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【福井市】3人の研究者から見た「新栄商店街」のこれまでとこれから 

連載

2024.03.05

新栄商店街の探訪記を始めて約10ヶ月。新栄商店街にはお店を開く人とお客さんの他に、商店街を研究対象として、まちづくりのアドバイザーとして関わり続けてきた人々がいます。なぜ、新栄商店街が研究対象になるのか? そして、これからはどのような期待を持っているのか?

福井大学工学部 建築・都市工学科の原田陽子准教授、「LLC 住まい・まちづくりデザインワークス」の代表・野田明宏さん、東京工大大学院の真野洋介准教授の3名にお話を伺いました。

新栄商店街の動きについてはこちら↓

・新栄商店街のこれまでとこれから
https://www.reallocal.jp/105651

・商店街と関わり続けて10周年!! 福井大学原田研究室
https://www.reallocal.jp/109790

 

【福井市】3人の研究者から見た「新栄商店街」のこれまでとこれから 
新栄商店街の地権者にヒアリングを行う野田さんと真野さん。街の中にも入って実地調査を行なっている。

− 原田先生は2013年に、当時の福井市の都市整備室から2年間の共同研究の依頼を受け、新栄商店街の地権者の意向調査を実施することをきっかけにして新栄エリアに関わることになったと、前回のインタビューでお伺いしました。野田先生と真野先生はどのようなきっかけで新栄商店街に携わることになったのでしょうか?

野田 2022年に「新栄の未来を考える会」で企画された講演会に真野先生と一緒に呼ばれ、以降新栄商店街のまちづくりに関わっています。

原田 そうですね。以前からお二人とは学会や大阪空堀地区でのまちづくり活動などで一緒に取り組ませて頂いたことがあり、新栄商店街のような木造密集市街地についてとても詳しい方々なので、私から講演会について依頼をさせてもらいました。

真野 原田先生が「新栄テラス」の取り組みをされていて、学会での発表も存じていました。実は、都市デザインの界隈では新栄テラスの活動はとても有名なんですよ。もしかすると、地元の方が感じている以上におもしろい仕組みでできた場所として知られていると思います。

【福井市】3人の研究者から見た「新栄商店街」のこれまでとこれから 
福井大学工学部 原田陽子さん(右上)、東京工大大学院 真野洋介さん(左下)、LCC住まい・まちづくりデザインワークス 野田明宏さん *ライター 佐藤(左上)

− 新栄商店街以外に、普段はどのような研究や活動をされていますか?

原田 県外を含め、人口減少時代の地方都市での低未利用地を活用した都市の成熟化について研究や実践活動をしています。例えば、空き地の菜園利用に向けて地域の方々とコミュニティガーデンを行なっていたり、管理放棄された未利用地の多い遠郊外住宅地の持続可能性や分散型宿泊施設の地域との関係性を研究するなど。また国や県、福井市、越前市、加賀市の都市計画関連委員会にも関わっています。

野田 私は研究者ではないのですが、主には地方都市中心市街地や密集市街地のまちづくり、大規模団地の再生等を地域住民・企業の皆さんと一緒に進めるプロジェクトに従事する事が多いです。地域の皆さんが話しているアイディアを具体化するために、建物を建てて運用するのに幾ら費用が掛かるかを明らかにし、資金調達や収支計画の検討(建築事業企画)をすることで、プロジェクト主体の形成サポートをしたり、実際の建築空間の設計を行ったりしています。

真野 私は学生時代から関東大震災の復興都市計画と復興住宅の研究を行い、阪神・淡路大震災が発生してからは長田区野田北部地区で地域住民の復興まちづくりをサポートする活動をしていました。2000年代からは東京や大阪の住宅密集市街地の再生についての研究、その後、広島県尾道市で活動する空き家再生プロジェクトに参画しました。2011年からは、宮城県石巻市で一般社団法人「ISHINOMAKI2.0」の活動と中心市街地の新たな役割について研究を進め、2013年からは富山県高岡市のまちなかで活動しています。

【福井市】3人の研究者から見た「新栄商店街」のこれまでとこれから 
元々コインパーキングだった敷地を活用した「新栄テラス」。ぐるりと個性的な店が取り囲む

− 論文や資料等で聞いていた新栄商店街に、実際に来られて印象はいかがでしたか?

