【郡山・小原田】小原田ってこんなところだったんだ!世代を超えたローカル座談会
自分が住んでいるところでも、そのまちの歴史はあまり知らないもの。この土地には、かつてどんな暮らしがあったのだろう。それを知ることで、まちの見え方も変わるかもしれません。福島県郡山市小原田出身のライターがふるさとの歴史をたどって来ました!
小原田は、郡山駅から車で10分ほどの場所に位置し、中心市街地とも近い距離にあります。そばには阿武隈川が流れ、土手を歩けばのどかな風景も味わえるようなまち。
現在は小さな地域ですが、100年近く前はひとつの村「小原田村」でした。1924年、「郡山町」と「小原田村」が合併し「郡山市」となったのです。
「小原田村」の中心地であり、現在まで「小原田」の名を残す地に、「ちっちゃな美術館 こはらだ日和」という場所があります。ここを営むのは古川定和さん・麗子さんご夫妻。
今回は、小原田出身のライター七海が、定和さん・麗子さんご夫妻、そして、お二人の息子さんであり、「小原田の里守」としてさまざまな取り組みを行う古川広毅さんに、お話を伺ってきました。
小原田民による、小原田座談会スタート!
〈座談会メンバー〉
古川定和さん:「ちっちゃな美術館 こはらだ日和」館長。小原田出身。
古川麗子さん:50年前、定和さんとの結婚を機に小原田に移り住む。
古川広毅さん:小原田を拠点に「里守」として様々な取り組みを行う。トラスホーム株式会社代表取締役。小原田出身。
七海未音:real local 郡山 学生編集部 ライター。小原田生まれ小原田育ち。
人と人のつながりが日常の中にあった小原田
七海:私は小原田生まれですが、小原田の歴史はあまり知らないんです。小原田ってどんな場所だったんですか?
定和さん:小原田は農村地帯だったんです。畑とか田んぼがいっぱいあって、うちも農家でした。今「こはらだ日和」があるこの場所は、私が生まれ育った民家があった土地です。
七海:今、このあたりに田んぼや畑はほとんどないので、なんだか想像がつきませんね。
麗子さん:私が小原田に来たのはちょうど50年前ですが、やはり今とは趣が違いますね。八百屋さんや魚屋さん、お肉屋さんなど、ちっちゃな商店が並んでいて、その間に民家があるようなまち並みでした。地域のみんなが買い物かごをさげて歩いていて、立ち話をしながらお買い物するのが日課で、人と人との触れ合いが当たり前にありました。
定和さん:そのころはまだ車も発展していなかったので、ちっちゃな地域に生活していくうえで必要なものがそろっていたんですよ。カゴ屋さんもありましたし、農機具を扱う鍛冶屋さんもありました。
七海:広毅さんが子どものころは、そういった名残はありましたか?
広毅さん:小学校の通学路にお肉屋さんとかがあって、コロッケとかハムカツとか買って食べて帰った思い出があります。おこづかいを持ってお菓子を買いに行ったり、僕が小学生のときもそういう商店は残っていましたね。
七海:まちの人が使うためのお店がそろっていて、自然と人が集まるような環境だったんですね。
広毅さん:行くところが決まっていたんじゃないかな。「これだったらここ」という選択肢が同じで、だからみんながそこに集まってたんだと思います。
麗子さん:そういった商店がなくなって、地域の人と人のつながりが少なくなってしまったのは、少し寂しいですよね。
時代をさかのぼると、小原田は外とのつながりも多い場所だった!
定和さん:江戸時代は、小原田は宿場町でもあったんです。「こはらだ日和」の目の前の道路がちょうど旧奥州街道で、参勤交代でお殿様が通っていたんですよ。そのお殿様が泊まる本陣っていう場所が小原田にはありました。
七海:そんな歴史があるんですね。
定和さん:あと、戦時中には阿武隈川のあたりに飛行場ができてね、遠くから来た兵隊さんが小原田の民家に泊まることもありました。札幌から来た兵隊さんがうちに泊まったこともありましたよ。それで兵隊さんと親しくなったりもしましたね。
麗子さん:そんなこともあったのね。それは知らなかった。
七海:麗子さんが来た50年前ごろは、ちいさな地域の中での人のつながりが深い場所だったっていうお話がありましたけど、もっとさかのぼっていくと、戦時中や江戸時代には、遠く離れた方、小原田の外との交流も生まれていたんですね。
時代をとびこえた小原田の魅力を復元する「こはらだ日和」
七海:今まで小原田の歴史についてお話してきましたが、ここから、この「こはらだ日和」のことについてもお聞きできればと思います。私は美術やアートが好きでこの場所に興味を持ったのですが、ここは単なる作品展示スペースではないんですよね?
