山形の街から【とつぜん山】を見つめて
連載
山形市に移住した刺繍作家yoyoyoさんによる、街の魅力を発見する日記です。
やまがたの街を歩いていて好きな事。それは「建物のあいだから顔を出す山が大きく見える事」です。
初めて見た時は、すごく新鮮で驚きました。ふだん何気なく見ている景色に驚かされるとゆう経験は、私の出身地である埼玉にはありませんでした。
私は夫と2人暮らしです。車は持たずに暮らしています。移住した時に車をもともと持っていなかったので、なるべく歩くだけで済むように街の中心部に住む事にしました。
だから、普段は徒歩か自転車で行動する事が多いです。たまにバスにも乗りますし冬場は特にその機会が増えます。家から山形駅までは歩いて20分くらいなのですが、ゆっくりと1時間くらいかけて散歩する事もあります。
私は動物園で見る「屋内にいるカバ」が好きなのですが、動物園のカバというとみなさんは広い屋外にいるカバをイメージされるかもしれませんが実は夕方になると屋内の小さな部屋に帰ります。檻があって、小さなプールがある部屋に一頭ずつ入ります。
部屋に帰ったカバは屋外で見るカバよりずっと間近で見られるのでより大きく感じられ、リアルで、びっくりします。近くで見るカバの肌の質感、大きな口、大きな足、どこを見ているかわからないつぶらな目…。その、生々しく大きいカバを見た時のびっくり感がとても好きなのです。そしてそれは、山形の山が街の中から大きくその姿を現す出来事と私の中では同じ感覚なのです。自分の想像を超えた何か大きなものを見てしまった、という感覚になるのです。
歩いていて、信号待ちに山が見えた時、曲がり角を曲がったら山が現れた時、声には出さなくても「わー!」と心の中で叫び出しています。「で、出たー!」みたいな叫びです。そしてその山を見ているとすっきりとした、凛とした気持ちになり、自然とにやにやしてしまいます。
街の中から山が大きく見えること。それは私だけでなく夫もとても気に入っています。
「街の奥に山が大きく見えると、自然と目線が上を向く」と言っていました。自然と上を向いてしまう。それってなんて素敵な事だろうと思います。都会では知らない間に疲れていたり、森の中ではふと気がつけば深呼吸したりしますが、自然に上を向くなんてことにはなかなかならないように思います。でも、この街では、むこうに大きな山があるから、顔は自然と上を向く事ができる。
目の前にとつぜん現れるこういう山の事を【とつぜん山】と名付けよう、と決めました。
その名の通り、【とつぜん山】はいつもとつぜんに現れるからです。【とつぜん山】は、「おっ!あっちの方に山が見える!もう少し近づいてみようかな」と欲を出して近づくと建物に隠れてさっきより見えにくくなったりします。「じゃあこっちの路地に入ってみようかな」と路地に入っても逆に狭い道だと建物が近くて山がよく見えなかったりします。山を求めてぐるぐる歩いて疲れて引き返した時にふと後ろを振り向くといい感じに【とつぜん山】が見えたりするものなのです。それはつまり、街の中で宝探しをしているような気分です。
季節天候によっても山の見える様が変わります。すごく晴れた日にはいつも見える山の奥に、さらに山が見えたり、冬だと手前の山の雪が溶けていても奥の山は真っ白だったり。夏は緑の山と濃い青空のコントラストがはっきりと分かれていてすごく綺麗です。かつて知人が「冬から春に季節が変わる時、山と空の色が変わってくる。それを見ると、おお春がくるんだな、と感じる」と話していました。街から見た山の様子で季節を感じられる事も、【とつぜん山】の魅力なのです。
みなさんもいい【とつぜん山】を見つけたら、教えてください。私は【とつぜん山】を探す旅に出ようかな、と考え中です。
応用編【とつぜん山】