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【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦

地域の情報

2024.07.11

【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】

町の工務店兼材木店として地域に根差し、実直な仕事ぶりで地元の人たちに長く親しまれてきた愛知県碧南市の「新川大清商店」。2年前、古材を展示販売するショールームと併設するカフェ「大清庵」をオープン。地域に密着した工務店として、まちに貢献できることを続けていきたいとの思いから、家族で力を合わせ新たな挑戦に踏み出しました。

【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦
「新川大清商店」社長の妻・村上美香さん(左)と、長女の直美さん(右)のお二人にお話を聞きました。

 

はじまりは「大清材木店」

碧南の新川大清商店と言えば、西三河では名の通った老舗の工務店。その前身は「大清材木店」という材木屋でした。明治の終わり、大工だった曽祖父(美香さんの夫で現社長・元三さんの曽祖父・清六さん)の後、祖父の隆一さんが製材から建築までを手がけるようになったのが事業の始まりだそうです。
〝大工の清六〟で屋号は「大清」。父・啓三さんの代になると、兄弟姉妹が8人もいたことから、それぞれ建築に関わる仕事で独立。外材だけを扱ったり松を専門にしたりする兄弟たちの中で、啓三さんは製材と建築で独り立ち。かくして昭和30年代の初めに新川大清商店が誕生しました。

【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦
海に面した碧南市。大浜と呼ばれる地区にあった頃の大清材木店の貯木場(大正末期に撮影)
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「大清材木店」の始まりについて書かれた社長の父・隆一さんの覚書き。

 

新川大清商店の二代目である現在の社長・元三さんのもとへ、美香さんが嫁いできたのは平成2年。製材や大工の仕事について何一つ知識はなかったそうですが、3人の子どもを育てながら今日までご主人とともに家業を支えてきました。

「父の時代から新川大清商店は、地元を中心に〝材木屋の作る家〟を売りに家族で頑張ってきました。本格的な製材機があったので大工仕事も請け負うことができたんです。製材所に併設された刻み小屋にはいつも大工さんが何人もいて、常に製材機の音が響いていました」

 

時代の流れの中で選んだ大きな決断

代々、新川大清商店の一番のこだわりは「地産地消」。家は風土に合った木を用いることでより長持ちすることから、創業以来、建材は三河の木を自然乾燥させたものを使ってきたと言います。
そうして地元に密着し地道に続けてきた製材業でしたが、建築の現場にも時代の変化が押し寄せ、4年ほど前にはついに製材機を止めることを決断。その時の思いを美香さんは今も忘れることができないと言います。

「今では材木はプレカットが主流になり、大工さんが木を買って手キザミするということがなくなってしまったんです。父の代からの借金もあり、主人と二人で会社のこれからを真剣に考えました。もともと製材所はここから少し離れた場所にあったのですが、その土地を売って今の場所に移転。それを機に思い切って製材機を止めることにしたんです」

製材業に誇りを持って励んできたご主人にとって、それはまさに苦渋の決断でした。
2020年4月、いよいよ製材機の電気を止めるという最後の日。丁寧にお神酒を供え、感謝の気持ちで機械を労う夫の姿を見守った美香さんは、その様子を当日のフェイスブックの日記に綴っています。

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新川大清商店をと大清庵を掛け持ちで切り盛りしながら、美香さんは日々の記録としてフェイスブックに時々の思いを記す。

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『3月31日17:00、長年私達家族を支えてくれた製材機もラストランを終え動力を切断する時を迎えました。切断に見えた電力会社の方に待っていただき、主人が製材機にお神酒を供えエンジンのスイッチを入れ、材送車を一往復させました。
いつも見ていた風景、ずっと続くと思っていた風景、それが最後となりました。
材送車が止まったその瞬間、主人の目に涙が…悲しみと共に自分の代で終えてしまう事への悔しさもあったかもしれません。
エンジンのスイッチを切り、集塵機のスイッチを切り集塵機の音が段々小さくなり静かになった瞬間、父を看取った時と同じ感情が私にも込み上げてきました。
私の第二の人生、嫁入りと共にここに設置され、共に30年私達家族を支えてくれた製材機、感謝の気持ちでいっぱいです。
長い間ありがとう、そしてお疲れ様でした。
これから私達は第三の人生を歩んで行きます。見守ってください』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(2020年4月、美香さんのフェイスブックより)

「主人の姿を見て、初めて、ああ、こんな思いで製材の仕事をやってきたんだなあって感慨深い気持ちになりました。思い出すと今でも涙が出そうになります。とはいえ時代の流れには逆らえないし、あのまま製材所を残しても未来はないですからね…。幸い、今の場所は表通りに面していて往来も多く、感じのいい庭もあるので、ここなら何か新しいことができそうだなって思いました」

 

家族一丸で新しい挑戦へ

【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦
東京でグラフィックデザイナーとして活躍した後、地元に戻ってきた直美さん。

 

新川大清商店が大きな転機を迎えていたちょうどその頃、東京でグラフィックデザインの仕事をしていた長女の直美さんが碧南市に戻ってくることに。さらに、同じく東京でお笑いの世界を目指しながら「大工育成塾」で伝統工法を学んでいた次男の真治さんも相次いで帰郷。