麗子さん:そうですね。美術館としてだけではなく、地域の人が気軽に集まれるような場所にしたいと思っています。
広毅さん:僕たちのトラスホームという会社は、不動産の賃貸からはじまり、今は「暮らし」づくりを事業として掲げているんです。小原田の、人の交流・地域の歴史・環境を守り、それに触れられる暮らしを育んでいきたいと思うようになりました。そんな自分たちの役割を「小原田の里守」と名付けています。「こはらだ日和」も、人の交流が生まれる場、小原田の歴史を伝えていく場にしていきたいという思いのもと、場づくりを進めてきました。
麗子さん:かつてあった地域の人同士のつながりが少なくなったのはやっぱり寂しいので、ここが交流のきっかけになったらいいですね。壁面には作品が飾られていますが、真ん中の空間はレンタルスペースとして自由に使っていただけるようにしています。本を読んだり、コーヒーを飲んだりできるスペースもあります。様々な目的でいろいろな方がいらっしゃいますね。
七海:このちっちゃな美術館が、かつてちっちゃな商店が生み出していたつながりを取り戻しているんですね。
麗子さん:そうなったらうれしいですね。そして、小原田だけではなく、さらに広範囲でもつながりが生まれたらいいですね。同じような趣味を持った方が、小原田の外からも集まって来て、こういう場所があるんだって知ってもらいたいです。
七海:小原田をもっとたくさんの人に知ってもらえたら私もうれしいです。きっと、「こはらだ日和」があることがきっかけで小原田に初めて来る方もいらっしゃいますよね。
定和さん:そうですね。美術が好きな方が、小原田以外の場所や郡山市外から来てくださることもあります。たまたまこの地域に来て、足を踏み入れてくださる方もいらっしゃいますね。
広毅さん:ここに来るとみなさん敷地の細長さに驚かれるんです。
定和さん:江戸時代は間口の幅で税金の大きさが決まっていたんです。だから間口が狭くて奥にずーっと広い建物とかが多かったんですよ。ここの通りは今でもその名残があります。
麗子さん:表通りから裏通りまで長く続いているんですよね。だから、昔は小学生や中学生が「通りまーす!」って言って敷地を通り抜けることもありました。道路だと思っているくらいの方もいて、自転車で通る方もいましたよ。私はそういうことがあってもいいな~と思っています。今は通り抜けを禁止にすることが多いと思うんですけど、うちはあえて通り道として開放しています。
広毅さん:全然関係ない人がここを通っていくっていうのも、人と人のつながりだと思っています。昔のそういった習慣を復元できている場所でもあるかな。
まちの暮らしに溶け込み、新たな感性や人に出会える、ちっちゃな美術館
七海:実際に今ここがどのように使われていますか?
麗子さん:個展を開く方もいらっしゃいますし、お茶やお花の講習会・ヨガ教室の会場としても使っていただいています。音響設備が整えてあるのでコンサート会場にもなります。白い扉がスクリーン代わりになって、映像も映し出せるんですよ。この前はこのスクリーンを使って、よさこいの練習をしたいっていう方もいらっしゃいましたよ。ここは、みなさんのやりたいことにどんなふうにも答えられる場所だと思います。
七海:作品に囲まれながらヨガやよさこいをやるっていうのもなかなかないことですよね。
麗子さん:そうですね。ヨガ教室の帰り際に、みなさんで掛け軸を見ながらお話したりすることもありましたね。その中に書道の先生をやられている方がいらっしゃって、「こう書いてあるんだよ~」って解説してくれたんです。
七海:へ~!それってふつうのレンタルスペースでは起きないことですよね。美術に興味がない人でも美術に触れるきっかけになるかもしれないですね。
広毅さん:たしかにそうですね。ここが暮らしに溶け込んで、ここに来れば何か新しいものを感じられたり、新しい発見があったり、そういった場所になってほしいですね。
麗子さん:新しい人に出会えたりね。
広毅さん:表現する場所があって、それを感じて、持って帰って、その感性で日常を暮らしていただきたいです。「こはらだ日和」が小原田の文化をさらにゆたかにしていくような存在になればいいですね。
麗子さん:ここがこれから先どんなふうに使われていくのか、楽しみです。
七海:私くらいの世代の人も、この場所を訪れて、感じて、使って、世代の違う人同士のつながりが生まれたらいいですよね。
小さな地域の中で日常的に人のつながりがあった時代、外とのつながりが生まれていた宿場町時代や戦時中、敷地を通り抜けていく人がいたころ。
みなさんがお話してくれた小原田は、私の知らないことばかりでした。
小原田の人がつどい、小原田から離れたところからも人が訪れ、まちの通り道にもなる。そんな「ちっちゃな美術館 こはらだ日和」は、長い歴史の中で小原田の人によって紡がれてきた暮らしのいいところをぎゅぎゅっと集めたような場所だと思いました。
時代によってまちが変わってしまうことは寂しいことかもしれません。しかし、かつてあったまちの在り方を思い、大切にしながら、今の時代を生きる私たちが、私たちなりの日常を営む。それが、今の小原田の魅力そのものになるんだと思います。
50年後、100年後、小原田に住む人たちが、「ここには「こはらだ日和」っていうものがあってね~・・・」なんて語り合う日が来るのでしょう。
名称 | ちっちゃな美術館 こはらだ日和 |
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URL | ちっちゃな美術館 こはらだ日和 公式WEBサイト小原田の「里守」TRUSS HOME |
住所 | 福島県郡山市小原田四丁目13-25 |
TEL | 024-973-7615 |
営業時間 | 平日:10:00~16:00 |
定休日 | 毎週月曜・火曜 |
備考 | ギャラリーレンタルについて |