【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.5
連載
山形市長町にある〈エンドー〉は、地域密着型のスーパーである。創業は昭和40年。以来、地元の人々に親しまれ続け、日々、さまざまな顔が集う。そこにある時間と、ここにしかない風景。今日のエンドーでは、どんなことに出会えるだろうか。
突き抜けたユーモアと愛情たっぷり。
エンドーをデザインする、ということ
エンドーの入り口には、オリジナルキャラクターの顔出しパネルがある。「げそ天」の赤提灯が下がり、幾つもののぼりが立つ。店内には屋台風のメニューと角打ちのようなイートインスペースがあり、一升瓶ケースに段ボールを被せただけの斬新な椅子がある。食料品店のはずなのに、Tシャツなどのグッズが豊富にある。店内の一角に「じいちゃん自家製コーナー」があり、常に旬のラインアップである。雑誌クオリティのTAKE FREEのカタログがシーズンごとに刷新されて並ぶ。地域の夏祭りも主催する……。こうして特徴を列挙してみると、あらためて一風変わったスーパーであることがわかる。エンドーにはさまざまなチャンネルがあるので、何が最初の接点になるかは人それぞれ。その中で、必ずふれることになるのが「デザイン」だ。
地域のスーパーにこれほどデザインが投資されている例は稀である。かつて遠藤商店だったエンドーは、今や“げそ天のエンドー”として広く市民に認知され、メディアにもしばしば取り上げられるようになった。そこに至るまでの道のりを共に歩んできたのが、エンドーの要であるデザイン部分を担う〈杉の下意匠室〉というデザイン事務所である。エンドーのポテンシャルを最大限に引き出し、ともに果敢にチャレンジし続けることを繰り返すうちに、そこにはクライアントとデザイナーを越えた関係性が生まれていた。
というわけで、今回の主役は「エンドーのデザイン」。いつもは影の存在に徹しているアートディレクターの鈴木敏志さんとイラストレーターの小関司さんに話を伺いながら、紹介していきたい。
−エンドーさんとの出会いについて、教えてください。
鈴木:エンドーさんとの出会いは5年前に遡ります。僕らのデザインを見かけたことから連絡してくださったんですけど、当初は「お店の包装紙を作ってほしい」というご依頼だったんですよ。
小関:当時、店主の遠藤(英則)さんは、県外の就職先を辞めて山形に戻り、お店を継いでまだ間もない頃でした。そこで自分も何かしなきゃっていう意識から、まずはデザインを取り入れてみようという考えに至り、それが包装紙だったんじゃないかなと。それで僕らは、包装紙だけ作っても意味ないですよ、みたいな話をしました。
鈴木:そこまで直球だったかは覚えてないですけど(笑)、今後のお店にとって、それを作ることだけがベターではないかもっていうのは、たしかにお伝えしました。デザインっていうのは、単体で作っても上手く機能しなかったら意味ないじゃないですか。それで包装紙だけ作っても、っていうところがあったんだと思います。そこからは、お店にかかわる全体の部分を一緒に考えていくことになったんです。
小関:全体の部分というのは、お店の空間づくりやレイアウトも引っくるめてですね。手を加えるべきところと残すべきところ、それぞれを吟味しながら〈井上貴詞建築設計事務所〉さんと一緒に考えました。当時のお店には、不要なものがゴチャっとたくさんあったので、まずはそういうのを片付けたり、什器を移動させたりしました。なので、僕らが最初にやったのは「一緒に掃除すること」でしたね。
−リニューアルの第一弾で登場したのは「げそ天」でした。そこに至るまでには、どんな経緯があったのでしょうか。
鈴木:「げそ天」は山形のソウルフードでもあるので、きっかけとしては面白いなってことで着目したんですが、もともと遠藤さん自身がげそ天を打ち出そうとがんばっていたんですよね。それで提案させてもらったのもあるんですけど。
小関:初めてお会いしてから2ヶ月後に次の打ち合わせがあって、僕らの中ではその時点で「げそ天計画」がだいぶ固まっていたんですよね。今後のお店を考えるうえで、インパクトがあることを考えないといけないだろうとは感じていました。ただ、包装紙の話から急にげそ天の話に方向転換したことで、少なからず困惑されていた部分はあったと思います。