真野 私は普段から新栄商店街よりももっと小さな地域の空き家活用について携わっているので、思った以上ににぎわっているなと感じました。空き店舗が少ないですし、観光客向けではない個性的なお店が多いですよね。従来の商店街にはなかったお店が集まっているのは、全国的に見ても珍しいかなりユニークな店舗構成だと思います。

野田 北陸・東北で複数城下町都市のまちづくりに関わっていますが、駅と商店街と城下町などの旧市街が離れている地域がほとんどなんですね。でも、福井はそうではない。都市の規模は小さくないながらも、福井城址と商店街のある市街地が非常に近い場所にあるというのは、すごく特徴的だと思います。

真野 新栄商店街は飲食店以外のお店が多いというのも特徴的ですよね。例えば大阪ですと、駅のすぐ目の前に元々闇市を由来とする商店街があるんですが、中にあるのはほとんどは飲食店です。新栄商店街は衣料品や雑貨などを扱う店が多いのも興味深いですね。

【福井市】3人の研究者から見た「新栄商店街」のこれまでとこれから 
新栄商店街の実地調査を行う福井大・原田研と東工大・真野研の学生さんたち

 

− 新栄商店街とはそれぞれどのような関わり方をされていますか?

原田 私の研究室では、新栄テラスや未来を考える会の運営サポートと共に、実測調査やヒアリング調査などに関わっています。事業計画やリノベーションの設計など実務的な観点からの検討に野田先生、未来を考える会など新栄地区全体での今後の方向性の検討の助言やコーディネートを真野先生にお願いしています。

野田 私は新栄商店街の長屋建築の建て替えについて依頼を受けたのですが、本当に新たに建て替えた方がいいのか、リノベーションがいいのか?という点で、まずはその比較検討を実施しました。現在は、「小規模連鎖型」のリノベーションの方向で話し合いを進めているところです。

真野 私自身は福井出身・在住者ではありませんし、リノベーションの専門家とはまた異なるので、あえて客観的な視点に立って間に入らせてもらっています。自分の研究室で携わっている地域の参考事例などを取り上げて情報共有も行っています。

【福井市】3人の研究者から見た「新栄商店街」のこれまでとこれから 
ギャラリーを拠点としてアーティストも集うカルチャー色の濃い新栄商店街。

 

− 新栄商店街との関わりを通じて、今後どのような期待をお持ちでしょうか?

真野 新栄商店街は大きく一歩進んでいる商店街だと思っています。商店街は空間があっても中の組織がうまく噛み合わないことが多く、結果的にシャッターに閉ざされてしまうシャッター商店街を生み出してしまいます。ただ店があるだけではなく、時代に合わせて商店街に来る目的を再編する「再目的化」が必要です。アーケードや建物を直すことも重要ですが、新栄テラスのような広場やギャラリーのような文化的な空間など、これまでになかったものがエリアを引っ張っていく新しい要素になると思います。商店街の転換期を乗り越えて、一段進んでいってほしいですね。

野田 個性的な店舗が入って、様々な人が関わることになった新栄商店街ですが、一方でまだ老朽化した建物の危険性をはじめとした商店街として修繕しないといけない問題が多数存在しています。ボロボロのものをそのままにするわけにはいけないですし、能登半島地震に見られるような災害にも対策を取らないといけません。建物のオーナーさんや地権者さん、まちづくり福井さんなどの連携を強めて、個性的な良さに加えて安全も強化できればと考えています。

原田 昔ながらの店と新しい店、様々な用途や雰囲気が混在する新栄商店街は、予測できない面白さが魅力だと思います。私の研究室の学生が新栄の事業主さんに聞き取り調査を行った結果、立地の利便性と共に、「木造で路地のある雰囲気や小規模で賃料が安いこと」が、新栄を選んだ理由に多く上がっていました。こうした条件は、 近年、JR福井駅周辺で作られている再開発事業など大型店舗にはない条件なので、こうした個性ある新栄地区を福井市中心市街地に継承していくべきだと思っています。さらに新栄地区に関わる若い人や創造的な人がもっと増えていくと良いですね。

 

今後も新栄商店街のリノベーションについて関わり続けていく予定という皆さん。商店街の中の人々のつながりと動きに対し、それぞれの得意分野や知見が生かされて、良い方向に広がっていくことを期待しています!