real local 山形再生可能エネルギーに取り組む!/日本地下水開発株式会社 桂木聖彦さん(後編) - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

再生可能エネルギーに取り組む!/日本地下水開発株式会社 桂木聖彦さん(後編)

インタビュー

2022.07.14

温泉王国とか果樹王国とか、さまざまな「王国」を冠される山形ですが、じつは「地下水王国」であるということをご存知でしょうか。特に山形市民は非常に豊かな地下水に恵まれていることの恩恵を享受して生活しています。にもかかわらず、多くの山形市民はそのことに気づいていないかもしれません。

たとえば冬。山形駅前や七日町大通りなどを中心とするさまざまなエリアで、こんもりと雪が積もっている景色のなかでなぜかそこだけは雪が積もらず路面が露出している歩道や車道を見かけます。どんな雪の日でもそこだけは雪がなく、おかげで歩いたり運転したりするのが非常にラク。通勤通学も安心だったり、冬でも快適にジョギングできたり。その道路の消雪に利用されているのが「地下水のもつ熱エネルギー」です。そして、この地下水の熱こそ、さらなる可能性を秘めた再生可能エネルギーです。

この仕組みを開発し、暮らしのインフラとして整備してきたのが、山形市に本社を置く日本地下水開発株式会社です。同社は「地下水のもつ再生可能な熱エネルギー」に注目し、より効率的でより環境負荷が少ない熱エネルギー利用のあり方を研究開発する世界屈指の地下水カンパニーです。こんかいは、同社専務取締役 桂木聖彦さんにお話を伺います。聞き手は、やまがた自然エネルギーネットワーク代表で東北芸術工科大学教授の三浦秀一さんです。

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再生可能エネルギーに取り組む!/日本地下水開発株式会社 桂木聖彦さん(後編)
日本地下水開発株式会社 専務取締役 桂木聖彦さん(右)と、三浦秀一さん

桂木:15度前後という温度で安定している地下水の熱を使って、無散水消雪システムを開発し、雪国の暮らしのインフラとして広げてきた、ということはすでに述べたとおりです。地下水熱という再生可能エネルギーを有効に利用したこの仕組みは、ランニングコストも非常に低く、省エネな仕組みでもあり、CO2排出削減などメリットはさまざまです。

では、地下水がもつこの熱エネルギーというものを冬の消雪以外にも利用できないだろうか。年間を通じた冷暖房システムの熱源として利用できないだろうか、ということを考え、研究開発に取り組んでもきました。そうしてできたのが「帯水層蓄熱冷暖房システム」です。

取り組みスタートは非常に早く、1975年から山形大学工学部と共同研究を開始し、1983年には弊社の本社社屋にこのシステムを導入しています。2009年には環境省クールシティ事業に採択されました。2011〜2013年には環境省地球温暖化対策技術開発事業に、2014~2018年には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の再生可能エネルギー熱利用技術開発事業、2019年からはNEDOの再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発事業に採択されています。

再生可能エネルギーに取り組む!/日本地下水開発株式会社 桂木聖彦さん(後編)

そもそも日本国内において、家庭の中で使用されているエネルギーのうち55%を占めるのが冷暖房給湯といった熱エネルギーです。つまり熱の需要は非常に大きい。しかし一方で、その需要に対して、実際にまかなわれているエネルギー源のうち再生可能な熱エネルギーは1%にすぎません。ですから、再生可能エネルギーを増やそうというときに、電力だけをみるのではなく、地下水熱や太陽熱のような熱利用のこともしっかり考えていくことが重要です。

「帯水層蓄熱冷暖房システム」とは、建物内の冷暖房を、地下水熱を使って実現する仕組みです。たとえば、夏、地下水を冷房に使うわけですが、そのとき、冷房する過程で地下水は熱を帯び、より温かい温度になって地下に戻ります。その温かくなって戻った地下水は、帯水層とよばれる地層で温かいまま蓄えられます。私たちはこの部分を温熱塊と呼んでいます。冬になれば、温熱塊に蓄えられた地下水をこんどは建物の暖房に使用します。温かな地下水を利用するので暖房もより効率的になります。そしてまた、暖房する過程において地下水は熱を取られて冷たくなり、また別の帯水層で冷たいまま蓄えられます。私たちはこの部分を冷熱塊と呼んでいます。そして次の夏の冷房のために使用される、というような循環になるのです。この夏と冬の循環は季節間蓄熱と呼ばれています。

再生可能エネルギーに取り組む!/日本地下水開発株式会社 桂木聖彦さん(後編)
帯水層蓄熱冷暖房システムの概念図。帯水層にある地下水を揚水して、冷房あるいは暖房用の熱源として利用し、使用と同時に別に設けた井戸から帯水層に還元する。「帯水層」とは、地下水で満たされた 砂層や礫層等、透水性が良い地層であり、一般には地下水取水の対象となり得る地層のこと。(提供:日本地下水開発)

