Uターン次女の就農日記(3)/ラ・フランスの売り方に悩む
連載
2023年4月。山形にUターンした。山形に戻るのは、高校卒業以来。
Uターンするまでは、大学卒業から6年間、公務員として働いてきた。29歳のアラサーにして、脱・公務員からの就農。退職前、周囲からかけられた声の中で多かったのは「頑張ってね」という応援と、「辞めるなんてもったいない!早まるな!」という声。後者は、主に身内や親戚から(笑)。どちらの声もありがたく頂戴して、約10年ぶりに山形に戻ってきた。
11月。だんだん朝晩の気温が下がってきて、外での農作業が辛い季節になってきた。
今月は、先月収穫したラ・フランスの出荷作業がメインのお仕事。私自身、Uターンする前は猫の手を貸したぐらいの手伝いのみで、本格的なラ・フランスの出荷は初めて。
冬の収入が少なくなる農家にとって、ラ・フランスはありがたい収入源だ。しかし残念なことに、春先の花の霜害や強風による落下で、我が家の今年のラ・フランスの収穫量は昨年と比較して半減してしまった。元々の栽培面積が少ないとはいえ、大きなダメージである。かろうじて残ったラ・フランスたちを大事に売って、少しでも多くの収入を得なければ。
我が家の果物の主な販売先は、農協や市場への出荷、そして直売所での販売だ。私自身、今年の春にUターンして、さくらんぼと桃の出荷と販売を経験してきた。農協や市場への出荷は、せり値から手数料等を差し引かれた金額が農家に還元される。確実に買い取ってもらえるため、売れ残るというリスクはないが、ある程度まとまった量を出荷しないと収益に繋がらない。一方で地元の直売所は、生産者自身が販売価格を決められる仕組みとなっているため、こちらで少しでも高い値段で売れるのが理想だ。
さくらんぼや桃の販売時期には準備が間に合わなかったが、ラ・フランスについてはネット販売に挑戦して販路を拡大したいとも考えていた。しかし、今年は十分な収穫量が確保できなかったため、来年へと持ち越すこととなった。
「なおのこと、直売所での販売がポイントだ!」と意気込み、ラ・フランスの販売開始基準日に直売所へと市場調査に行ってみた。「他の農家はどだなの売ってるべ?」直売所の店内を見ると、驚いた…。
棚の隅から隅まで、ラ・フランスが詰められたダンボール箱が何段にも重ねられて、ズラーーーーーっと所狭しに並んでいた。圧巻の光景。競争相手が多すぎませんか…。
「どれどれ、中身はどんな感じだべ?」と並べられた箱を見比べてみる。
「ち、違いがわからん…!!」
ラ・フランスは、さくらんぼや桃と違って、見た目での違いが分かりにくい。目に見えて違うのは、農家がそれぞれアレンジした箱のラッピングくらい。新米農家の私には、正直見た目だけで良し悪しは判断できない。商品を手にとる人々も、「う〜ん、どれが良いかね〜?」という感じでイマイチ決め手が掴めていないように見受けられた。
出品する農家も他の商品との違いを見せようと「これでもか!」と商品箱にシールをペタペタ、ラッピングをキラキラさせている。父にも「ラ・フランスは飾り付けがすごいぞ」と聞いていたが、これほどとは。他にも、ラ・フランスとりんごをセット販売にしたり、見るからに値段を安くしたりしている。
その上、商品を置く場所は早い者勝ちだ。少しでも目立つ位置に自分の商品を置こうと、直売所には夜明け前の早朝4時頃から農家の列ができる。
それくらい熾烈な競争の中、我が家のラ・フランスが入った商品箱をなんとか棚に並べることができた。並べるスペースがなくて、商品を手に持ちながら棚の周りをウロウロと徘徊する日もあるから、置けただけラッキーでもある。
しかしながら、我が家の商品は特段見栄えもせず、高さを積み上げて目立たせるだけの箱数もない。直売所内のたくさんの商品の中にひっそりと埋もれて、案の定、売れ残ってしまう日が続いた。桃を直売所で売った時は、持って行った瞬間にお客さん同士で商品の取り合いになる時もあったのに。こんなに売るのが難しいとは。
家に持ち帰った売れ残りの商品を見ると、なんとも悲しい気持ちになる。風にも負けずに樹の上ですくすくと育ってくれたラ・フランスたちは、もう我が子も同然だ(独身だけど)。たくさんの人に美味しく味わってもらいたい。なんでも良いから、なんかしよう!
他の農家のようにラッピングをたくさんすれば必然と目立ちはするけど、SDGsの世の中。あまり過剰な包装は施したくなかった。しかし、売れないことにはどうしようもない。とりあえず、父に「クリスマスカラーのリボンを1個だけ飾ってみない?」と提案をした。
父「リボンなんかダメだ!クリスマスカラーもまだ早え!」
即座に却下だった(笑)。父曰く、仏壇のお供物としての需要があるので、陽気な飾り付けはダメらしい。父には私がやることなすこと、とりあえず却下される。いつものことだ。
私「だって今のまんまだと全然目立たねえべ!」
だから、私もとりあえず不機嫌な顔を全面に押し出した。これもいつもの光景だ。普通の会社なら、あからさまに上司に楯突くことはあまりないと思うが、家族経営ではこんな些細な喧嘩は日常茶飯事である。よく言えば、家族会議だ。今回は、双方の妥協案として、ゴールドカラーの地味めのリボンをつけて一旦販売してみることとなった。その結果、半分売れ残った。そんなにリボンの効果は現れなかった。
今度こそ!とクリスマスカラーのリボンを再度父に提案した。「じゃあやってみろ。」と今回は父が折れた。私の頑固な様子を察知するようになったのか、最近は父が折れることが多くなった気がする。一方の私は、意見が通ったどー!とウキウキした気持ちでリボンを飾っていった。
ラ・フランスは一昔前「みだぐなす」(訳:見た目が良くない梨)と言われたように、他の果物と比較すると、見た目がゴツゴツとして歪な形をしている。でも、春先からずっと成長を見守ってきた身としては、その不恰好さが、これまたとても可愛く見えてくる。一つ一つでこぼこの感じが違って、とても個性が光っている。そんなことを思いながら、愛情を込めて一つずつネットを被せ、飾り付けをした。
その翌日。無事完売。クリスマスカラーのリボンのおかげかは定かではない。しかし、自分で売り方を工夫して、その結果が感じられるとやはり嬉しい。やることなすこと却下する父の攻略法も含めて、売り方を試行錯誤する過程も農業の一つの醍醐味かもしれない。