【鹿児島県薩摩川内市】従来の枠を越えたユーモアのある保育で、子どもたち一人ひとりに主体性を/おてんと保育園 松田みかこさん
インタビュー
鹿児島県薩摩川内市の企業主導型保育園(※)『おてんと保育園』。こちらでは満3歳までの子どもたちを預かり「“その子らしさ”を見守りたい」をビジョンに一人ひとりに対し保育者がマンツーマンで見守りをしています。保育士で施設長でもある松田みかこさんに保育士になった背景等を伺いました。
※企業主導型保育園とは、内閣府主体の「企業主導型保育事業」として2016年から始まりました。企業が自社従業員のために事業所内や周辺の商業施設等に保育所を設置する形態です。従業員の多様な働き方に柔軟に対応できる保育サービスとして、子育て支援や待機児童問題解消の貢献を目的にしています。自社従業員の子どものみではなく地域住民の子どもを受け入れることもできます。
子どもたち一人ひとりに主体性のある保育を
高校卒業後、地元・薩摩川内を離れ、福岡の専門学校で保育士になるために3年間過ごしたみかこさん。
しかし、保育士になる勉強をしていたとはいえ、将来の仕事に対して悩んでいたといいます。
そんなみかこさんの背中を押してくれたのはお父さんの一言でした。
「父が「せっかく保育士の資格を取ったのなら、それを活かしてみればいいじゃないか」と言ってくれたんです。その言葉があったから、私は保育士としての道を選択することができました。」
その後、福岡県内の保育園(以下:園)へ就職。
そこではどんな日々が待っていたのでしょうか。
就職先の園ではみかこさんが思い描いていた保育像とはかけ離れたものでした。
「私の中では「子どもたち一人ひとりが主体性をもてる保育をしたい」といった気持ちがありました。」
「「本当の自分ってどれだろう?」と葛藤する日々でした。時には、泣きながら自宅へ帰ることもありました。」
「3年目になって仕事が楽しいと思えるようになってきました。責任をもって仕事ができていましたし。でも、「やりたいことをしたい」という気持ちに素直になろうと思い、園を辞めることにしたんです。」
4年勤務した園を退職後、やりたいことに少しずつ足を踏み入れていくことになります。
やっぱり私には保育しかない
「気になることをやってみよう。」
そう思い、アルバイトとして様々な仕事を経験していきました。
働き方や生き方、暮らし方等、感じる世界1つ1つが新鮮なものだったといいます。
「自分の気持ちのままに気になる仕事をやっていたのですが、そこでも葛藤はありました。」
「例えば、販売の仕事をしていた時に、お客さんに「似合っていますね」「いいですね」と言えなかったんです。どうしても自分の中で「違うな」と思ったら、嘘をつけなかったというか…。」
「「それは自分のワガママなのか?」と葛藤していました。色々考えているうちに辿り着いた答えは「私には保育しかない」でした。「子どもたちと関わっている時が自分にとって一番自然体なんだ、その瞬間が一番楽しんでいたし、笑っていたな」って。」
そこから保育の世界へ戻ることを決心します。
将来的にご自身で園を運営したい想いも芽生えてきたみかこさん。
無認可保育園や企業主導型保育園、そして、ベビーシッター。
結婚をしていたので子育てをしながら
三者それぞれの視点で保育の在り方や経営を学んでいくことにしました。
「私の中でカリキュラム(計画案)を越えた遊びをしていきたいと考えています。元々定められたものではなく、例えば「その日の天気や子どもたちの気分次第で1日の過ごし方を決めていいのでは」って。」
「子どもたちの「したい」と思ったことをさせてあげたい気持ちがありました。」
色々と学び始めて3年経過したある日、大きな転機が訪れます。
ご縁があった方から「薩摩川内市で企業主導型保育園を開設するので一緒に手伝ってほしい」と声かけを受けたのです。
「「いずれは鹿児島に戻りたい」と夫と話をしていました。夫が色々と協力してくれたおかげもあって、声かけに応じることができたんです。」
「「これはチャンスだ!」と思いました。だって、自分の想い描いていることを形にしていけるんですから。」
信頼関係をどれだけ築けるか、安心感をどれだけ与えられるか
園の立ち上げということもあり、何もかも全てがゼロからのスタート。
運営方針や体制、開設までのスケジュール等、経営陣や保育士と話し合いを積み重ねながら整えていったといいます。
組織の中で物事を形にしていく大変さを感じつつ、2021年春に『おてんと保育園』としてオープン。
