【岐阜県・瑞浪市】クラフトビールを通じて、 人とつながり、地域につなげたい。
インタビュー
【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】
名古屋からJR中央線で約1時間。岐阜県の瑞浪市釜戸町に、ビール好きたちが好んで訪れるクラフトビール醸造所があります。全国に広がったクラフトビールブームの中、いかにローカルなカルチャーと結びつけて差別化するかを考え、唯一無二のブリュワリーとして独自の存在感を放つ、カマドブリュワリーの東さんに話を聞いてきました。
いつか地元を盛り上げたい!いつかビールをやってみたい!
元々は広告・メディア出身の東さん。大学卒業後は報道記者として北海道のテレビ局に勤務し、番組づくりに携わっていました。地元から遠く離れることになったけれど、当時から地元をを盛り上げたいという想いはあったと振り返ります。
テレビ局を退職後、青年海外協力隊としてバングラデシュで、開局まもないラジオ局での番組製作支援を経験。何もないところで何ができるかに挑戦するとともに、日本の文化を伝えたいと現地でラジオ体操を作ったそうです。
テレビ局では番組をつくり発信した先の視聴者の顔が見えませんでしたが、こちらでのラジオ体操づくりで、目の前の人や問題にリアルに向き合ってコンテンツを作るという貴重な体験をすることができたと言います。その後もニューヨークで映像を学び、帰国すると映像制作会社で伝統工芸に関する映像制作に携わりました。
「日本の美しい仕事を伝えたいという思いでしたが、でも何か違うなと。ラジオ体操で感じたように、伝えて終わりでなく、その先にも関心があったんだと思います。そんな時に、被災地で開墾してホップを植えるお手伝いをしました。ホップの花言葉は「希望」。いつか人や地域の希望を生み出せるようなビールの仕事もいいなと考えるようになったのはこの時です。2017年の春でした。」
被災地の石巻で知人が造るクラフトビール “巻風エール”に強い影響を受けた東さんは、東京で地方創生の仕事に携わりながらも、岐阜で「ビールと器の会」や「ビールと東濃の人の会」といったビールイベントを開催するようになり、イベントを通して知り合った多治見で活動する岡部さんと共に、2019年に地元出身である醸造家・丹羽さんを迎え入れて、新型コロナウィルスが世界に蔓延し始めた2020年の4月にカマドブリュワリーをオープンします(※ビール免許取得は2020年11月)。
「ビールイベントで思った以上に良い反応を得られたことが、ブリュワリーオープンの後押しになりました。」
北海道、バングラデシュ、東京、そして岐阜と、場所や会社は変わっても、やっていることは基本的に変わらないと、東さんは言います。違う柱を立てているというよりは、上に積み上げている感じで、これまでの経験が全て生きていて複合的に使っていける武器になっていると。
「あとは、自分にできることとできないことを分けて、できないことを誰にどうお願いするかです。私は職人には向いていないけれど、イメージや思いを形にするのは得意です。この地域が失くしてはいけないものを、アイデンティティや文化を込めてコンテンツにして広めていくのが私の仕事です。」
ビールを通して東濃のアイデンティティを探り、その魅力を伝える。ビールを造ることだけでなく、ビールを通したまちづくり会社を作るというのが、東さんが掲げるカマドブリュワリーの始まりです。独自の文化を大切にしながら、まちとして楽しく、そこで人がつながるきっかけになるように。そして地元の人が誇りを持てるように。
ビールをきっかけに東濃エリアの魅力を発信する
2021年の冬には工場併設のビアバー「HAKOFUNE(ハコフネ)」を開設。出来立ての樽生クラフトビールを常時6種類用意し、その場で飲むことができるようにしました。
