【鹿児島県日置市】サイが振られたままに。偶然性に身を委ねる。 / GURI工房 浅倉光雄さん
インタビュー
鹿児島県日置市にて『GURI工房』として木工の器を制作されている浅倉光雄さん。そんな浅倉さんから木工作家に至った背景等を伺いました。
型にハマらず、枠から外れて物事を進める
20代前半、知人の声かけをきっかけにアメリカへ渡った浅倉さん。
最初はステーキ屋にて働くも半年で辞めてしまい、
その後は、周りから勧められた大工等の仕事をこなしていったといいます。
「正直、その時は先のことを全く考えていませんでした。でも、その時の流れというか、不思議と物事がうまくいっていたんです。」
「ガツガツ仕事を求めるのではなく、ラフにビールを持って遊びに行ったりすると“こんな仕事があるんだけど…”という話になって。」
「大らかな時代だったのかもしれません。心配事がない状態が道を開いてくれた。そんな感覚でした。」
「アメリカでは隙間がたくさんあると感じました。自由に動きたい。知らないことを経験してみたい。そんな想いを実現しやすかったと思います。」
「プロフェッショナルじゃなくても、魅力的なモノを提案できるのではないか。そう思うようになり、型にハマったものではなく、枠から外れて自分なりのスタイルで物事を回していく姿勢が身につきました。それは今でも大事にしています。」
その後はインドへ。
最初はヨーロッパ経由で移動しようと試みるも
その都度各地で出会った人たちの影響で寄り道しながらインドへと向かいました。
「周りから熱の込もったプレゼンをされると、それをやりたくなってしまう性分なのか(笑)。行く予定ではない場所へ立ち寄り、しばらく居候して過ごすこともありました。時には購入した飛行機チケットを勢いで捨てたこともあって…。」
インドに到着したのはニューヨークを出た1年後。
その時に浅倉さんの中で感じたのは自身の変化でした。
「サイが振られた、といえばいいのか。コマが出たら流れに乗って、世の中の情報に左右されることなく、自分の感じるままに直感で進んでいたんです。ニューヨークを出た時はそんな感覚はありませんでした。」
「インドでは急な思いつきで自転車を購入し、数百km走ったこともありました。行き当たりばったりの直感でインド中を1年かけて巡りました。」
海外の旅を11年半続けた後、日本へ戻ることになります。
暮らしとモノを“今”に合わせて近づける
帰国後、いくつかの土地に移り住み、奄美大島で生活したことが一つの転機だったそうです。
その時のお仕事は単調作業の内容で面白みを感じなかったこと。
第一子が誕生したこと。
そんな状況で自分なりにできることはないかと模索されたといいます。
そこで『GURI工房』が誕生しました。
一つ一つ、浅倉さんの手で木工の器を丁寧に仕上げています。
「奄美大島の木を材料に器づくりを始めてみたんです。子どもがまだ赤ん坊だったので、身近な食器からつくろうと思い、赤ん坊向けの器づくりからスタートしました。」
「我流ではありますが、ニューヨークで大工経験があり、道具の使い方は大体わかったので、何とか器づくりを進めることができました。」
「GURIは私のあだ名です。10代の頃、よく通っていた商店街の店主が丸坊主の私を可愛がってくれて。そのあだ名のおかげで友人知人の空白が途切れなかったことも理由にあります。」
“器の用途と暮らしにおける行為が繋がることで、愛着を持ってほしい。”
そんな想いで製作されている浅倉さんの品をいくつかご紹介します。
例えば、旅する器ココボール。
「この食器とともに旅をしながら、自分の器を広げていってほしいと見立てました。」
「見かけはココナッツのシェルみたいなので、ココボールと名付けています。」
他にもコーヒーメジャースプーン。
これはチェスに見立てられています。
「こちらの品は“自我焙煎 是 人生の味わい也”とキャッチフレーズをつけていて。自我はほっておいたら我儘になりかねないですが、人を成長させるものになります。」
「それなら“それを焙煎すると面白い人生になるのでは?”というシャレにしたキャッチフレーズにしたんです。嗜好品は自己満足の世界ですし。」
「暮らしとモノが近づけるように今の時代や今の使い心地に合うものをつくっていくので、つくる品もこれから変化していくと思います。」
偶発性から生まれるモノ
工房の庭には石や瓦を活用した砂場があります。
石は散歩中に拾ったものを、瓦は引っ越し当時から庭に積み上げられていたものを使っているのだとか。
「気になったものは拾い集めて、眺めたりしています。“こういう造形が好きだから、これがあれば何かに近づける”“こんなエッセンスを取り込みたい”とか、そんな気持ちからだと思います。」
「砂の移ろう粒子を見ると気持ちが癒されますし、直接触ると感覚が研ぎ澄まされるんです。」
その上で浅倉さんが大事にされていることを教えてくださいました。
「物事って、顕在的な意識で進んだり、理路整然とコントロールされたりするかのように思われていますが、全てがそうではないんです。」
「無意識の潜在領域で閃いたり、直感で進んだりすることも多いです。単なるラッキーではなく、見えない領域から偶然がやってくる。そんな偶発性をずっと大事にしています。」
最後に今後の展望についてお話してくださいました。
「どんなことをするにしても良いことや悪いことは必ず起きてきます。その波長の中で、悪いことがあってもプラスな見方ができるようになってきました。」
「失敗はアイデアの源や宝庫になってきます。失敗した時は悔しさでいっぱいですが、ふと冷静になると、次のアイデアに繋がってくるんです。」
「だからこそ、三歩進んだら二歩下がるくらいの姿勢でいるようにしています。実際コマが進んだ分、自分が進んでいるわけではない。そう考えるようになりました。」
「最近は木工のダルマをつくって、そこに目鼻立ちを描いてもらおうと思っていて。不思議と誰が描いても、魅力なモノになるし、非常に面白いモノになるんです。」
「さらにいうと、目や鼻だけを抽出して眺めてみたら面白い何かを発見できるのでは思っています。それは今後楽しくやっていけそうですし、何かに活かされそうな気もしていて。」
「何だかよくわからないモノでも、魅力があれば繋がりたいし、携わりたい。それが今一番やってみたいことです。」
屋号 | GURI工房 |
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URL | |
住所 | 鹿児島県日置市吹上町永吉1452番地 |