小さなアクションで変化を起こせる課題もありますが、環境変化による水産資源減少等、我々では解決が難しいレベルの課題が山積しており、長い期間放置されたことで課題と向き合う姿勢・モチベーションが低下してしまったと感じました。」
「そのため、水産業の皆さんに改めて、魚の可能性と価値を感じてもらえる、かつ、課題の改善に対して意欲を得られる機会を作れないかなと考えたんです。」
そこで選んだ舞台は鎌倉。
鎌倉は海が近いまちでありますが、仲買人組合がなく、漁師が極端に少ない現状にありました。
色々リサーチしているうちに、飲食店は他所の地域から魚を仕入れていること、そして、鎌倉野菜といわれるブランドがあるぐらい食材にこだわっているまちであることがわかってきたといいます。
「漁師さんや仲買人さんは消費者に会う機会はないので、食べた魚について直接評価してもらうことは殆どありませんでした。鎌倉の地域事情を考慮して、阿久根の魚を評価してもらう舞台としては最高の場所だなと思いました。」
「『○○と鎌倉』という鎌倉と地方を繋げるプロジェクトをされている人たちと手を組み、鎌倉の飲食店で阿久根の魚を使ったメニューを提供したり、鎌倉市内で移動販売を行ったりしました。直接魚を食べた消費者から嬉しい声をたくさんいただき、鎌倉まで足を運んでくれた阿久根の水産業の方も少しずつ手応えを感じていったと思います。」
プロジェクト名は『阿久根と鎌倉』と名付けられ
2017年に始まり、今だに阿久根の魚を取り扱ってくれる飲食店もあるそうです。
『阿久根と鎌倉』のプロジェクトでは阿久根市内にある鶴翔高校の生徒にも2名同行してもらいました。
「『阿久根と鎌倉』では「プライドを取り戻してほしい」「水産業に対する若い人たちの視点を変えたい」という想いがコンセプトに込められていました。鎌倉へやってきた阿久根の高校生が消費者から地元で獲れた魚を目の前で褒めてもらえたら、水産業に対する視点や捉え方も変わると感じたんです。」
「ある仲買人さんは鎌倉の人から「このまま鎌倉で働いてほしい」とスカウトされるようなこともありました。「阿久根の魚ってこんなに喜んでもらえるんだ」とプロジェクトに携わったメンバーは強く肌で感じたと思います。それって、パワポ等の資料だけではできないことかなと。」
現在も二地域間の交流は続いていて、最近では鎌倉で高齢化率が高いエリアで、まちの人たち協同運営する“みんなの魚屋”プロジェクトが始まりました。
地域間交流を大きなテーマに掲げ、阿久根から直接魚を仕入れることで、新しい交流の場を生み出そうとしているのです。
『阿久根と鎌倉』は非営利事業。
この事業を続ける意味は何なのか。
そこには目先ではなく、未来を見据えたまちの灯台の想いが込められていました。
「阿久根ではまちの灯台、鎌倉では『○○と鎌倉』の人たちがいたからこそ、継続的に続けることができました。プロジェクトの意図を理解し、それを繋いでいく意味でも、まちの灯台は必要だと感じています。」
「最近、新しいプロジェクトが鎌倉で始まりました。魚屋として販売する形で鎌倉に、魚を送る形で阿久根に、それぞれ経済効果が生まれてくると考えています。」
「まちづくりの仕事は非営利の部分におけるウエイトが高いのが現状です。しかし、何もしなければ、続けなければ、ただただ衰退していくだけ。プロジェクトを通し、鎌倉の皆さんに評価してもらったことで、水産業という仕事に対して誇りと高いモチベーションをもてる人が出てきたし、目に見える形で結果が出てきているので、僕たちのことを応援してくれる人たちも増えてきました。」
地域資源を諦めずに再生していく
まちの灯台が設立されて3年。
道の駅を柱事業としながら、営利事業や非営利事業の展開してきた中で感じた課題について伺いました。
「新型コロナウイルスの影響もあり、予想していた以上の売り上げは獲得できていません。これから、財源がきちんと確保できるような営利事業を展開しなきゃと思っています。それが一番の課題です。」
「それでも、行政からの補助金を受けずに、自主財源で経営ができているので、この部分は成長だと思います。元々、まちの灯台を設立したのも、それが目的の1つでありましたから。」
