real local 山形Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編) - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)

インタビュー

2024.03.31

2023年9月、やまがたクリエイティブシティセンターQ1はオープン1周年を記念し、グランマルシェを開催。そのコンテンツのひとつ「第13回クリエイティブ会議」では、日本のクリエイティブシティの先駆的存在である金沢市で新しいまちの風景をつくりだしている建築家・小津誠一さんと、株式会社Q1の代表である馬場正尊さんの対談が行われました。すこしはみ出しがちなふたりの建築家の対談テーマは、まちの未来とクリエイティブについて。キーワードは…「妄想」です。

…前編はこちら

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)
やまがたクリエイティブシティセンターQ1にて。馬場正尊さん(左)と小津誠一さん(右)

馬場:じゃあここからは、小津さんが妄想ネタを用意してくれているそうなので、ちょっとお話ししていただきましょうか。

小津:「もしも〇〇〇が自分にできたら?」って妄想ですよね。そんなの理想だよって笑われたり、通帳を見て無理だなって思うかもしれない。でも、妄想だから誰に迷惑をかけるでもない。妄想してるときがいちばん自由なんです。

『ブレードランナー』というSF映画の名作に出てくるまちはすべて妄想ですけど、ぼくらはすごく心惹かれてもいる。他のSFとあのまちが圧倒的に違うのは、ツルツルしてなくて猥雑感や雑多感に満ちていること。またあるいは『風の谷のナウシカ』の風の谷の風景。すごく壮大な、もしかしたらトゲのある物語ですけど、こういった妄想のまちに今のぼくらはものすごく影響を受けているわけです。

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)

馬場:風の谷はもはや過去か未来かもわからない。かつて、20年くらい前、宮崎駿にインタビューしたことがあるんですが、そのとき「都市や東京の未来はどうなると思いますか?」って聞いたらすこし考え込んで、「海になると思う」って答えたんですよ。ふつう未来というとみんな30年後とか100年後とかを想像するのに「この人は千年とか万年単位で想像している!」って衝撃を受けました。たぶん、ものすごい妄想力なんでしょうね。

小津:SF的にモノを考えることをSFプロトタイピングと言ったりして、その説得力がいま注目されれつつありますよね。

また一方で、建築の世界においても、丹下健三という偉大な日本の建築家が 「東京計画1960」という、戦後の東京をこういうふうにするんだっていう妄想をしました。あの時代はそれが許されたし、それを見せられたみんなもワクワクして、日本中いっせいに経済回復し、そしてバブルまで突っ走ったわけです。

馬場:そのあと、東京オリンピックが来て、大阪万博があって、っていう流れはまさに今回のオリンピックや万博と同じはずなんだけど、あのときの夢のある感じと全然ちがうね…

小津:たしかに建築家がデザインはしているけれども、こんなに大きなシステムのデザインはしていない。

馬場:都市をデザインしていない。

小津:そうですね。妄想力が弱まっているというか。
で、ここから、ぼくがどんな妄想して仕事してきたか、という話ですけど…。

>>妄想事例1

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)(写真提供:株式会社ENN)

小津:これは京都時代、京都市役所前の広場です。教育委員会がクライアントで、ある社会実験イベントのコーディネートと空間構成という仕事で仮設ステージをつくりました。ポイントは夜の照明です。飲食店などでも照明が水色だと静かな雰囲気になり、赤だとみんな興奮してお酒がバンバン出たり喧嘩が起きちゃう、くらい心理的な影響を及ぼします。で、ぼくがここで「最後は赤い照明で盛りあげたい」って言ったら行政の人に「絶対ダメ。前例ないから許されない」ってすっごく怒られて。「それじゃ盛りあがらない」と言っても「絶対ダメ」だと。でも当日いちばん大事なシーンで空間を真っ赤に染めあげてしまいました。そしたら会場がものすごく盛りあがって、あれだけ「ダメ」と言ってたその行政担当者も目の前で踊ってて。後ろからそっと近づいて「前例つくっちゃいましたね」って囁いたという…。

馬場:ふふ…。やったもん勝ち、みたいな…。都市のなかに新しい風景とか新しい夢を見るためになにかスイッチを押すというとき、すごく効果的なのが仮設建築と実験ですよね。1回やってしまえばそのあとOKになるみたいなことも結構あるし。それを戦略的にやっていく側と、その様子を窺いながら見守っている行政側との信頼関係を往復させていく感じ、とでもいうか…。やりながらちょっとずつ規制が緩くなって、ぼくらがまちを楽しむ方法みたいなものが拡大していく。っていうのを、すごく大胆に、凶暴にやっちゃってますね。しかも、京都のどまん中の役所の前…。ほんと、ようやるな…

