real local 山形再生可能エネルギーに取り組む! 株式会社 板垣水道 板垣一紀さん(後編) - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

再生可能エネルギーに取り組む! 株式会社 板垣水道 板垣一紀さん(後編)

インタビュー

2023.03.05

まちの水道屋さんが、再生可能エネルギーに取り組んでいる。全国的にもかなり稀有なそんな事例が、山形県鶴岡市にあります。

株式会社板垣水道というその会社は、その名の通りまちの人々の暮らしに欠かすことのできない給排水まわりの設置工事などを生業としてきましたが、それだけにとどまらず、ガスや電気といった暮らしのエネルギーを供給する役割もまた担ってきました。そして現在ではさらに、薪やペレットなどの木質バイオマスを活用したボイラーやストーブの販売、設置やメンテナンスといった事業までをも展開し、さらにその先に、地域の未来のために必要な新たな事業へのチャレンジも模索しています。

というわけで、「山形の自然からエネルギーをつくる、山形のひと」を紹介していくこのシリーズ。(事業主体がどこかの見知らぬ大手資本ではなく、地域のひとであるということがこのシリーズの大きなポイントのひとつとなっています)こんかいは、同社代表の板垣一紀さんにお話を伺います。聞き手は、やまがた自然エネルギーネットワーク代表で東北芸術工科大学教授の三浦秀一さんです。

再生可能エネルギーに取り組む! 株式会社 板垣水道 板垣一紀さん(後編)
板垣水道代表の板垣一紀さん(右)と、やまがた自然エネルギーネットワーク代表の三浦秀一さん(左)。ペレットマン鶴岡展示場内にて。

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ペレットマン2号店として
木質バイオマス事業に挑戦

板垣:ですが、一方で、当時のわたしには「木を燃やす技術」に強い苦手意識がありました。それもそのはずで、それまで薪ストーブもペレットストーブもまったく未体験どころか、触ったことすらありません。木をどうやってうまく燃やすのか、木とはどういう燃料なのか、そのノウハウも知識もまったく持ち合わせていませんでした。まるでゼロ、なにひとつわからないのです。それでも、じぶんなりに考えるところがあり、「まずは木質バイオマスのストーブからチャレンジしてみよう」と決めました。薪ストーブやペレットストーブをやれば、木を燃やす技術を学ぶことができる。そうすればやがてきっと薪ボイラーにも展開できるはず、と考えたからです。

それで声をかけたのが、小国町で木質バイオマスにすでに取り組んでおられたPelletman(ペレットマン)の高橋睦人さんです。オーストリアから帰国して三日後のことでした。「なにかやりたいけど、技術がなにもない。だから、高橋さんといっしょにペレットマンをやることからはじめたい。パートナーとしてやらせてほしい、一緒にやりながら教えてほしい」とお願いしたのです。そしてそれから一年後、わたしたちはペレットマン2号店をこの鶴岡にひらき、薪ストーブやペレットストーブの設置施工といった事業をスタートしました。これを皮切りにそれまで単独店であったペレットマンは山形県内各地にひろがり、さらには全国にまで広がりつづけています。

こうして木質バイオマスに取り組むようになったわけですが、わたしにとってそれは長く抱えていた疑問に対するひとつの解答でもありました。というのも、震災以前から「わたしたちのこの仕事は、環境問題にどんな貢献ができるのか」ずっと悩んできたからです。石油給湯器もガス給湯器もCO2を排出します。電気はクリーンのようでも、その多くは原発や火力によるもので、やっぱりCO2と切り離すことができません。けれど、木質バイオマスなら「森を育てる」ことを踏まえながらであればカーボンニュートラルを実現できる。これなら、わたしたちの仕事も環境にダメージを与えないものになる。企業としても人としてもこれが正しい、とようやく思えるこたえに辿り着けた気がしました。

再生可能エネルギーに取り組む! 株式会社 板垣水道 板垣一紀さん(後編)

再生可能エネルギーに取り組む! 株式会社 板垣水道 板垣一紀さん(後編)
板垣水道のオフィス横が「ペレットマン鶴岡店」展示場。ペレットストーブ&薪ストーブおよびペレットボイラー&薪ボイラーの設計、販売・取付、メンテナンスなどを行うほか、ペレット燃料の配達もしている。

木質バイオマス特有のむずかしさを
楽しさに変えていきたい

三浦:なるほど。そうして水道屋さんでありながらも木質バイオマスのエネルギー事業に携わるようになり、なにか新しい気づきがありましたか。

板垣:日本では、石油やガスや電気といったエネルギーは、規格が非常に安定しています。たとえば、電気給湯器などを取り付ける際、その設置工事をおこなうわたしたちのような工事店には負担がかかることはほとんどありません。電気会社やメーカーが保証してくれる部分が非常に大きく、一度取り付けてしまえばメンテナンスの必要もないまま10年間くらいは動くわけです。

