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【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.4

連載

2023.05.26

山形市長町にある〈エンドー〉は、地域密着型のスーパーである。創業は昭和40年。以来、地元の人々に親しまれ続け、日々、さまざまな顔が集う。そこにある時間と、ここにしかない風景。今日のエンドーでは、どんなことに出会えるだろうか。

【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.4

桜は散ってもいつだって花は咲く。
常連さんの集い「エンドー女子会」

「女子力」が求められる時代は過ぎ去ったが、「女子会」はどこにでも存在している。カフェや居酒屋で、あるいはファミリーレストランで。「家くる?」みたいなパターンもあるだろう。そんな女子会がひらかれる場所として、まちのスーパーというのはこれまで一度も聞いたことがない。

エンドーで行われている女子会とは、常連さん同士のあいだで日常的に行われている「お茶飲み」と、季節にちなんだイベントが融合した集いである。

参加者の年齢層は65歳〜90歳で、お花見会(4月)、芋煮会(9月)、新蕎麦(11月)、寒鱈汁(2月)の年4回。夏は「昼市」というエンドー最大規模のお祭りがあるので女子会はお休み。お茶飲み自体は一年中、毎日のように行われている。

今年のお花見会が開催されたのは4月19日。エンドーの近所にある熊野神社へ行ってみると、桜はすっかり見頃を終えていた。このところ風の強い日が多く、一気に散ってしまったようだった。お花見、といっても会場は店内。みんなでお弁当を食べる会なので、その点は問題ない。桜の木から視線を落とし足元に目をやると、ヒメオドリコソウと菜の花が咲いていた。雑草と呼ばれることもあるけれど、立派な春の草花たち。

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定刻の1時間ほど前になると、参加者のみなさんが続々とお店にやってくる。エンドーのじいちゃん(英弥さん)が出してくれたお茶を飲みながら雑談し、お弁当ができあがるのを待つ。雑談のテーマは幅広い。おすすめの桜スポット、趣味のゴルフ、通っている病院、選挙の挨拶回りのこと、漬物の漬け方や寒鱈汁について……。私も少しだけ雑談の輪に入れてもらったので、今回はその様子も交えながらお伝えしていきたい。

−今年、お花見はしましたか。

「霞城公園と馬見ヶ崎の川沿いは見たね。桜のトンネルみたいだっけ」
「馬見ヶ崎のところね。あそこきれいだねえ」
「万歳橋のシベールあっぺした? あそこもきれいなのよ」
「この千歳駅の通りも昔はすごくきれいな桜並木だったんだよ。
 アスファルトにする前は道路の両端が桜でね。もう何十年も前の話になるんだけどね」

−お住まいはお近くなんですか。

「私は2、3歩(笑)」
「私はちょっと離れてるから車で」
「私は電車で。エンドーのじいちゃんの姉です(笑)」
「あら〜、んだの。ずいぶん似ったでっか」
「んだがら(笑)。こういう会あっとぎは誘ってくれんのよ」
「それはいいごどだべした。家さいるよりいいもんだ」
「コロナでどごさも行がんねがったもんねえ」

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−今回は初めてのご参加ですか。

「この前は寒鱈汁のときだったんでないがなあ」
「私は芋煮会。あれは9月だが10月でないっけが」
「私も芋煮会は何回もきたっけな」
「この集まりコロナ前からだがら4年近くなるんでないが?」
「んだねえ。だがら今日はしばらくぶりの人もいだっけげど」

−「寒鱈汁」ってどういうものでしょう?

「冬にとれるタラを使って作るんだけどね。身も使うんだけど、頭とかアラを使ってダシをとるの。庄内のほうの料理なのかな。昔は生のものって山形までなかなか入ってこなかったのよ、私らが若いころは。交通の便も悪くてね。だから生ものなんか入ってくると珍しいもんで、もったいないから頭とか内臓とかアラの部分を使ってお汁にしたんだと思うよね。だからおそらく漁師さんから始まった。要するに『ざっぱ汁』よね。それがおいしいかったのと、だんだんと内陸のほうにも生ものが入ってくるようになって、みんなに広まってったのかな。タラのほかには白子、あとはネギと豆腐ぐらい。あんまりいろんなものは入れない。最後に味噌で味付けするの」

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ここには雑談のプロがたくさんいる。昨日会ったばかりでも話題は尽きることがなく、沈黙や微妙な間が気まずいなんてこともないし、しょうもない質問を投げかけてもちゃんと拾ってくれる。

コロナ禍によって、私たちのコミュニケーション手段は大きく制限され、オンラインでのやり取りが主流となった。デジタル世代ではない人々にとっては何かと不都合が多かったことだろう。常連さんたちの大切な日課であるエンドーでのお茶飲みの時間も、得体の知れないウイルスによって奪われてしまっていたのは事実だ。直接会って、同じ時間を共有しながら雑談することの必要性。多くの人々がそれに気づき、それを求めていたのではないかと思う。

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テーブルの上にはいつの間にかタッパーが並んでいる。
青菜漬けの白和え、きゅうりの古漬け、しもしらず(白いんげん豆)の煮物、鯖缶ときゅうりの和え物。女子会やお茶飲みのときは、こうして手づくりのお惣菜を各々が持ち寄るという。そんな光景を前に「ギャザリング」や「ポットラック」といったワードが思い浮かんだ。海外では定番の持ち寄り形式の集まりであるが、そのスタイルは山形でも定着していたのだった。