小津:これ、すごく面白かったんですけど、この頃はまだ、ただ単に点として楽しんでるだけだし、あくまでも「非日常」なんです。バブル世代の名残で「今晩楽しきゃいい」って感じ。だからイベントの翌日には主催者は空っぽで虚しい。それに比べると、今の時代にいろんなところで展開されている都市を使った仮設や実験というのは、むしろ日常化するための共同幻想を見る試み、という感じでしょうね。

>>妄想事例2

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)(画像提供:株式会社ENN)

小津:これは金沢です。絵のなかにある廃墟ビルを買った人から「なんとかしてほしい」と依頼を受け、不動産と建築の合わせ技でリノベーションしてテナント貸しする、というのをやりました。その過程で「このあたりをこういうストリートにしたい」って言って、この通り全体の理想の絵を勝手に描きました。

馬場:依頼以上のおせっかいをしている。

小津:そうです。でも、この絵ができたことで、並びの物件のオーナーさんから「うちも仲介して」とお話をもらったり、他の不動産屋さんも似たことをやりだしたりして、エリア全体が面白くなりました。建築も不動産も依頼があってはじめてできる仕事ですけど、こんなふうにリアルに逸脱したり妄想したりしています。

今、金沢の中心部の半径500mを地図で見ると、金沢R不動産で関わった物件が結構ポツポツあるんです。前述したようにぼくらは依頼があってはじめて一軒一軒をお手伝いしますが、でもこうしてみると「あ、この地域を変えているきっかけになれているかも」て思えてくる。そうすると「もっと戦略的にできないか」なんて妄想をまた膨らませたくなります。

>>妄想事例3

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)(画像提供:株式会社ENN)

小津:これは福井。2024春に新幹線が延びるので、福井のまちづくりチームで「10年後の未来を描こう」と2020年に描いた絵です。新幹線開通の年ではなく、開通して再開発ビルができてそのさらにもっと先の未来の絵です。

馬場:「共同幻想」ですね。行政も描かないまちの未来をみんなで勝手に描いてる。

小津:そう。しかもこの絵、拡大するとわかりますが、解像度がめちゃくちゃ高い。半年かけてアイデア出しあって、エクセルで表にして、分類したり分析したりした上で、イラストレーターさんと打ち合わせして描いてもらって、という緻密なやり方をしています。
ここでのポイントは「10年後」ということ。これを5年後にしてしまうと、誰かのビルを勝手に壊したりできないし、それを発表するとビルの所有者さんから怒られたり、ややこしくなって、自由に妄想できなくなってダメなんです。

馬場:そっか。5年だと理想が歪められちゃう。

小津:あとはメンバーに自由に発想してもらいたいから「来年できそうなアイデアはリアルすぎてつまんないから、ちゃんとアイデアを飛躍させて」ってお願いもしています。

馬場:「そんな現実的に考えないでくださいよ」って怒られちゃうんだ。面白いルール設定ですね。こうやってみんなで盛りあがってワーッて話してそれを絵にするって、なんだか次のまちの風景を想像するためのひとつの方法論になりそうですね。

>>妄想事例4

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)
(写真提供:株式会社ENN)

小津:これは敦賀。千年以上の歴史がある氣比神宮というところの商店街の10年後の青写真をつくろうと、商店街のおじさんおばさんたちと妄想会議をやって描いたもの。神宮を森にするとか、隣の廃校の小学校をミュージアムにするとか、道路の道幅を半分にしちゃえとかアイデア満載です。ここでは10年後を考えるために「まず50年前を思い出してみよう」という作業をしています。そしたら昔はみんな、敦賀の空を空飛ぶ車が飛んでるとか、敦賀も東京になってるとか、明るい未来を夢見てた。「でも今は違いますよね、なんでこのギャップが生まれたんでしょうね」って一気に現実に引き戻して、その上であえてもう1回、飛距離のあるアイデアを出していきました。歴史を背負いながら未来を考えましょうって。

馬場:商店街のおじちゃんおばちゃんがこんなに自由に発想してくれるんですね…。しかも そのイメージが即座に絵として描き出されるっていうのはうれしいだろうな。

小津:こうして思いっきりアイデアを未来に放り投げて絵を描いたぼくらは、じゃあ、それこそ非日常で終わらせないために、明日からなにをするかっていうことになってきます。その絵からバックキャスティングして、そこに近づいていくためになにができるのかって。

>>妄想事例5

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)

Q1 グランマルシェ/第13回クリエイティブ会議 『創造は妄想から始まる』 小津誠一×馬場正尊 REPORT(後編)
(写真提供:株式会社ENN)