「協力隊に関しては、任期である3年間でできることは限られてきます。だから、新しい協力隊がやってきてもゼロからスタートではなく、退任した協力隊が積み上げてきたものを引き継ぐ形で、次の段階まで進めるようにサポートしていけるような体制を整えていこうと思います。」
まちの灯台が目指しているのは行政も市民も一緒に演者として
阿久根という舞台を楽しくしていくこと。
そのために行政や市民との向き合い方も非常に大切にされています。
「行政に対する向き合い方は粘り強く向き合い、市民の皆さんには開いた情報を出し続ける。そうすることで、一人でも一緒に演者としてまちを楽しくできるようにコミュニケーションを諦めずに続けていきたいです。」
「株主とは定期的に対話を重ね、株主の趣味や事業をヒントに新しい事業展開を行うことで、配当に値するような利益を出そうと考え、ヒアリング等を行っているところです。」
「まちづくりは一人ではできません。「じゃ、どういったチームで、どのメンバーで動いていくか?考えていくか?」と考えた時、地域資源として行政も地域の人も大きな財産ですし、その両者が手を取り合わないのは非常に勿体無いと思います。」
「元々あった組織に新しいレイヤーや役割を与えること。それは建物のリノベーションと同じで、地域資源を諦めずに再生していくことの意味を直感的に感じています。」
まちづくりを通して引き継いでいくもの
中長期的な視点で事業に取り組んでいるまちの灯台ですが
この先の阿久根の未来をどのように考えているのでしょうか。
最後に今後の展望について伺いました。
「将来的には会社の代表を30代の若い人たちに託せるレベルまでもっていきたい。「まちづくりって面白い」「自分たちに阿久根の未来を任せてほしい」と言ってくれる人が出てくるような状況になるのが理想的です。」
「ウチの会社で小さな事業をある程度ビジネスとして育てたら、将来それを阿久根でやりたい人に売却して、残していく。そんな切り口で阿久根に必要なお店を増やしていけたらと考えています。」
「お店を始めたくても最初の投資でかなりのお金がかかってしまうので、どうしても起業に対してハードルが高くなってしまいます。そこをウチの会社のまちづくり財源でスタートアップを軌道に乗るまでサポートしていくことも1つのやり方かもしれません。」
さらに、話は継業や人材派遣まで広がりました。
「昔からある鮮魚店や温泉旅館等の継業に対しても問題意識をもっています。公益性の高い事業なので、株主以外にも共感してもらえる部分かもしれませんし。時代に応じたやり方に切り替えていけば、収益を黒字にしていくことは可能だと思います。」
「まちの灯台の役割としては「阿久根で何かやりたい」と思った人たちと、まちの財産や事業を残したい人たちをマッチングさせることではないかと考えています。さらに、そういう空気感をまちとして出していくこと。それは、今までの観光協会にはできなかったことですよね。」
「マッチングの話になると、人材派遣の事業もできないかなと思っています。移住者や兼業したい人等に対して、まちの灯台を通して、阿久根市内の人手が足りない企業や自営業の人へ案内するとか。」
「業種によって、時期の忙しさも違うし、必ずどの時期も何かしらの業種は人手が欲しい状況です。いきなり着手するのは難しいかもしれないので、業種や時期を絞る等して、小さな実験をしていきたいですね。」
地域資源とはモノだけではなく
まちに住む、もしくは、関わる人たちも含みます。
目の前にある地域資源と向き合いながら
長い目で少しずつリビルドしていくことは
次の世代が「このまちに住みたい・戻ってきたい」と心の底から思える
阿久根の未来に近づいていくのではないか。
そんな未来が垣間見られた時間でした。
屋号 | 株式会社まちの灯台阿久根 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県阿久根市新町1 |
備考 |
クラウドファンディングを実施しています。 「地域がつながる魚屋をみんなでつくりたい」 |