「ばあちゃんだの食いものも食べでみで。この人作るのとってもじょんだのよ(上手なのよ)」。
お皿に盛り付けていただいたのでお言葉に甘えていただくと、しみじみとおいしい。素朴でありながら、ふくよかな味わいが口いっぱいに広がる。山形のお母さんたちでなければ出せない味だ。

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参加者全員が揃ったところで「特製お花見弁当」が運ばれてくる。
お弁当のふたを開けると、みなさんの表情がぱっと明るくなった。春の山菜と野菜の天ぷら、お刺身3種、海苔巻きに軍艦、銀鱈の西京焼き、行者にんにくの醤油漬け、野菜の炊き合わせ、食べやすいひと口サイズのとんカツ、ポテトサラダ。それから蛤のお吸い物。計9品もある。

手の込んだ美しいお弁当を目の前にしたら、やはり食べる前に写真に残しておきたいもの。それぞれに鞄から携帯電話を取り出し、こだわりのアングルでつかの間の撮影タイム。

「おいしそうだごど。ちゃんと撮れったんだべが」
「どれや?このスマホの使い方、何回やってもわがんねのよ」
「私も。娘さ聞いたり孫さ聞いたりしてやってっぺした」
「ときどきへんな電話きたりしてよ。LINEで100回もきったっけ。
 だれだが全然わがんねもんで、娘にブロックだが消してもらったがしたんだ」

写真に収めたあとは、先ほどと打って変わって黙々と食べるみなさん。おしゃべりは一旦休憩。今度は箸が止まらない。よく笑い、よく食べる。それが元気の秘訣でもあるはず。

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エンドーを訪れると、そこにはいつもお茶飲みを楽しむ常連さんたちの姿があり、まるでここはひらかれたお茶の間のようである。そういえば、お花見会ではこんな話も聞いていた。

−みなさんにとって、エンドーさんとはどんな場所ですか。

「こういうお店が近くにあるのは便利だね。何でもおいしいもの」
「筋子なんかもここの食べたら、他のスーパーの食べらんねぐなる」
「げそ天もね。けっこう遠くからわざわざくる人も多いみたいよ」
「いろいろこうやって企画してくれるもんだがら、私らも集まんの楽しくって」
「毎日夕方になるとここにきて、お茶ご馳走になって、買い物して。それが楽しいのよ」

山形の先輩世代の方々には、近所の友人や知人など、だれかの家に集まって「お茶飲み」を楽しむという文化がある。その延長にあるのがエンドーであり、たしかに人が自由に出入りするお店のほうが家よりも気軽だ。お茶をいただいてゆっくりさせてもらったら、ひとつでもふたつでも何か買いものをして帰る。これはルールではなく、お互いが気持ちの良い関係性でいるための、ちょっとしたマナーだ。さらにいえば「このお店にいつまでも通い続けたい」という意思表示、アクションでもある。

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お花見会を終えてから、エンドー女子会のはじまりと常連さんについて、この会を続けていて思うことや感じることなど、店主の遠藤英則さんにも話を聞かせてもらった。

「もともと小さなテーブルをひとつ置いていて、お店にきたお客さんがひと休みできるようにしてたんですよね。そこにはいつも、うちの亡くなった祖母と叔母と、お客さんが3人ぐらいで座っておしゃべりしていたんです。それが呼び水みたいになって、あるときから週に数回きてくれていたお客さんが毎日来るようになり、そうするとテーブルが2つになり、4つになり……っていう感じで、お客さんの数に合わせてどんどん増えていきました。

お年寄りの方って日中一人で家にいることが多いので、お昼にここへきて何か食べたいっていう話もあったと思います。今はちゃんとメニューもありますけど、当時はイートインスペースもなかったので、どんなの食べたい?みたいな感じでお客さんに聞きながら、店にあるもので作れるものを作って出していました」

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「お客さんとお店がほどよい距離感で付き合える状態っていうのは、昔からありましたね。コミュニケーションって、どっちかに偏ると遠慮しちゃったり、逆に失礼になってしまったりすることもある。だからバランスが肝心ですね。

ここの常連さんたちって、家族ではないんですけど、親戚よりは身近な存在というか。なんでしょうね。ほぼ毎日顔を合わせますし、うちの子どもたちもよく遊んでもらったり、小さいときなんてお駄賃もらったりもしていて。そういうのって、大人になるとだんだんわかってくるはず。いろんな人たちから育ててもらっているという実感が。

うちのじいちゃんが小さいときだって、上の世代の常連さんたちがかわいがってくれていたと思いますし、自分も小さいときには同じようにしてもらってここで育ってきたので、たぶんそういうのが染み付いてるんですよね。時間はかかるんですけど、そういうサイクルがあるんじゃないかなと」

ちなみに、お花見会でのお弁当は、いつも飽きずに通ってくれる常連さんへの感謝の気持ちを込めたスペシャルメニューにしていたとのこと。そうやって循環していくのだなあと、話を聞きながら納得した。お昼前から始まったお花見会は夕方まで続いていたそうで、大いに盛り上がっていたことがうかがえる。これからも受け継がれていってほしい、エンドーならではの風景だ。

最後に、お花見会当日の遠藤さんの秀逸なInstagramでのコメントをここに引用させていただく。
今回の記事タイトルは、この言葉への完全なオマージュでもある。

「桜は散ってしまいましたが、花はなくても話に花は咲いていました」

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INFORMATION
エンドー
住所 山形県山形市長町2-1-33
電話番号 023-681-7711
営業時間 10:00-19:00(日・月曜休)
https://gesoten.jp/

写真:伊藤美香子
文:井上春香