こだわりのパン、焼き菓子が毎日100種類並ぶ。鎌倉のパン屋「鎌倉 利々庵(Kamakura Lilian)」が長年愛される秘密
地域のお店
JR鎌倉駅近く、御成通りから市役所方面に抜ける細道にパン屋『鎌倉利々庵(Kamakura Lilian)』はあります。2012年のオープンから10年以上愛され続け、某グルメサイトでは百名店にも選ばれました。店内には惣菜パンから、甘いものまで連日100種類のパンや焼き菓子が並べられています。観光客と地元の方とが行き交う鎌倉という街で、毎日食べても安心安全な、正しく美味しいパンを提供し続ける『鎌倉利々庵(Kamakura Lilian)』。毎日通う地元方から、鎌倉土産にとパンを買っていく観光の方まで、幅広い方に長年愛され続ける秘密は一体どこにあるのか。オーナーの髙橋 俊之さんにお話を伺いました。
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利々庵は2012年にオープンしました。今年23歳になる娘が生まれた時に会社を作り、10年ほど準備して開業しました。当時家族で逗子に住んでいたのですが、場所柄かご近所に会社の経営をされている方も多く、仕事と家族が自然と同じフィールドにいる、そんな「家業」というものを持っている人多かったことも影響しているかもしれません。家業をやるなら「住む人」と「訪れる人」がいる鎌倉がいいと思っていました。パン屋さんを選んだのも、単に自分がパンが好きという理由からではなく、あえて参入障壁が高い業界を選びました。
家賃の高い鎌倉で商売をやるとなると、だいたい、8割を売り場面積に、2割を製造面積にしたカフェ業態をやる方が多いのですが、パン屋さんはその逆です。利々庵も売り場より製造面積の方が大きくなっています。さらにパン屋さんは大型の機材など初期投資がかかるのに、パン自体の単価が安いのでなかなか儲からない業態なのです。でも、逆を言えば鎌倉は大手企業のパン屋さんがなかなか出店できない場所でもありました。
だからこそ、あまり儲からなくてもマイペースでできるパン屋さんを、専門店とジェネルストアが共存できる鎌倉というまちで、自身の「家業」として始めることを決めました。
そこから会社を辞めて、まずは作ることを学ばなければと思い、調理師専門学校に通いはじめました。真面目に授業に出て必死に勉強して、いい成績で卒業することができました。調理学校の後は、社団法人日本パン研究所にも通いました。100日間、より専門的な知識や技術を学んでいくのですが、老舗パン屋さんの腕の立つ職人さんや、大手原料メーカーの研究部門の方など、当時は一定のレベル以上の人しか研修生を受け入れていない場所でした。しかし、直接書類をお送りして熱意が伝わったのか、受け入れてもらえることになりました。
そこではどんな酵母が発酵に良いのかなどの開発目線の授業もあれば、どうしたら生産効率上げられるのかという現場目線の授業もあって、研究と現場、双方面のプロフェッショナルな方々に囲まれながら過ごしていました。また、そこでは知識や技術もさることながら、これからお店をやる上でのヒントを多く得ることができました。
実習では先生ごとに自分の好きな材料を使ってパンを作っていたのですが、その中でパンとは修行した店のルールに準えて作っていくものなのだと知りました。材料から作り方に至るまで、その人の親方から教え込まれたやり方をするのです。おそらく今でも個人でやってるお店の8割9割は師匠から引き継いだ原料を使っていると思います。逆を言えばそのやり方しか知らない。もしその原料が何かの理由で使えなくなったらとても怖いなと思いました。
また、パンには種類ごとに合った原料があるはず。クロワッサンにあった小麦粉やバターはカレーパンに合うそれとは違うと考えました。また、今は多くのメーカーから惣菜やクリームなどのフィリングが入手できますが、あえて自家製のフィリングを使おうと決めました。1つの原料で多くの種類が作れた方が効率的ですが、おいしさを求める上で、商品のバリエーションを増やすのであれば、商品ごとにあった原料をそれぞれとことん見極めていこうと、いい意味でルールを知らない素人だった私は、通常のやり方とは180度反対方向を走ろうと決めました。
