【鹿児島県阿久根市】選択肢を知り、半径数mの世界を豊かにする ／ 落合ぶどう園 落合健二さん・里砂さん

お二人は共通の趣味だったサーフィンをきっかけに出会い、7年前に結婚。

結婚後は健二さんのご実家のぶどう園に里砂さんが合流し、農家として夫婦で従事されます。

1年程経ち、里砂さんの中である想いが芽生えてきました。

“ぶどうを作るのに、どうしてこんなに農薬を使うんだろう…。”

“農薬を一番浴びるのは作り手である生産者である私たち。だから、農薬をかけるのを止めてほしい。”

そこで健二さんのお父さんにぶどうの無農薬栽培の提案をしてみたのです。

しかし、収入面や生産量の低下が懸念されることもあり、反対されたといいます。

「父が反対する気持ちもわかります。だって、今まで積み重ねてきたことを、ある意味で否定された気持ちになるでしょうから。」

「だから、口ではなく、行動で示そうと思い、岡山でぶどうの無農薬栽培を実践されている方のもとで研修を受けることにしました。それを実践し、結果を示せば、父もわかってくれると思ったんです。」

鹿児島に戻った二人を待っていたのは、理想とはかけ離れた現実でした。

お二人とお父さんの想いのすれ違いもあり、一旦ぶどう園の仕事から離れることになったのです。

それでもお二人の気持ちは揺るぎませんでした。

“少し距離を置いて、お互い頭を冷やした方がいいのではないか。”

“ピンチをチャンスに変えよう。”

「ぶどう園に戻っても、私たちの想いは変わりませんでした。無農薬栽培を数年継続していくうちに、今までと違ったお客様がつき、ちゃんと生活できるレベルまでもっていくことができました。」

「今は父からは反対の言葉はありません。特に、言葉で説得せずに、少しずつ、じんわりと自分たちで積み上げてきたものを見て、認めてくれたんだと思います。」

無農薬栽培に切り替え、SNSでの情報発信をするようになると

安心してぶどうを食べたいと考える消費者からの購入が増えたそうです。

「無農薬栽培をしているからといって、農薬を使うことを否定しているわけではありません。私たちは自分たちの健康を思って作り始めた結果が今のやり方なんです。」

「選択するのはあくまでお客様です。大事なのは、選択肢や事実を伝えること。もしかしたら、それがその人以外にも違うカタチとして良い循環に繋がるのではないかと思っています。」

できる人ができる時にできることを

現在、阿久根市の地域おこし協力隊（以下：協力隊）と連携し『うみがめクリーン隊』として月一回、ビーチクリーンを開催しています。

ずっと続けてきたサーフィンを通して、健二さんなりに感じられた環境に対する危機感が発端だそうです。

開催する場所は阿久根市内のいくつかの海岸を協力隊と調整しながら決めていきました。

「阿久根に住んでいる私たちですら行ったことのない海岸もあって、活動を通して、主催している私たちにとって新しい発見や学びばかりでした。」

「月によって、平日と土日を分けて開催していたので、参加者も様々でした。初めましての方も多くて、繋がりも広がっていきました。」

「自然環境保護活動が目的ではありますが、結果的に楽しんで活動ができています。皆さんには “できる人ができる時にできることを”と伝えているので、無理なく続けられていると思います。」

その輪は少しずつ広がり続けていて、阿久根に引っ越ししてきたばかりの人や出勤前の活動として参加する人など、今年で4年目の活動となりました。

無農薬栽培と同じように、お二人がこの活動で大事にされているのは阿久根の海の現状を伝えること。

“毎月活動に参加することではなく現状を伝えることで、

それを知った人が海に行った時は必ずゴミを持ち帰るようになったり、ゴミを出さないように生活習慣を変えたりするかもしれない。“

“そんな意識や海を愛する気持ちを育てていきたい。”

そういう意味ではビーチクリーンは成功ではないかと手応えを感じているそうです。

「この活動は教育的観点でも捉えています。ゴミが蓄積していったその先に人間の人体や次世代が生きる環境に悪影響を及ぼすなど、ほんの小さなことかもしれませんが、少しずつ伝えていくしかありません。」

「この活動も無農薬栽培と同じで人に押しつけるものではないんです。皆さん、家庭や仕事が違えば、関われる範囲や時間だって限られてきます。」

「だから、“この人たち、何かやっているな”というぐらい意識してもらえたら、それでいいんです。それが、その人たちにとって海に対する考えるちょっとしたきっかけになったら嬉しいです。」

普段見慣れない角度から半径数mの世界を知る

数年前、SUPボードを手に入れたのを機にアクティビティ体験のサービスを提供しています。

独学でSUPを学び、阿久根の脇本海岸周辺にて5月上旬から10月上旬を目処に開催しています。

普段見慣れない海から陸を眺めることができ

海面に立っている感覚になり気持ちいい時間を過ごすことができるそうです。

時にはウミガメに遭遇することもあれば

夕暮れSUPでは沈み行く夕陽を海上や岩場から眺めるという贅沢な時間も過ごせます。

「人によって“海は危険だ”とイメージがついているので、海の上で遊ぶことはハードルが高いことかもしれません。SUPであれば泳げなくても海の上に立つことができるので、海を楽しむ選択肢が広がると思っています。」

「元々はサーフィン以外で私たちが楽しむ目的でSUPを始めたのですが、それを知った友人が一緒に参加して“楽しい”と言ってくれたんです。そこから自然に事業になっていきました。」

「サーフィンとの違いはゆっくりと海での時間を感じられることです。海の生物や陸の地形など、普段暮らしていたら気づかないことをたくさん発見できます。」

お二人の活動を伺っていると

半径数mの世界で自分たちができることを、少し角度を変えながら世界を広げられているように感じました。

そんなお二人に今後の展望について伺いました。

「ぶどうやウミガメ、海にしても私たちにとっての愛しさの対象は自然であって、声なきモノたちなんです。そういう声なきモノたちの声を聴けるような人でありたい。」

「私たちは夫婦同士愛し合っていますし、飼っている猫も大好きです。でも、命があるものだけじゃなくて、自然の海や水なども生きていると思っています。」

「だから、常にどこかに命を感じるところで居心地良く過ごせるように自分たちの手の届く範囲でできることは無理なく続けていきたいです。」

「無農薬ぶどう栽培についてはカタチができてきて、継続に入っている状態です。無農薬栽培だからこその自然の姿を目の当たりにして苦労が絶えませんでしたが、それらを受け入られるようになり、気持ちも楽になってきました。」

「そうなれたのも、ここ数年で様々な選択肢を知ることができたからだと思います。失敗したとしても、それをポシティブに捉えて前に進めるようになったんです。“違う選択肢があるから、きっとなんとかなるんだ”って。」