愛すべき「ぬた(ずんだ)餅」の世界へようこそ(2)甘さとツブ感と温度
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かつて「real local 山形」では、「納豆餅」をテーマにロングトークするという企画を実施したことがありますが、今回お届けするのはその「ぬた(ずんだ)餅」バージョン。
山形市旅篭町にある「餅の星野屋」さんの店主・星野輝彦さんと、real localライターの那須ミノルが、「ぬた(ずんだ)」について語りあった時間の記録、お届けします。
那須:「ぬた(ずんだ)」という餡の甘さやバランスについて、どうお考えですか。
星野:餅は、基本的にはコメの味。ですから「ぬた(ずんだ)」のほうにはある程度の甘さが必要です。強くてしっかりした甘みでないとバランスが悪く、味がボヤけます。かといって甘みが強すぎれば「甘いだけ」の印象になってしまう。ここで大事なのが塩です。わずかな塩を入れることによって甘みが引き立ち、ピッと締まった味になって、おいしくなります。
那須:なるほど。では、「ぬた(ずんだ)」の餡の粒の大きさについてはいかがですか。
星野:ウチは、ふつう、でしょうね。
那須:粒をもっと大きくしたり小さくしたりすることも可能ですか。
星野:できます。ですが、細かくペースト状にしすぎるとツブ感がなく枝豆っぽさが失われますし、逆に粒を大きくすると豆の固形分と水分が分離したようになってしまいます。
那須:ツブ感を残しつつ、一体感もありつつ、という絶妙なところをめざす、と。
星野:粒のバランスが悪いと団子につけづらくなりますから、味だけでなく、そうした作業性への配慮もありつつ最適なところを狙っている…という感じかもしれません。
那須:星野屋さんのお餅は、ビヨーンとのびる感じではなく、クッと噛み切れるような食感が特長です。そういった餅の性質の違いによって相性のいい「ぬた(ずんだ)」も変わってきますか。
星野:ビヨーンとのびる餅なら、粒が細かいほうが馴染むかもしれませんね。
那須:なるほど。
星野:また、「ぬた(ずんだ)」の餡の固さ、あるいはゆるさ、も大事です。水分量がポイントで、水っけがないと餅や団子に馴染まず、絡みません。また、温かいうちはトロッとしているようでも、冷やした状態になると固くてパサパサした印象になってしまうことがあります。ですから、最初から冷たい状態でちょうどよい甘さやゆるさになるように逆算して、材料の割合を設計しています。
那須:そうか、「ぬた(ずんだ)」って、つくるときは温かいわけか。
星野:枝豆をふかしてミンチにするので、ホカホカです。砂糖、水、塩を加えるとドロドロしてきます。それを冷蔵するとキュッと落ち着いて、程よい固さに落ち着くわけです。
那須:冷ますっていうのは必要なプロセスですか。
星野:ずっと温かい状態のままでは雑菌が繁殖するし、色も飛んでしまうし、おいしくなくなるでしょうね。
つづく
文 :那須ミノル