試作を始めた当時は住んでいた家の車庫にミニ厨房を作って小さな発酵器と冷蔵庫と置いて、そこから「パン屋を始めるので協力してください!」と原材料のお店へ片っ端から電話かけていきました。時には、実際に使う機械で作ってみないとわからないということで、パン屋さんに必要な機材についても機械メーカーに自分から出向いて行って話を聞きに行きました。私が工学部という経歴もあり、機械を勉強してメーカーの人と深い話をすることもありましたね。
原料も最高級のものを使いましょうという発想ではなくて、普段手に取れる物の中でも、自分たちで一番美味しいと思うものを選ぼうと試作を続けていきました。クロワッサンひとつとっても、生地のおり方や使うバターの種類など掛け合わせは無限大です。
作り手だけでなく、一般の消費者としてスタッフ全員で試食してダメ出しをして行きました。1つのパンを完成させるまでに、試作品を軽トラの荷台1台分くらい作成したものもありました。
中でも、揚げ油に何を使うかはとても苦戦しましたね。料理機器の展示会などにも足を運んで、その時たまたま天ぷらのフライヤーブースに赴いて、気になっていた油の嫌な匂いがしないことに気がつきました。これはなぜですかと聞いたら米油を使っているからでした。これだ!と思い、卸業者さんに米油が欲しいとお願いしましたが、当初はパン屋さんに卸したことはないし、常備在庫を置ておくのも難しいと断られてしまいました。でも、どうしても諦められず、いくつかの業者さんと話して無事、米油が手に入るようになりました。今でも何か気になるところがあればその原因を一個一個無くして理想の味に近づくようにしています。
それでもやはり人には好き嫌いがあります。お店に常に100種類置いてあれば、若い方でもおじいちゃんおばあちゃんでも何か好きなものが見つかるのではないかなと思っています。それでも、あれはないの、これはないのと言われるので日々研究が必要ですね(笑)。
販売方法も試行錯誤しまして、なかなか店舗にお越しいただくことが難しい方へ、移動販売も10年以上行っています。最初は1週間で4000円ぐらいしか売り上げがない時もありましたが、後々良くなるだろうという思いがありました。おかげさまで徐々に利用者も増えていき、コロナ禍の時は逆にこの移動販売があったことが営業的にも大変助かりました。このおかげでお店の近くにお住まいの方以外の、常連さんも多いのがうちのお店の特徴かもしれないですね。足を悪くされて、お店に足をはこぶのが難しくなってしまった方も、移動販売でお宅までパンを持っていくと、いつものパンが食べられて嬉しいと喜んで下さいます。
今までパン屋をやってきて、全員がそうではないかもしれませんが、うちのパンが美味しいと言って多くのお客様が長年付き合ってくださっています。商品にしても売り方にしても、今までと変わらず、あるいはさらに進化してくれるのだろうと期待していただいている分、頑張っていきたいなと思っています。
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厳選した材料と、こだわり抜いた製法で作られる商品が毎日100種類並ぶ『鎌倉利々庵(Kamakura Lilian)』。地元の方も、観光で訪れる方も老若男女どんな方でも自分のお気に入りを見つけに行ってみてはいかがでしょうか。
名称 | 鎌倉利々庵(Kamakura Lilian) |
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業種 | パン製造・販売 |
URL | |
住所 | 〒248-0012 神奈川県鎌倉市御成町10-19 |
営業時間 | 2024年9月より10:00~17:00(10月以降は未定) |
定休日 | 日曜日、祝日 |
アクセス | JR横須賀線「鎌倉」駅より徒歩3分 |
備考 | 営業時間等詳細はお店のInstagramにてご確認ください。 |