山形納豆物語 第二話
連載
山形の人は、納豆が好きだ。
愛知へ嫁にきて20年、山形を離れて初めて気づいたことだった。
まずはスーパーの納豆コーナーをみてほしい。その広さ、中小メーカーがひしめく多様なラインナップ。みんなお気に入りの納豆で、納豆もちを食べ、ひっぱりうどんをすすっているに違いない。そんな山形の、納豆にまつわる思い出や家族のことをつづっていきたい。
第二回目は、納豆に「何をかけて」食べるかについて。
皆さんは納豆に「何をかけて」食べているだろうか?
定番は〈醤油〉や〈付属のタレ〉だと思うのだが、私のお気に入りは、〈醤油〉にしろ〈タレ〉にしろ、少なめにかけて食べる、というものだ。
これに対して、一度に3パック食べてしまう納豆好きの私の母の場合、〈付属のタレ〉には見向きもしない。まったく使わないのだ。その理由は「納豆そのものを味わうのに、〈タレ〉のほんのりとした甘さが受け入れがたい」からだと言う。そのため〈タレ〉を毎回捨てることになってしまい、それが本当に心苦しいので、「納豆には〈タレ〉をつけないでほしい」とすら思っている。さらに母は「〈タレ〉を付けずに売られている納豆はおいしいのよ。だって納豆そのもので勝負してるから」という持論まで展開するほどのアンチ・タレ派なのである。
さて、では、そんな母が「何をかけて」納豆を食べているのか。答えは、〈醤油〉あるいは〈塩〉、ときどき〈味噌〉である。
特に最近は〈塩〉推しで、先日も電話で「すごく美味しいからやってみなさいよ」とおすすめされた。なんで〈塩〉なのか聞いてみると「液体より固体だよ」とひと言。わからなさすぎるのでさらに聞いてみると「〈醤油〉で食べる納豆は、どろっとしていて液体に包まれた納豆なのよ。〈塩〉で食べる納豆は、どろっとしない分、豆々しくて、納豆そのまま、固体なのよ」とのこと。
へーーーー。納豆がかけるものによって液体として味わうものとなったり、固体として味わうものとなったりするという独自の視点に、さすがの納豆好きを感じ、そういうものかと妙に納得した。自分がなるべく少しの〈醤油〉や〈タレ〉で食べたい(タレはいつも半分だけ使う)のは、納豆のねばねばと豆々しさを感じたいからであり、つまり、私は液体派ではあるけれどもかなり固体派寄りだった、というわけだ!
ちなみに〈味噌〉は…というと「少し日にちが経ってしまって、あららちょっと、という納豆でも美味しく食べられるのよ〜」。〈味噌〉納豆の位置づけがそんな感じとは知らなかったが、固体派の人はぜひ食べてみてほしい。納豆に〈味噌〉を混ぜると、ねばねばに〈味噌〉が絡まって固体感が増し、ねばりの塊を食べているような食べ応えが美味しいのである。久しぶりに〈味噌〉納豆を食べたくなって電話をきった。
数日後、「そういえばね…」と母から電話があった。何でもYouTubeを見ていたら「納豆×〈リンゴ酢〉は、ダイエットに最強!」という動画が「おすすめ」されたのだという。万年ダイエットをしている母は、「納豆」と「ダイエット」という、最も関心の高い言葉が並ぶそのタイトルにわくわくがとまらず、すぐさま動画の通りに〈リンゴ酢〉をかけてみた。
「そしたらね、混ぜるとすごく泡立って面白いのよ〜。味も結構いけるし、楽しいし、やってみて〜!」。
新たな納豆との出会いに興奮する母の声を聞きながら、「これは、液体に分類されるのか、それとも新ジャンルなんだろうか」と思いつつ、「あー、お母さんは今日も元気だ」と離れて暮らす私はなんだか嬉しかった。