カリーショップくじら 山形馬見ヶ崎店 店主 ペーターさん
移住者インタビュー
2022年7月、馬見ヶ崎川沿いにオープンした「カリーショップ くじら 山形馬見ヶ崎店」。今回はお店誕生のプロセスと「くじら」のカレーについて、さらには山形移住者である店主のペーターさんが感じる山形の魅力やお店に込める思いについてお届けします。
山形へ移住、そして店を出す
ペーターさんは福島県田村市の出身。2011年に東北芸術工科大学への進学をきっかけに山形に来ました。その後、地元に帰りインテリアショップにて3年ほどインテリアコーディネートの仕事をしていましたが、年に数回は山形を訪れて、友達に会ったりイベントに参加したりしていたそうです。芸工大でクリエイティブな刺激を受け、仲間たちとコミュニティもでき、すっかり山形はペーターさんにとって思い入れのあるまちになっていたのです。
そんなある日「馬見ヶ崎川の物件で店をやらないか」と知人から話をもらいます。山形で何かできるならと2020年秋にもう一度移り住み、同年にカフェ&バー「pub」をオープン。曜日ごとにpubとカレー屋「methi」が交互に営業していましたが、しばらくして業態を見直すことに。
元の店名であるpubは、酒場を意味すると同時に「パブリック」という意味も含まれていました。「まるで公共空間のように、さまざまな人が集まる場所に育てていきたいという思いがあった」とペーターさんは当時を振り返ります。
こうした思いを持ち続けて次の展開を考える中、以前から繋がりのあった東京・高円寺にある「カリーショップ くじら」の山形店を始める方向に話が進みます。
というのも「くじら」のオーナーは山形出身者であり、東京で複数の飲食店を営みながら山形でも新しい活動を展開していました(「くじら」のオーナー・清水幸佑さんのインタビューはこちら)。
ペーターさんは清水さんと以前から知り合いであり「ここならば『くじら』の山形店としておもしろい場所になる」と話がまとまり、暖簾分けのために約1年間、東京へ修行しに行くことに。カレーづくりと店舗運営についてじっくりと学び、2022年に「カリーショップ くじら 山形馬見ヶ崎店」としてリニューアルオープンすることになりました。
爽快POPな本格スパイスカレー
くじらでは3種類のカレーが楽しめます。
まずはベーシックな「チキンカリー」。カレーにはジューシーな鶏肉がどーんと乗っかっています。スパイスはばっちり効いていますが辛さ控えめで、しっかりとコクのある味わいです。
続いて「ポークビンダルー」。西インド・ゴア地方発祥のカレーです。口に入れた瞬間、視界がパァっと開けるようなさわやかさ。さわやかさの正体は赤ワインビネガーの酸味です。まずは酸味が広がり、スパイシーな煽りを受けて、辛味と甘味のパンチをくらうという展開。食べた直後は口の中がヒリヒリしますが、また食べたくなってしまう中毒性があり。こちらにはゴロっと豚肉が乗っています。
もうひとつが「牛キーマカリー」。粗挽きの牛肉をメインとしたドライな仕上がり。コリコリとした蓮根の食感がアクセントになっています。くじらのカレーは3種類すべてさわやかなスパイシーさがありますが、中でもキーマカリーは爽快系のスパイスが効いた軽やかでおしゃれな味。
お米はインディカ米の一種であるバスマティライスが使われています。細長いかたちでぱらぱらとした軽い食感がカレーとよく合います。
これらのカレーは高円寺に本店をかまえる「カリーショップ くじら」直伝のレシピをもとに、ペーターさんが毎日山形馬見ヶ崎店にて仕込んでいるもの。くじらはグルメサイトでカレー百名店に選ばれるほどの人気店。そのレシピを踏襲しながら山形らしさも提供していきたいとペーターさんは話します。
