【鹿児島県鹿児島市】“食”を通し、コミュニケーションやケアが自然にできる場を / 喫茶あさひや 甲斐友也 さん
インタビュー
鹿児島県鹿児島市にて『喫茶あさひや』を営む甲斐友也さん。甲斐さんから料理人や食に関する事業に至った背景等を伺いました。
垣根を越えたコミュニケーションを
幼少期時代、公衆浴場に家族で通っていたという甲斐さん。
そこでの時間が今に繋がる原体験になったといいます。
「赤ちゃんから高齢者までが世代関係なく、仕事や考え方、性格もそれぞれ違う人たちが集まっていました。」
「名前も知らない人から話しかけてもらうことも多くて、その人の雰囲気やその時のシーンに合わせて話をするのが好きでした。」
「公衆浴場や温泉って、不思議と誰とでも気軽にコミュニケーションをとれる場所だなと小さいながら感じていて。大きくなるにつれて、そんなふうにコミュニケーションがとれる企画をつくりたいと思うようになったんです。」
「それで軸として温泉と音楽、食が頭に浮かびました。大学時代は、ライブハウスでアルバイトをしながら、音楽を通して垣根を越え、様々な人と交流する機会が多かったです。」
精力的に活動を続けていくうちに“食”に関する関心が高まり
学生や大人を巻き込んだイベントも開催していたそうです。
「“ゆーや食堂”と名づけ、僕が学生を招待し、その学生が会いたい大人を連れてきて、対談するイベントを開催しました。その両者が食べたいものをオーダーしてもらい、僕がつくり、3人で食べながら話す流れです。有名なテレビ番組みたいな感じですよね(笑)。」
「ご飯を食べることから始まるので、何気ない“美味しい!”から会話が広がっていって、一人一人の深掘りをすることができたんです。“あ、このシーンって、昔、公衆浴場に通っていた時と似ている”と感じました。」
就活の時期を迎え、今後の道を模索しているある時のこと。
長島町の地域おこし協力隊(以下:協力隊)と話をする機会があり、それが甲斐さんにとって大きな転機となったのです。
気がつけば、自然にあるもの
長島町の現状。
コミュニティレストランを運営する協力隊を募集していたこと。
それらを耳にした甲斐さんの心の中で沸々と芽生える想いがありました。
“コミュニケーションの源泉となるようなきっかけを長島でつくれるかもしれない…。”
そして、協力隊として長島町へ。
様々取り組まれた活動の一つとして『長島大陸食べる通信』(※)があります。
任期中に30人程取材し、活動を通して、まちの食の背景等を知り、生産者との信頼関係を構築していきました。
県外でも長島の食材を使ったイベントを開催し、
改めて食を通したコミュニケーションの楽しさに実感されたといいます。
「気づけば長島のことを心の底から好きになっていて、地域の人たちに、地域で採れた食材を食べてもらう場をつくりたい。そう思うようになりました。」
そんな時、空き家の旅館があるという話が持ち上がったのです。
(※)長島町の生産者の背景や地元ならではの食べ方などを綴った情報誌と特集した食材をセットに3ヶ月に1回購読者へ届ける情報誌のこと。2020年3月より休刊となっている。
その空き家は築90年程で、以前は“朝日屋(あさひや)”という名前で旅館業を営んでいたそうです。
「仲間と一緒にリノベーションをし、そこを“あさひや”と名付け、食堂を始めることにしました。地域の高齢者の方は“朝日屋さん”と呼んでいたので、そういう人たちの思い出も残したいと思い、そのネーミングにしたんです。」
食堂を切り盛りする中で、特に意識したこと。
それは“提供する食事の中に、当たり前に自然と長島の食材が入っていること”でした。
「“地元食材を使っている”とわざわざ謳うのではなく、自然と長島の食材が使われている。それくらいトーンを落とし、“気がついたら日常の一部になっていたぐらいが丁度良い”と考えました。」
「近所の人たちが気軽にご飯だけだったり、軽く一杯だけだったりと足を運んでくれて“地域の愛される食堂とはこういうところから始まるのかな”と感じました。」
目の前の誰かを、“食”を通してケアする
協力隊の任期が近づいた頃、