こちらの園では、土日祝日含め365日開園しており、さらに病児・病後児保育まで幅広く対応しています。
さらに、子どもたちが口にする食べ物にもこだわっており
乳製品フリーで、調味料から添加物をなるべく使用せず、心と身体が喜ぶ給食を提供しています。
「普通だったら中々考えられない保育をしたいし、「それは駄目だよ」という概念を変えていきたいです。そうすることで、従来の保育の在り方を変えていける場所でありたいです。」
「子どもを看ながら働きたい等の想いをもたれたお父さん・お母さんたちにとっても優しい園でありたいと思っています。」
また、定員の12名に対して、保育士や看護師など有資格者スタッフによる手厚い支援ができる体制で保育を行っています。
「マンツーマンで保育ができることで、業務的ではなく、子どもたち一人ひとりが求めることを形にできるようにしています。」
「子どもたちが主体的になれるように私たち保育士はたくさんの引き出しを持っておかないといけません。」
「だからといって、保育士が主体になるのではありません。例えば、お絵描きをしていて、散歩の時間になっても絵を描きたければ、そのまま絵を描かせてあげています。」
「0歳から2歳って「どれだけ心を通わせるか」だと思うんです。“伝える・やらせる”よりも”信頼関係をどれくらい築けるか、安心感をどれだけ与えてあげられるか”。本当、そういう家庭の延長線上で、おウチにいるような感覚で過ごしてほしいと思っています。」
保育はユーモアだ
保育の仕事をしていると子どもたちの喜怒哀楽、様々な表情を目にします。
「子どもたちが何を求めているのか?何に困っているのか?何に興味・関心を抱いているのか?」
『おてんと保育園』では
そこを意識しながら子どもたちの声なき声に耳を澄まして寄り添っています。
その姿勢からは
大人も子どもも共に学び、成長していこうといった
みかこさんや保育士さんたちのマインドが強く感じられます。
「私自身、子育てを通して「子どもから教わることがある」と感じていました。その感覚を保育にも入れ込みたいと思ったんです。」
「子育て中に感情的になることもあって、その時に「あ、いけない」「もっと気持ちに余裕をもたないと」と思いました。その時から「子育てや保育はユーモアだ」と捉えるようになったんです。」
「子どもたちは私たち大人をよく見ているし、嘘をつきません。だからこそ、子育ても保育も、子どもたちからヒントを得ることはとても多いんです。」
最後に今後の展望について尋ねました。
「まずは、『おてんと保育園』に子どもを預けたい・預けてよかったと思えるような、園としてのカラーを出していきたいです。」
「そのためには、単に園で保育を続けるだけではなく、外へ発信するために地域との接点づくりをしていこうと考えています。例えば、年末に餅つき大会を予定していて。その時に併設しているカフェ『HUB satsumasendai city』(以下:HUB)と園を使って、私たちの理念や園のことを知ってもらったり、子どもたちが色々な大人に触れたりする機会になればと思っています。」
「0~2歳の時に色々な大人を知れることが心の成長に繋がるんです。「あ、大人って面白い・楽しい」って感じるだけで、安心感を抱き、『おてんと保育園』を巣立っていく3歳以降に自分の気持ちや感情を素直に誰かに伝えられるのではないかって。」
「HUBが併設しているおかげで、様々な背景や能力がある大人たちが集まってきてくれます。だからこそ、通常の園ではできないことをできるし、そこから広がった輪がきっかけで多くの人に私たちの理念を知ってもらえるんじゃないか。そう思っています。」
子どもたち一人ひとりと向き合っていくことは
楽しさもあり、時には辛いこともあります。
子どもたちと向き合いながら「したい」を形にし
それぞれの主体性が生まれてくることで
大人も子どもも共に成長することができる。
その成長は
自分らしさを纏った多くの彩りが
まちに溢れてくるのではないかと思います。
その循環が続けば
生きやすい・暮らしやすい未来に繋がってくるのではないか。
今回の取材を通してそのように感じました。
屋号 | おてんと保育園 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県薩摩川内市神田町2-3 1F |
備考 | 現在、保育士・看護師、愉快な仲間を募集しています。 詳細はこちら。 |