「東京の店舗ではバスマティライスのみを使っていますが、ここでは山形産のはえぬきを少しブレンドしています。今後は季節の野菜を使ってオリジナルの付け合わせをつくっていく予定です。くじらのカレーに山形ならではの楽しみやオリジナリティを添えていきたいと思っています」
カルチャーと出会える場所
くじらの独特な世界観はカレーだけにとどまりません。店内の空間もまるでおもちゃ箱のようにセンスやユーモア、カルチャーが詰め込まれています。正面の壁にはアートが描かれており、各所にオブジェや工芸品、アートピースが散らばる空間。CDやラジカセもあります。
東京のくじら自体がアーティストや漫画家などクリエーターと縁が深い店であり、山形馬見ヶ崎店でも音楽やアート、イラストやデザインなどのカルチャーに出会うことができます。近くには専門学校や山形大学、芸工大もあり「ぜひ学生さんにも気軽に立ち寄ってほしい」とペーターさんは話します。
「セレクトショップやカフェなど、若い頃にちょっと背伸びして入ったお店って記憶に残りますよね。僕も学生時代に無理して買ったレコードや洋服がありましたが、若い世代にとってそういった体験やモノに出会える、ひとつ大人になるきっかけになるようなお店にできたらいいなと思っています。
先日は高校生が立ち寄ってくれて、すごく嬉しかったんですよ。カレーを含めたこのお店のあらゆるものが新しい刺激になったらいいなと思います」
豊かな自然の中で遊びをつくる
大学進学をきっかけに山形に来たペーターさん。一度は地元の福島に戻りながらも度々山形を訪れ、さらにもう一度移住してビジネスを立ち上げることに。一体なにがペーターさんをこのまちに惹きつけているのでしょうか。
「ここの土地柄が自分に合っているのだと思います。ゆっくりとした空気感で人とも密な関係になりやすい。芸工大というお世話になった学校もあり、いまでも友達がたくさんいるし、現役の学生との繋がりもあります。
クリエイティブな要素があることも魅力で、ドキュメンタリー映画祭があったり、かつて蔵王では「龍岩祭(2006年から12回開催されてきた音楽イベント)」があったり、僕らの下の世代が「岩壁音楽祭」を立ち上げたりと、『カルチャーを自分たちの手でつくっていく』というマインドがあり、それを実現するフィールドもあります。
日常的にも僕の周りには童心を持っている大人が多くて、夏には川遊びをして涼んだり、秋になったら河原に集まって焚き火を囲んでコーヒーを飲んだりと、遊びに対してクリエイティブなんです。お金をかけずに豊かな自然の中で遊び場をつくるのが楽しくて、そういった感性を共有できる人がいる。山形はおもしろい場所だなぁと日々感じています」
馬見ヶ崎川のほとりで
お店の目の前にはゆったりとした馬見ヶ崎川が流れています。店名が「くじら 山形店」ではなく「くじら 山形馬見ヶ崎店」であることからも、ペーターさんにとってこのロケーションは大きな意味を持つことが感じられます。
「ここではカレーを提供しますが、その楽しみ方はお客さんにお任せしたいと思います。もちろん店内で食べていただくのもいいし、飲み物用のタンブラーを貸し出しているので、テイクアウトして川沿いで飲んだり食べたりしてもらうのもいい。この場所は夕暮れが最高なので、ビールやドリンクを片手に外のベンチで食べるのもいいし、食後には護国神社に立ち寄ってもらうのもいいと思います」
「ここに人が集まって周辺エリアに出るきっかけになれたら嬉しいですね。それは『pub』だったときから変わらない思いです。今後はマルシェやイベントに出店したり、お店でパーティを主催することも計画しています。ぜひ気軽に立ち寄って、くじらのカレーと馬見ヶ崎川のエリアを楽しみに来てください」
取材・文:中島彩
撮影:伊藤美香子
屋号 | カリーショップくじら 山形馬見ヶ崎店 |
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URL | |
住所 | 山形県山形市双月町2丁目1-2 |