鈴木:これじゃあ、げそ天屋みたいじゃん、ってね。うちはスーパーでお惣菜もお魚も得意なのに、げそ天だけで勝負して本当に大丈夫だろうか?みたいな話はあったと思います。店内でお酒を提供することについては、遠藤さんのお父さんが「うぢ、居酒屋になんのが?」っていってました。結果的に今はスーパーであると同時にげそ天屋でもあり、居酒屋にもなっていますが(笑)。
小関:でも僕らの目的としては、エンドーをげそ天屋にすることだけじゃなくて、げそ天がエンドーを牽引していくんですっていうのが根っこにありましたよね。
鈴木:そう。げそ天がおいしければ違うお惣菜にも興味湧いてくるだろうし、イカがおいしいんだったら他の魚もおいしいだろうってなるはずだし。それぞれが全部おいしいのは事実だから。
小関:そこが共有できたからこそ、僕らの得意とする手段とエンドーさんに備わっている熱量みたいなものが上手く交わって、少しずつ今のような形になっていったんだと思います。
−そこからオリジナルキャラクターの誕生、立呑みイベントに宅呑みセット、宅配サービスといったように、エンドーの快進撃が始まったわけですね。これらはどのような考えのもと実現されたのでしょうか。
小関:こうしてあらためて振り返ってみると、それぞれに必然性があったんだなっていうことを感じますね。
鈴木:それがかっこいいなと思う。無理してなんかやろうとか、全部狙ってやったわけじゃないから。「宅配エンドー」を始めたのは2020年で、ちょうどコロナ禍に突入した頃。外出自粛のせいでウーバーみたいな需要も増えていましたし、そこで宅配を始めようということになったんです。
小関:もともとエンドーさんでは、近所のお年寄りや体の不自由なお客さんには、買い物した荷物を車で届けるということをされていたんですよね。それってすごく良いサービスだなあと思って、当初は近所だけだった部分を山形市全体にエリアを拡大して、その延長でカタログも制作しました。
鈴木:緊急事態宣言下ではお店にお客さんが来れなくなったので、それまでやっていたイベント「立呑みエンドー」も当然できなくなり、その代わりに「宅呑みエンドー」という晩酌セットが生まれたんです。当時はあらゆるお店がテイクアウトメニューを考えていた時期でもありました。
小関:キャラクターが誕生した理由は、げそ天と筋子を売るためです(笑)。イラストなので子どもや若い人たちに受け入れられやすいものではあると思いますが、決してそこだけに向けているわけではありません。エンドーに来るお客さんの年齢層は幅広いので、子どもからお年寄りまでわかりやすいものを目指しました。げそ天ロゴの「天」には、それが凝縮されているかなと思います。
−エンドーにおけるデザインの在り方や、お二人が考えるデザインというものについて、お聞かせください。
鈴木:僕らが考えるデザインというのは、新しいことはやるんだけれども、そこにあるものに対して寄り添っていくようなイメージです。
小関:主役であるクライアントとデザインすることの行為が、隔離してしまっているのが嫌なんです。そのものを動かすためにデザインがあるべきなのに、デザインだけが一人歩きしてしまっているような状態。だから立ち位置としての理想は「黒子」なんじゃないですか。
鈴木:おいしそうなパッケージなのに、実際は期待外れっていうのが最悪ってことですよね。だからエンドーさんの場合も、遠藤さんの想いや言葉があってこそ。僕らが勝手に考えて作ったもので売れたとしても、それって本物とはいえないですよね。一緒に作っていくんだけど、主役はやっぱりエンドーさんなんです。
小関:こうして長く仕事をさせてもらっていると、ひとつのチームになっているというか、人に恵まれているなあとも感じます。僕らの仕事のやり方としてはですが、そういうのがすごく楽しいなって思うんです。それに遠藤さんって、ものすごくハングリーな方ですよね。やる気もすごいし、突破力があるというか。
鈴木:行動力とフットワークの軽さと瞬発力を持っている方だと思います。NHKのある番組を見て、東京の根津にある鮮魚店の方(Vol.2参照)にアポ無しで突撃しちゃうぐらいですから。
小関:たしかに。グイグイ系ですよね。
鈴木:かなりグイグイ系。だから僕、ちょっと苦手です(笑)。
小関:(笑)。でも、だからこそ今のエンドーがあるんですよね。
鈴木:はい、それは間違いないと思います。
INFORMATION
エンドー
住所 山形県山形市長町2-1-33
電話番号 023-681-7711
営業時間 10:00-19:00(日・月曜休)
https://gesoten.jp/
写真:伊藤美香子
文:井上春香