移住者インタビュー/「あたぎ はりきゅう堂」院長 安宅泰さん
インタビュー
山形市桜田西にある「あたぎ はりきゅう堂」の院長である安宅泰さんは、2021年から山形市に暮らしはじめた移住者。それまでの生活と仕事の拠点であった横浜を離れてやってきたこの山形という土地は、安宅さんの奥さんの実家があるまちでした。
現在は、さまざまな悩みや不調を訴える方たちに対して、鍼灸や整体といった東洋医学のアプローチによって、その人がもともとに持っている自然治癒力を引き出す療法を実践しています。また、エキスパートファスティングマイスターとして、腸活やファスティングの指導なども行なっています。
「あたぎ はりきゅう堂」の建物はなかなかに歴史を感じさせ、どこか懐かしいような雰囲気を漂わせています。実は、ここはかつて「すずせい治療院」という看板が何十年にもわたって掲げられてきた場所。それは、按摩マッサージ指圧師であった、安宅さんの奥さんのお父さん、つまり安宅さんの義理のお父さんによって営まれてきた治療院でした。
そのお義父さんが亡くなったのは2018年のこと。そして今では、安宅さんの「あたぎ はりきゅう堂」と、安宅さんの奥さんの指圧整体「あたぎマッサージ施術院」というふたつの看板を夫婦ふたりで掲げなおし、この場所を受け継いでいるのです。
「お義父さんは按摩指圧で、ぼくは鍼灸。施術の方法の違いはありますが、『人がそもそも持っている自然治癒力を活かす』という治療の根本にある考え方はまったくおなじものなんです。
生前のお義父さんが口酸っぱく患者さんに言っていた口癖は、『あんまり食うな』『ようく噛め』『水を飲め』『甘いものは毒だ』というもの。そういうお父さんに育てられたからでしょうか、妻は「小さい頃からまったく薬を飲んだことがなかった」のだそうです。初めて妻からそれを聞いたときはすごく驚きましたし、とてもすごいことだと思いました。そういう妻やお義父さんとの出会いがきっかけとなって、ぼくもより深く自然治癒のことを考えるようになったり、東洋医学の本質を学んだりするようになったんです」と安宅さんは振り返ります。
さて、移住してから数年を経た今、ここ山形での暮らしをどのように感じていますか、と安宅さんに質問してみました。
「山形にいる妻の友人たちも、お義父さんの患者さんだった方たちも、みなさんとてもおおらかで。よそから来たぼくをやさしく受け入れてくださったように感じています。人見知りだったぼくでも、おかげですんなりと地域の輪に入ることができましたし、自分に自信を持たせてもらったような気がします。
生まれも育ちも、鍼灸の仕事をはじめてからの10数年も、ずっと横浜で過ごしてきて、『ここからは絶対出ない!』って言ってたくらい横浜が好きなんですけど、そんな自分が今では横浜以上にゆったりとした気持ちで過ごせているように思います。山に囲まれた良い空気があって、うまいものもたくさんあって、温泉があって、犬と戯れる時間があって……。肌で感じる心地よさ、とでもいうようなものが、この山形にはあるような気がします。
まもなく1歳になる子どもがいますが、子育て環境としてもすごく良いと感じます。「コパル」や「ベにっこひろば」などの子育て支援施設があるおかげで、子どもたちは無料で楽しく遊べますし、都会にはない恵まれた環境がここにはあると思います。
横浜時代の友人たちもときどき山形に遊びにきてくれます。彼らを連れて蔵王の温泉やスキー場に行ったり、西川町に山菜を食べに行ったりすると、みんな『山形すげぇ!』って言っています。季節の風景とか美味しさとか、そのポテンシャルの高さに興奮してしまうようです」
最後に、安宅さんにこれからの展望を伺いました。
「ゆくゆくはこの場所に、鍼灸だけでなく、アーユルヴェーダやホメオパシー、食養生などといったさまざまな自然療法を受けられる、東洋医学の総合施設みたいなものをつくっていきたいです。
病院に行っても原因がわからず不調が続いている人や悩んでいる人はたくさんいます。東洋医学的なアプローチによって、そういう人たちの悩みの解消に繋げたり、自身の不調の根本にあるものに気づいていただいたり、自然治癒力を高めるお手伝いができるのでは、と考えています」
Text 那須ミノル
Photo 高橋空