岡部さんと親交の深い地元デザイナーや陶芸作家を紹介してもらい、東濃エリアの文化やエッセンスを盛り込んだビールのネーミング、ラベル、ビアカップなど、こだわり抜いたオリジナルを制作。ビール好きの陶作家たちとビールを飲みながら打ち合わせを重ね「口径は7cmがいいよね」など、形や材質などにこだわったビアカップは美濃焼で作り上げました。店内の装飾タイルも美濃焼です。カウンターの分厚い板は、お隣・大湫町の御神木。樹齢670年の倒木をいただいたのだと言います。
「ビアバーは人が集うコミュニティを作れる場であり、人をつなぐ場だと思っています。だから、ビールが飲めなくても興味を持ってもらえるのが理想です。」
この環境や立地、ここで出会う人を好きになり、田舎ならではの近所付き合いができるといいですよね。カウンター席なので、一人でふらりと来るお客さんが多いと思っていましたが、地元の人は意外とシャイで、オープン当初は遠方や名古屋からのお客さんが多く、地元の人は「あれ?来ない….」
なんてこともありましたが、外でも飲めるようにしたり、持ち込みをOKにしたり、三線の会やママの会などのイベントを通して地元の人も来やすくなったようです。
今では、東濃の人たちに加え、名古屋からのリピート客、そして釜戸を知らない人たちがクラフトビールを通して興味を持ち、ここを訪れるようになってきていると言います。
そして、この地域ならではのクラフトビールを開発することも忘れてはいません。ビール造りはもちろんのこと、新しいものを見つけたり、人がまだやっていないことをするのが好きなのは、東さんも丹羽さんも同じ。
例えば、「お出汁のビール」は旨味とコクがあり、お節料理によく合うのだとか。近所の料亭の人に教えてもらって開発した「鮎出汁ビール」は、お餅と合わせても美味しい。その他、大湫の御神木を香りづけに使った「御神木ビール」も形になりました。町のシンボルだった御神木が倒れ、悲しんでいた町の人たちに、希望を与えるような1杯となりました。地元のものをいろいろ掛け算して生み出していくのが楽しいのだとか。たくさんの全国初が、カマドブリュワリーから誕生しています。
ビール × 移住。2つを掛け合わせた「ビール移住」にも力を入れたい
全国的にも有名な醸造家の丹羽さんが地元に戻ってきたことで、ビール醸造を学べる場ができたことはこのエリアにとって大きなことだと、東さんは言います。
それは、実際にこの辺りで醸造を始めるきっかけにする人が多いことからも分かります。カマドブリュワリーでは、1~2カ月に一人ほどのペースで全国から研修者を受け入れ、空き家を活用してこの町に滞在しながらビール造りが学べる環境を提供しています。
そして研修者だけでなく、この町に興味を持ち、好きになった人が空き家を活用できるよう空き家マップを作り、空き家活用もスタート。さらにビールと移住を掛け合わせて「ビール移住」と謳った方が伝えやすいんじゃないかと、空き家移住ツアーや、ビールを飲みながら移住者の話を聞く会など、ビールのある町への移住促進活動を続け、2022年には1年間で13人が移住を果たしました。
カマドブリュワリーの立ち上げから3年。今では釜戸という地域の可能性に意識が向くようになったという東さん。名古屋からJR中央線ですぐに来られる釜戸は、名古屋の人たちにとっても気軽なエリアであり、このJR中央線沿いにビアツーリズムに取り組みたいと意気込んでいます。東さんたちが思い描いた「街ごとにビールがあるドイツのようなまちづくり」の実現も夢ではなくなりました。
リニアも開通し、旅館や空き家もある釜戸は今がチャンス。このツーリズムを整えて観光資源とし、釜戸がその拠点になればと一緒に盛り上げてくれる仲間たちを歓迎。ここを訪れるすべての人たちに「また、どこかで!!!!」と見送る東さんの姿に、ビールを通して様々な人と出会い、そのつながりを大切にしてきた想いが伺えました。
名称 | カマドブリュワリー&ビアバーハコフネ |
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URL | |
住所 | 岐阜県瑞浪市釜戸町3154-3 |
TEL | 0572-51-2620 |
営業時間 | カマドブリュワリー工場見学 ビアバーハコフネ |
備考 | ビアバーハコフネ |