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山形移住者インタビュー・永田歩美さん/「ようやく辿り着いた感じの場所」

移住者インタビュー

2022.07.25

#山形移住者インタビューにご登場いただくのは、永田歩美さん。七日町にある石見銀山 群言堂 山形御殿堰店の店長を務めています。

永田さんが山形市に暮らしはじめたのは2017年のことでした。高校時代までは山梨県甲府市で、大学時代と社会人1年目は東京で、それぞれ過ごしてきました。その後、次なる職場となった「他郷 阿部家」のある島根県大田市大森町に移り住み、1年を過ごした後、ふたたび東京に戻り、群言堂スタッフとして勤務。それから3年ほどの歳月を経て、この山形の地にやって来た、という軽やかな遍歴ぶりです。

「山形暮らしはすごく心地いいんです」と語る永田さんが見つけたその「心地よさ」の正体とは、いったいどんなものでしょう。お話を伺います。

山形移住者インタビュー・永田歩美さん/「ようやく辿り着いた感じの場所」
永田歩美さん。群言堂・山形御殿堰店まえにて。「このまちに来たきっかけは、群言堂の会長に『山形、行くか?』と聞かれて、思わず『え、行きます!』と反射的に答えてしまったこと」と笑って答えてくれました。

肩ひじ張ってがんばらなくても
良いモノやひとに触れていられる

東京で働いていたとき、お金とどう向き合うかを真剣に考えた時期があるんです。いまにして思えばそれは、大学のゼミの影響もあったと思います。ひとの消費行動を文化的側面から捉え、モノを買うときいったい人々はどこに価値を置いて消費をしているのかを紐解いて、社会がどこに向かっているのかを見つめていく、というような内容でした。そしてまた、この群言堂という、長く愛着を感じられるような服や小物を扱う会社で働くようになって、なおのこと、創業者や同僚やお客さまなどいろいろな方から影響を受けたこともあり、じぶんの消費のあり方について考えるようになりました。

「価格が安いからという理由だけでモノを買うようなことはしたくない」「本当にいいと思ったものにしかお金を払いたくない」という想いを持つようになっていったんですね。そうした意識をすこし強く持ちすぎてしまった面があったのかもしれません。じぶんがなにを選びなにを選ばないのか取捨選択の判断をするときに、膨大な量の情報を集めなければならなくなってしまいました。店もモノも情報も溢れている東京の生活なかで、いい消費をするということがとてもむずかしいものになってしまって…、都会のスピードにももう追いついていけないような気にもなってきて…。いまにして思えば、大都会との相性が良くなかったのかもしれませんね(笑)

東京から山形に転勤して暮らすようになってから、いつのまにか、そういうことをほとんど考えなくなっていて、ずいぶんラクになっていたんです。あれ、なんでだろうって振り返ってみると、たぶん、それはごく自然に、日々いいモノやいいひとに囲まれているからだということに気づきました。だからそんなにガチガチに凝り固まったり、むりに肩ひじ張ったり意識したりする必要がそもそもないというか…。このまちには店主の顔が見えるような小さいけれど魅力的なお店がいっぱいあったり、誰がつくったかわかるような手づくり感溢れるお惣菜が売られていたり、地元の生産者がつくったみずみずしい野菜ばかり並ぶ産直があったりするので、そんなに一生懸命に意識づけしなくても、ちゃんといいものに触れていられて、すごく安心して生活していられるんです。

おでんのふくろも、三幸食堂も、白鳥園も
たくさんの好きなお店を巡るたのしさ

だから、好きなお店、本当に、たくさんできました。

たとえば、いまぱっと浮かんだのは、おでんの「ふくろ」。もう、大好きです。いつ行っても安心のおいしさがありますし、居心地がいいですし。お店の人が、近すぎず遠すぎずというようななんとも程よい距離感で接してくださいますし。

山形移住者インタビュー・永田歩美さん/「ようやく辿り着いた感じの場所」

山形移住者インタビュー・永田歩美さん/「ようやく辿り着いた感じの場所」
七日町の「ふくろ」のおでんの盛り合わせをつまみながらビールをぐびぐびと飲む。それは「山形のしあわせ」。

長源寺通りの「Rough roLL(ラフロール)」。もう、大好きです。ビール好きのわたしにはたまらないお店です。映画好きなお客さんが集まっているお店という印象もあります。たまたま横にいる人となんとなく映画の話がはじまったり、なんていうちょっと大人な楽しみがあったりするのもいいですね。

山形移住者インタビュー・永田歩美さん/「ようやく辿り着いた感じの場所」
飲み屋街である七日町・長源寺通りで、ビール好きや映画好きなひとたちを夜な夜な呼び寄せる Rough roLL。

食堂「三幸」もあったかい感じがしていいですね。もう、大好きです。ものすごく、しっかり、ちゃんと、おいしい。なのにぜんぜん気張ったところがなくて、やさしい感じに満ちている空間、という気がします。子どもの頃になにかのお祝いで家族みんなでこの店で夕食を食べたりしたら、きっといつまでも大切な記憶として残るんじゃないでしょうか。

山形移住者インタビュー・永田歩美さん/「ようやく辿り着いた感じの場所」
器や見た目からも手づくりのおいしさが滲み出しているような 洋風食堂 三幸の食事。

「白鳥園」は、小鳥やさん。わたしがインコを飼っているということもあり、鳥好きだというのももちろんなのですが…。そもそも「小鳥やさんがある」というだけでうれしくないですか? それだけで山形というまちが好きになります。もう、大好きです。

山形移住者インタビュー・永田歩美さん/「ようやく辿り着いた感じの場所」
お店の佇まいからしてなんともかわいい「白鳥園」。いっしょに暮らしているインコについていろいろと相談に乗ってくれる、永田さんにとってとても大切なお店だ。

距離感が程よくて、居心地よくて
じぶんという身の丈に合っている

すごくいいまちなのに、山形はアピールがあまり上手じゃないですよね。ドヤ顔をしないというか。それは決してネガティブなことではなく、山形のいいところなんだとわたしは思います。露骨に自慢したりせず、どこかシャイな感じだけど、でもプライドはちゃんとあって…。「品がいいまち」ってことじゃないかな、という気がします。

わたしにとって山形は、流れ着いたような場所です。かつて東京で働いているとき、お客さまから「ぜひ山口の萩に行ってみて。すごくいいところだから」って勧められて、面白そう! と実際に萩へ旅したら、そのまちのゲストハウスのオーナーさんに「ぜひ山形に行ってみて、すごくいいところだから」ってまた勧められて。それもまた面白そう! と思って山形まで旅をしに来た、ということがありました。

群言堂の会長に「山形行くか?」と打診されたのは、そのあとのことでした。不思議な縁を感じましたし、当時はいまよりも若くてフットワークが軽かったこともあって、なんだか面白いかもと思って、山形に飛び込んでみたんです。もともとめざしていた目的地ではないけれど、なぜか「辿り着いた」感はすごくあるんですよね、この山形のまちは。暮らしも5年目になって、パートナーも見つけ、結婚もしましたし。とても自然な感じでこのまちの暮らしに浸っています。

ついこのまえ、用事があって東京に行ってきました。会いたい人にも会えたし、とても楽しい時間を過ごしました。でも一方で、どこかちょっと無理をしている感じがあるのもわかるんです。すこし背伸びをしている感じというか…。いつのまにか、山形に帰りたくなっているじぶんがいました。山形はもうすっかり身の丈に合ったじぶんのまちなんだな、と改めて気づいた瞬間でした。

文・写真:那須ミノル