この仕組みなら、建物の冷暖房で生じた熱は地下帯水層に蓄えられるため、夏のエアコンのように室外機を通してさらに暑い熱を外に放出することがなく、ヒートアイランドの緩和につなげられます。また、ヒートポンプという機械を使うことによって1の電力で何倍もの熱をつくり出すことができるため、省エネであり、CO2削減効果が高いのも特徴です。

ただ、長く課題だったのは、ヒートポンプであるとか、井戸を掘らなければならないとか、建物内に地下水を循環させるための配管が必要になるなど、コスト的に高止まりになる、ということでした。そこで、わたしたちはイニシャルコスト削減、ランニングコスト削減を含め、より高効率な帯水層蓄熱システムを研究開発してきました。

近年のその大きな成果のひとつが、積雪寒冷地域における高効率帯水層蓄熱システムを利用したZEB(= Net Zero Energy Building)の実現です。ZEBとは、一棟の建物において、つくるエネルギー量が使うエネルギー量とおなじかそれ以上であり、エネルギー収支がゼロ以下になるようにつくられた建物のことです。建物内で過ごす快適さを損なうことなく、必要なエネルギーを減らす省エネの工夫と、発電するための創エネがポイントになります。

私たち日本地下水開発のグループ会社のひとつである日本環境科学株式会社において、このZEB棟を実際に完成させました。地下水熱を利用した高効率帯水層蓄熱システムによって冷暖房をまかなうほか、給湯や融雪もおこないます。さらに屋上には太陽光パネルを設置し、建物で必要とする電力を100%まかない、余剰電力は電気自動車に充電するのも可能です。建物自体の断熱性能が非常に高いため、空調の負荷も少なくすみます。

再生可能エネルギーに取り組む!/日本地下水開発株式会社 桂木聖彦さん(後編)
高効率な帯水層蓄熱を利用したトータル熱供給システムを導入したのがこの建物。エネルギー収支ゼロ以下の建物(=『ZEB』)を実現している。
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地下水を汲み上げ、そしてまた地下に戻す役目をしている井戸。

三浦:そうすると、長く研究開発されてきたこの高効率帯水層蓄熱システムは、このZEBというかたちで今後ひろく展開されていく予定なのでしょうか。

桂木:これまで数多くの建築会社や設計事務所と話をしてきましたが、ニーズとしてはまだまだ、という印象です。しかし、近年ではお施主さんのほうから「ZEBを建てたい、ZEBにしてくれ」と要望する例が増えてきているようです。これから加速度的に拡がる可能性があるのではないでしょうか。

三浦:高効率帯水層蓄熱システムでは、夏場に稼働させることでより温度が高くなった地下水を蓄え、それを冬場の暖房に効率的に利用しています。この仕組みは非常に有効なわけですから、たとえば、山形市内にすでに導入されている無散水消雪の仕組みも、夏場に稼働するようにしてより温かい地下水を帯水層に蓄えれば、それを雪の日の道路の消雪に利用するだけでなく、冬場の市内の建物内の暖房にも利用することが可能ではないでしょうか。

桂木:まさにおっしゃるとおりです。NEDOの担当の方からも、そのような構想やアドバイスを頂きました。無散水消雪システムを夏場も回せば、その地下水の熱エネルギーをさらに効率よく冬場の暖房に使うこともできるだろう、と。冬場に限らず、年間を通して山形市の建物の冷暖房の熱源にも活用可能なはずですし、それができたらものすごいエネルギー削減になるでしょう。ぜひ、そうした地域熱供給というようなところまで研究開発を進めていきたいです。

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ZEB棟のなかに設置されたモニター。エネルギーの利用状況がビジュアライズされている。

三浦:山形市はゼロカーボンシティを宣言していますし、またこれだけ地下水に恵まれ、無散水消雪システムの充実度が全国トップの都市なわけですから、それを利用しない手はないのではないか、と思います。

桂木:無散水消雪システムは、私たち日本地下水開発が40年以上の歳月をかけて取り組んできたものでありますし、また、山形市も自治体として投資してきてここまで普及させてきたものでもあります。そしてまた、商店街やまちのひとの理解があってここまでひろく整備されてきたわけですから、このインフラを次のステップにぜひとも使っていくような流れを期待しています。

三浦:これまでは「消雪のインフラ」だったものが、これからは冷暖房という空調も含めた「エネルギーのインフラ」になりうる、ということですね。

桂木:NEDOの担当の方からは、「『まちづくりのインフラ』になるでしょう」とも言っていただきました。

三浦:山形市がゼロカーボンシティを実現するための有力な道筋のように思いますね。
今日お話を伺って、日本地下水開発という会社は山形拠点のまさにオンリーワン企業である、と思いました。ありがとうございました。

参考
日本地下水開発Webサイト 
NEDO Web magazine

reallocal「再生可能エネルギーに取組む!(グリーンエネルギーフロンティア)」シリーズ
冊子「やまがたの自然からエネルギーを作るやまがたのひと」(PDF版)

Photo: 根岸功
Text:那須ミノル