「子供の頃から自由に夢を追わせてくれた両親のおかげで、家業のことを気にかけることもなく好きなことをやらせてもらいました」と話す直美さんですが、やっぱり地元に戻ろうと決めたのは、東京でのある出会いがきっかけでした。

「勤めていたデザイン会社を退職し、その後のことを考えていた時、大手の日焼けサロンでデザインの仕事を手伝わせてもらっていたんです。その会社の若社長は二代目で、先代のお父さんと仕事のことでいつも真剣にぶつかり合っていました。親子の熱い仕事ぶりを近くで見ていて、私も少しずつ実家のことを考えるようになりました」

娘として家業に貢献できることを模索し、数年ぶりに実家に戻った直美さん。そこで目に留まったのは、倉庫の中に大量に保管されていた古材や古道具の数々でした。各地の古民家を取り壊す際に引き取ってきたものたちが使い道もなく置かれている様子を見て、何かできることはないかと考えました。

「古いものが持つ味わいを内装に生かして、古材や古道具の使い方を提案できるショールーム的なお店を作りたいと思いました」(直美さん)

「それで思いついたのがショールームカフェなんです。子どもたちも戻ってきてくれたし、一緒に手伝ってくれるなら将来性のあることがやりたいと。ただ、私も料理は嫌いじゃないけどまったくの素人。まさか飲食店をやるなんて思ってもいなかったんですよ(笑)」(美香さん)

そこから手探りで始めたメニュー開発。一方で、新川大清商店での長い経験と実績がある美香さんにとって古材の扱いはお手のもの。親子でアイデアを出し合いながら、古い木材たちの持つ独特の趣を生かしたカフェ「大清庵」が誕生しました。

【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦
鴨居や欄間、障子などの建具を内装に利用。古材の魅力と新しい使い方のヒントに。
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中庭を望むカウンター席
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実際に使われていた碍子(ガイシ)も天井のアクセントに。
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グラフィックデザイナーとしての経験を生かし、会社の新しいロゴマークやカフェのメニューなどの作成を直美さんが担当。

 

守り続けたい「地産地消」へのこだわり

カフェのコンセプトとして「気取ったものよりも庶民的な味」を目指したという美香さん。看板メニュー『大清庵のごはん』をはじめ、親子で考案するメニューにも〝地域密着〟〝地産地消〟のこだわりが詰まっています。

野菜は碧南が誇るブランドにんじん「へきなん美人」を中心に、お隣、西尾市産の豚肉「おいんく豚」、三河の海で採れたものだけで作られる「潮っこ海苔」のほか、豆腐、厚あげ、ジャコなども碧南産のものを使用。

「お米はもちろん、醤油などの調味料もできるかぎり地元で作られているものを使いたくて、まずは碧南市内で探し、見つからなければ近隣のまちで探しました。味噌といえば三河では赤味噌のイメージですが、素材の味をより生かしたいので豊田市の味噌蔵さんが作っている白味噌を使っています。塩だけはなかなか見つからず苦労しましたが、やっと足助(豊田)で見つけたときは本当に嬉しかったですね」

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地元産の食材をふんだんに使った数量限定の人気メニュー「大清庵のごはん」。 碧南の郷土料理「にんじんごはん」は美香さんのイチオシ!

 

味わい深い古いものたちに
新たな活躍の場を

カフェに食事に来たお客さんが気軽に立ち寄ってくれるようにと、誰もが自由に見ることができる古材ギャラリーと古道具店を併設。それをきっかけに自宅のリフォームを依頼してくださる方もいるのだとか。

「解体される古民家の中にはまだまだ十分に使える重厚な木材や、昔の職人技が生きる貴重な建具が数多く残されています。歴史を経て味わいを増したそれらのものたちには、他にない魅力があるんです」と美香さん。

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カフェに隣接する古材ギャラリーと古道具HAKUTE
【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦
取り壊された古民家から引き取った重厚な梁や柱などの古材を丁寧に手入れした後、全体が見やすいように工夫して展示。

 

「昔のものって、大量生産されたものでも少しプリントの柄がズレていたり、同じパーツなのに穴の大きさが一つ一つ違っていたり、どこか人の手の温もりを感じます。愛おしくて見ているだけでホッとしますね。誰がどんなふうに使っていたんだろうって想像するのも楽しい。そういうものたちがもっとたくさんの人の目に触れて、また新しい出番が巡ってくるといいなと思うんです。使い道もアイデア次第でいくらでも広がるんだということを、お店に来ていただいてみなさんに感じていただけたら嬉しいですね」

【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦

【愛知県・碧南市】国産古材の味わいに魅せられて 地元を愛する工務店・新川大清商店の新しい挑戦
「小道具HAKUTE」では古い家具、懐かしい生活道具などを展示・販売

 

オープンから2年。「大清庵」は今、遠方からもわざわざお客様が訪れる碧南の人気スポットに。地域が誇る豊かな恵みに感謝しながら、お客様ひとりひとりを、日々、心をこめたおもてなしで迎えています。地元で愛されてきた老舗の誇りを胸に、新川大清商店の歴史は続きます。

 

名称

新川大清商店

URL

HP

住所

愛知県碧南市鶴見町5-66-1

備考

古民家風カフェ 大清庵

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