山形移住者インタビュー/武田光司さん
インタビュー
#山形移住者インタビュー のシリーズ。今回のゲストは武田光司さんです。
奥さんのご実家が山形県にあることをきっかけに山形市に移り住み、まもなく3年目を迎えようとしている武田さん。このまちに来てから、自然の恵みや周辺環境に影響を受けて料理や農業など、“自分自身でつくること”に関心を持つようになったそう。ご自身いわく「感性が目覚めた」と話すほど、内なる欲求が刺激されているという山形ライフについてお話をうかがいました。
出産・子育て支援が移住の後押しに
生まれは秋田県大曲市です。仙台の専門学校を卒業後、板金塗装の会社に就職し、結婚をして6年ほど仙台で暮らしていました。その後、秋田の営業所に異動になって5年が経った頃、山形に住む妻の両親が体調を崩し、看病をサポートするため2021年4月に山形に越してきました。
妻の実家は長井市ですが、会社の営業所がある山形市で家を探すことにしました。いずれ子どもを持ちたいという思いがあったので、出産や子育てについても調べてみると、山形市では0歳から中学3年生まで医療費が無料だったり、児童遊戯施設が整っていたり、山形県には出産給付金制度があることがわかりました。出産や子育てがしやすそうなことも移住の後押しになりましたね。
山形のことは全然知らなかったので新鮮な気持ちで移住してきたのですが、山形市って思いのほか都会で便利だなぁというのが第一印象でした。
農産物のおいしさ
山形の魅力はたくさんありますが、僕のなかで一番にあげるとしたら農産物がおいしいこと。気づいたきっかけは「山形セルリー」でした。もともとセロリが大嫌いだったんですよ。でもJA山形のブランド野菜としてスーパーで推してるので、ちょっと食べてみようかなと試したら、めっちゃくちゃ食べやすくてみずみずしくて。野菜ってこんなにおいしいんだと改めて気づいたことで、他の野菜にも興味を持つようになりました。
伝承野菜もおもしろいですね。Q1のマルシェで最上伝承野菜の「畑茄子」と出会い、その甘さにびっくりしました。あとは長井市の「馬のかみしめ」という大豆もおいしいんですよ。筋トレをするのでタンパク質を意識して摂っているのですが、ここの大豆は大ぶりで食感が良いし、味が濃くてピカイチです。
農産物のおいしさに気づいたせいか、山形に来てから外食が減って自炊をするようになりました。発酵食品にも興味が出てきて大豆から納豆をつくったりもしています。いずれはコーヒーの焙煎にも挑戦したいです。
「自分でつくりたい」と思わされる場所
周辺の市町村にもおもしろい場所がたくさんあって休日は夫婦で出かけることが多いです。昨年、湯殿山ですごくいい体験ができて、出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)を制覇するのも今から楽しみなんです。これまでは自然や神社仏閣に全然興味がなかったのに、自分でも不思議だなぁと思っています。
おいしいお店もたくさんあって、最近のお気に入りは山辺町にある惣菜屋「ヤマキチ」さん。ここの醤油や味噌もおいしいんですけど、地域の旬の野菜を使ったランチもおすすめです。知らなかった食材や食べ物に出会えて、自炊の勉強にもなります。この野菜はこんなふうに煮ればいいのか。今度つくってみよう!って。
山形に来てから価値観が180度くらい変わりましたね。以前は商品を買うこと、つまり消費することが前提でしたが、ここに来て「自分でつくりたい」という欲求がフツフツとわくようになりました。農業がしたいし、料理も楽しいし、いろんな食品を自分の手でつくってみたい。目覚めてしまったというか、内なる感性が研ぎ澄まされていくというか。僕自身も自分がこんなふうに変わるとは予想していなかったですし、妻も僕の変化にびっくりしているようです(笑)。
農園付きのカフェを開きたい
将来の目標は、郊外のちょっと広めの敷地に家を持って、そこに畑をつくり自宅でカフェを開くことです。自分でつくった野菜で料理をして、自家焙煎のコーヒーと一緒に提供できたらいいなと考えています。
近くでシェア農園もやれたらいいなと思っています。市民農園が人気で入れない人もいると聞くし、若い人でも土に触りたい人がけっこういるんじゃないかなと思うんです。区画をギチギチに区切らず、ゆったりと空間をシェアしながら農業するのが理想です。気軽に農業を体験しながらカフェも楽しんでもらえる、そんなコミュニティがつくれたらいいなと思います。
農業の扉をたたく
もっと野菜づくりを学びたい。そんな思いがつのり、板金塗装の仕事をやめて農家に転職することになりました。農家さんについてリサーチしていたら「みはらし水耕農園」のホームページに行きつき、農業はまったくの素人ですが働かせてもらえないかと直談判したところ、受け入れていただけることになったんです。農業×カフェ×ハーブという自分の将来のビジョンとピッタリ重なったこと、そして「アクアポニックス」という珍しい栽培方法で、環境に優しく、省スペースでできる点にも興味を持ちました。
今までは消費者として生産者のみなさまにお世話になってきましたが、これからは私自身が農家としてみなさんの食生活を支えていきながら、カフェの夢を実現するためにがんばっていきたいと思います。
取材・文:中島彩