小津:コロナ禍に「未来はブレードランナー的な世界になるのか、風の谷的な世界になるのか」を論じた本を面白いなと思って読んでたら、それに共感した知り合いがいて、「実はぼくは『風の谷』をつくりたいから、日本海に突き出た能登半島の限界集落、過疎集落に家を一軒買う」と言うんです。で実際に空き家を買ったら放棄地がいっぱいついてきて「集落になっちゃいました」って言うので「じゃあその限界集落・過疎集落を、現代集落にするプロジェクトを立ち上げよう」※という話になり、30年後の絵を描きました。

30年後のこの限界集落には「人がいっぱい来て賑わう」発想はもはやありません。いかにオフグリッド化、DX化して、エネルギーも食料も自給自足するような持続可能で自立した集落にできるか。限界集落を現代集落化へと再生できるか、という妄想プロジェクトとして現在進行中です。この巨大な妄想がうまくいってほんとうに現代集落になるなら、同じような地形や歴史を持った地域への横展開が十分ありうるかも、と思っています。

…という、こういう感じですね。もちろん設計の仕事をひとつひとつやりつつも 、こういう妄想癖がもう完全に止まらない感じになっています。

馬場:今のお話を聞いて、東日本大震災のときのことを思い出しました。あの震災後の三陸沿岸部の風景を前に、ぼくやほかの芸工大の建築の先生とかもオロオロしていたんですけど、そのとき、当時副学長だったアーティストの宮島達男さんが「こういう今だからこそ、ちゃんと理想を絵にしなきゃいけない。まずタブローを描け」って言ったんです。それでぼくらはまだ20 歳くらいの学生たちを集めて「自分たちが大人になったらどんなまちに住みたいんだろう」って問いながら絵を描いた…。あのときのビジュアルや考え方が、この現代集落の絵にとても似てる気がします。

小津:ぼくも震災後の気仙沼の集落に約6年通ったんですけど、ここまでできなかったんですよね。もう現実に押しつぶされそうな住民たちがいて、その彼らの前で妄想とか共同幻想を見ようなんて、とても言える状況じゃなかったっていうもあったかもしれないし。
だからこそ、この頃、こういう妄想を先に提示しておくことがとても大事なんじゃないかという気がしています。もちろん行政も総合計画とか都市計画を描いていますが、ものすごくリアルに目の前にある課題を解決するためのフォアキャスティングの絵だから、ワクワクするものでもないですしね。

馬場:ここのQ1って、隣が小学校なので小学生がたくさんいるんですけど、「建築」っていうと難しすぎて、子どもたちとワークショップなんてやれないだろうなって思っていたんです。でも今日、小津さんのお話をお聞きしたら、30年後の山形のまちを妄想するワークショップならやってみたいと思いました。いったい、山形の子どもたちはどんな妄想をして、どんな未来を夢を見るんだろう。それをぼくらは知っておかなきゃいけないし、そのためにこういう場があるんだってことを気づかせてもらった気がします。

小津:最後の締めとして、有名な言葉をひとつ紹介しておきます。
アラン・ケーイという「パーソナル コンピュータ」という概念を発明した人。この人がいなかったら Appleもなかったであろうというこの人が言っていたのは「未来を予測するのに一番いいのは、それをつくることだ」ってこと。

「将来どうなるか」とか「どうすればいいまちになるか」とか言ってる暇があったら妄想して、その妄想が創造をうめば、それが一番近道なんじゃないか…と。

限界集落を現代集落に変えるプロジェクト https://villagedx.com/


>>>>追記・その後のこと

「妄想事例5 現代集落」について/小津さんからのコメント

今年元旦の能登半島地震において、現代集落の舞台である珠洲市真浦も大きく被災しました。現在、約40名の住民の大多数は集落を離れ避難生活を送っていますが、この現代集落ビジョンを手がかりに、創造的な復興の実現に向けて、集落の被災者との対話が始まっています。(2024.3.26)

 

profile/小津誠一(こづ・せいいち)
株式会社ENN 代表
1966年金沢市生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築設計事務所や大学講師などを経て、1998年京都にて設計事務所「studio KOZ.」を設立。2001年活動拠点を東京へ移転。2003年金沢にて「有限会社E.N.N.」を設立。金沢にて廃墟ビルのリノベーション設計を機に飲食店「a.k.a.」を開業し、東京と金沢の二拠点活動開始。2006年「金沢R不動産」を開業。2012年活動本拠地を金沢へ移転。建築を中心に、不動産、店舗運営など領域横断的に活動展開。
ENN. co.,ltd. 
金沢R不動産 
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