世界中で新型コロナウイルスの蔓延により
人との接触やイベントの開催など、
それまで当たり前だったことができなくなってしまいます。
当時、社会問題となっていた中でも
甲斐さんが特に注目したものは各家庭の母親にかかる負担増でした。
「小さい子どもたちを預ける場所だったり、子どもたちに対するご飯だったり、お母さんたちの負担が増えていることに対して、何かできないかなと思ったんです。」
「それなら、僕は料理ができるので、手作りで、かつ、パッケージに入った温かいものを提供できたら、お母さんたちも負担が軽くなると考えました。」
「そこで長島町内に“つきひ惣菜店”(現在は閉店)を立ち上げ、お弁当やお惣菜を提供する事業を始めました。」
しかし、新しい事業を始めてすぐに
甲斐さんの体に異変が起きてしまいます。
「腱鞘炎がひどくて、体の至るところが痛かったんです。最初は料理人としての職業病かなと思っていました。」
「しかし、病院で検査するとリウマチだということが判明しました。病気との向き合い方や体のケアの仕方もわからなかったので、不安でいっぱいでした。」
「病気になって初めて“若くても、病気になる”ということを感じました。死に至る病気ではないけど、良い状態をきちんと維持し、かつ、心身に負担なく、やりたいことができるような働き方にしないといけない。そう感じました。」
「健康であること、当たり前の動作ができること。その尊さを知ったことで、一生懸命働いている誰かをケアできるサービスができたらと思うようになりました。」
「これは、病気になった僕にしかできないし、食を軸にしている僕だからこそできることだと思い、健康に関する勉強を始めました。」
気負わずに、頑張らずに
今年6月。
結婚を機に、鹿児島市へ拠点を移し、アーバンウェルネスクラブエルグ(以下:エルグ)内にて『喫茶あさひや』をオープンさせました。
知人を通じて、エルグの経営者の方と出会い「以前運営していた方が抜けるので、喫茶スペースの次の運営者を探している」と相談を受けたといいます。
「お茶しながらゆっくり話ができる場所にしたかったので、食堂ではなく、喫茶にしました。」
「“あさひや”の名前を使って活動させてもらっていましたし、長島での経験があるからこそ、今の自分があるので、お店の名前をそのまま残すことにしました。」
「開店すると、すぐに近所の高齢者の方が集まって雑談をしたり、夕方前になると子どもたちがお小遣い握りしめて、アイスやジュースを買いにきたりと、自然とコミュニティになっていて、長島で活動していたことの延長線にある気がしています。」
日中はエルグの会員が利用前後に喫茶を利用し
世代関係なく、足を運んでいるそうです。
「難しいことを考えずに、お客様の声を聴きながら、料理を提供したいと思っています。」
「人によって、好みも体の状態も違います。全てを受け入れることはできなくても、ほんのちょっとでも、お客様の様子を見ながらコミュニケーションをとるのは長島にいる時と変わらない気がしていて。」
「今後は長島の味噌づくり教室を定期的に開催し、簡単に必要な栄養素を摂り入れる方法を学んでもらう場をつくろうと思っています。他にも、例えばスパイス教室だったら、日常で簡単に使えるレシピを伝えるとか。頑張らずに、かつ、楽しく少しでも食と健康を横断できるきっかけをたくさんつくっていきたいです。」
「お店の壁にインフォメーションボードを設置して食材の情報を掲示したり、お惣菜を買って帰れるようにできたらとも考えています。」
「あまり気負わないことを大事にしています。生産者の皆さんやお客様の声を聴きつつ、誰もが無理をせずに、頑張らないで自分自身をケアできる方法を模索していきたいです。」
屋号 | 喫茶あさひや |
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URL | |
住所 | 鹿児島県鹿児島市城南町7-8 アーバンウェルネスクラブエルグ1F |
備考 | 営業時間:11:00~17:00 定休日:毎週日曜日・月曜日 電話番号:080-5730-9749 |