しかし、木質バイオマスという燃料になると事情が変わってきます。例えば、薪やペレットなどの木質燃料というのは、良し悪しがわかりにくいものです。樹種や乾燥具合によって燃え方が変わりますし、燃料としての規格もなく、品質にばらつきもあります。そういうなかで燃焼を正確にコントロールするノウハウを得るのは非常にむずかしいわけです。

工事会社としても、設置して「ハイ終わり」ではなく、「お客さんと一緒につくり上げていく」というような姿勢が必要になってきます。簡単に済ますことができないようなこうした要素があるということが、石油やガスや電気に比べて、国内で木質バイオマスが普及しない原因のひとつかもしれません。もちろん、国の方向性や本気度というのも大事で、ヨーロッパは気候変動や温暖化への対策の本気度が違いますよね。次世代のために環境を守る強い意志が明確に出ています。

三浦:木質バイオマスは、電気やガスのようにメーカー保証があるわけではない分、その部分を地域の工事屋さんや水道屋さんがじぶんの頭で考えたり、工夫したり、技術力をあげていったりしながら対応していかないといけなくなる、ということですね。

板垣:そうなってきます。逆を言えば、電気屋や水道屋であっても、下請けだけやっていればいい、というものではない、ということです。さまざまな試行錯誤やプラン変更はあたりまえのことで、いろんな現場判断が必要になってくる。ですから、それを面白がるくらいの感覚がないとやっていけないのではないでしょうか。木質バイオマスの経験を積むためにはやはり時間もコストもかかりますが、そういうことの一つひとつを積極的に楽しんでいけるといいですよね。

再生可能エネルギーに取り組む! 株式会社 板垣水道 板垣一紀さん(後編)

再生可能エネルギーに取り組む! 株式会社 板垣水道 板垣一紀さん(後編)
(写真上)板垣水道が薪ボイラーを設置した遊佐町のとあるお客さまの住宅の様子。「給湯のプランはお客さまと一緒になってつくり上げた感覚」だと言う。 (写真下)おなじお客さまの住宅の薪ストーブ。「たとえ停電になっても、あったかい家にしたい」というのがこのお客さまからのご要望のひとつだった。

薪ストーブのある暮らしを
地域のために支えていきたい

三浦:これからの展望などをお聞かせいただけますか。

板垣:すでに取り組みをはじめているのですが、薪を使う生活を取り戻すお手伝い、をしていこうと思っています。じつは、このあたりの地域には、じぶんの山を持っていて、ずっとじぶんで薪づくりしながら薪ストーブのある暮らしをしていたひとが多いのです。けれど、いまは高齢などの理由によって、「もうじぶんで薪をつくることができなくなったから、薪ストーブはやめてしまった」と言うんですね。

そういうひとたちに、薪のある暮らしをもういちど楽しんでほしい。そのために必要なこと、例えば、原木を運ぶこと、木をチェンソーで切ること、薪割りすることなど、部分的にでもトータルにでもいいので、面倒なことや大変なことをわたしたちが代行して担っていくという事業をはじめています。実際の実働の部分では、地元の社会福祉施設の作業所さんとタッグを組んで、新しい仕事としてやってもらいながら、そんな動きを進めていこうとしています。地域の森林資源の活用と、木質バイオマスの普及と、雇用の創出と、文化の伝承といったことを、うまく循環させていければ、と。

そして、さらには、オーストリアで「マイクロネッツ(Mikronetz)」と呼ばれていた、小規模な地域熱供給のシステムをこの地域に導入できたら、と想像しています。ひとつの薪ボイラーを集落で共有し、そこから各家庭につながっている管を通して給湯と暖房を供給するというこの仕組みは非常に優れたものだと思います。これなら、高齢者の一人ぐらしの家にも安心して熱を供給できますし、各家庭は燃料を買う必要もなく熱をそのまま買うだけでいいので、とてもラクで安全です。そういう仕組みづくりにもこれから貢献していけたら、と思っています。

三浦:「再生可能エネルギー」というとどうしても発電機やボイラーやストーブというところばかりがイメージされがちですが、じつは「水道」というのも非常に重要な役割を果たすものだということ、ぜひ、多くのみなさんに知っていただきたいですね。

板垣:木質バイオマスに関わることでわたしたちは「水」だけでなく「炎」のことを知ることができました。燃料として森の木を使いつつ、森を健康にしていくことでまた安全で安心な水もつくられていきます。「水」と「炎」というふたつを掛け合わせながら、これからの地域社会に高い価値を提供していきたいです。

 

株式会社板垣水道
https://kaiteki-koubou.com/

やまがた自然エネルギーネットワーク
https://yamaene.net/

Pelletman
https://pelletman.jp

real local Yamagata 「再生可能エネルギーに取り組む!」シリーズ

photo:根岸功
text:那須ミノル