real local 鹿児島KOSHIKI ART 2024 トークイベント「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」- 一級建築士 酒井一徳 編 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【イベント】

KOSHIKI ART 2024 トークイベント「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」- 一級建築士 酒井一徳 編 –

2025.01.18

KOSHIKI ART 2024』では期間中に「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」をテーマにトークイベントが開催されました。続いては2人目のゲスト「酒井建築事務所」の酒井一徳さんのお話からレポートしたいと思います。

KOSHIKI ART 2024に関するインタビュー記事はこちら。1人目のゲスト「株式会社いろ葉」・中迎聡子さんのレポート記事はこちら

KOSHIKI ART 2024 トークイベント「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」- 一級建築士 酒井一徳 編 -
トークイベント中の様子

土地の文化や人と向き合った建築を

高校まで奄美大島で生まれ育った酒井さん。大学進学を機に本土で暮らし始め、アルバイトで貯めたお金で海外旅行するなど、徐々に視野を広げていったといいます。その中でニューヨークにあるグッケンハイムミュージアムの空間に触れたことが建築の道へと進むきっかけになったそうです。

その後、アメリカに渡り大学院にて建築の勉強を学び始め、世界各地をまわることになります。

時には、海外に長期滞在し、現地の人と同じような生活スタイルで過ごしながら学ぶこともあったのだとか。

「建築の勉強を始めて学んだのは”土地ごとの気候・風土・文化などある中で、どのようにして暮らしや建築が形成されていったか“です。その経験をもとに、その土地やクライアントのライフスタイルに合った建物の設計をしています。」

酒井さんが島に戻るきっかけとなったのはお父様から実家の建て直しの依頼でした。1年間の期限付きで島で生活しながら、改めて奄美大島という文化と向き合う日々。その時間は酒井さんにとって大きな転機になったといいます。

「それまでは島に戻る気持ちはありませんでした。でも、ガジュマルの木の下で地域の人たちが集まって談笑していたり、何かしら転機があるごとに地域をあげてお祝いをする習わしだったり、改めてそのような文化を見ていると、生まれ育った奄美大島という島の豊かさに気づいたんです。」

KOSHIKI ART 2024 トークイベント「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」- 一級建築士 酒井一徳 編 -
酒井建築事務所 一級建築士 酒井一徳さん
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ニューヨークのグッケンハイムミュージアム 学生時代に訪れた際の写真(酒井さんプレゼンスライドより引用)
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子どもたちの節目ごとに集落をあげてお祝いをする様子(酒井さんプレゼンスライドより引用)

建築を通して、次の世代にできること

お母様が7年前に他界し、祖父の土地を引き継ぐことになり、その土地に家を建てることを決意。奄美大島の風土や文化を深掘りつつ段取りを進める中、友人から教えてもらった詩人の言葉が酒井さんの心を突き動かしたというのです。

“AM3時23分。眠れずにいる。私の孫のまた孫が、夢で私に問いかける。地球が壊れようとしている時にあなたは何をしていたの?”

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アメリカの詩人Drew Dellinger の言葉

地球温暖化の影響もあり、今まで当たり前だった暮らしがいつ崩れるかわからない今の時代。詩人の言葉を聞き「自分たちには何ができるのか?」と自身に問いたといいます。

「僕には子供が2人います。とても可愛いですし、その孫や、さらにその孫となるとなおさらです。だからこそ、その子たちが苦しむ未来を考えると心に突き刺さるものがありました。自宅の着工まで残り15日でしたが、図面を描き直し“建築を通して僕なりに次の世代へできることを何か?”と突き詰め、電力会社から電気を引かず、自家発電蓄電のみの建築にしました。しかし、奄美大島は日照時間が短かく天候の変化が激しいので、予想外のことがよく起きます。家族で試行錯誤を繰り返しながらですが、僕を含め妻も子どもも意識が少しずつ変わってきて、便利さより手間をとる選択することも増えてきましたし、何気ないことで喜びを共有できるようになりました。」

さらに3年前には島内の山を購入し、水や電気などを自分たちでつくれるようなインフラ整備や村づくりに挑戦しようといるのだとか。

「新型コロナウィルスの蔓延やウクライナ戦争など、さまざまな面で世界情勢が変化し、危機感を感じています。今まで自分たちは便利さに頼りすぎてきたのかもしれない。何かあっても大切な人たちも守れる土壌づくりを取り組んでいるところです。」

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写真提供:酒井一徳 自邸 正面
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写真提供:酒井一徳 自邸 屋根
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写真提供:酒井一徳 自邸 玄関
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写真提供:酒井一徳 自邸 畳の間

島でも暮らしやすい環境づくりを

奄美大島では島で生きていく中で「先祖との関わり」が不可欠なんだそう。集落の住民同士が出資し、納骨堂をつくる文化があり、酒井さんも納骨堂づくりに携わったといいます。納骨堂に来た人が季節関係なく居心地よく滞在できるように風や光を活用した空間にしたそうです。他にも雨が多い奄美大島だからこそ気軽に滞在できるように屋根を設置し、全天候型の空間にした例も。島という環境の中で、自然エネルギーをうまく活用し、工夫した建築を通し、暮らしやすい環境づくりを実践していると話がありました。

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写真提供:酒井一徳 報恩寺納骨堂
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写真提供:酒井一徳 報恩寺納骨堂
KOSHIKI ART 2024 トークイベント「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」- 一級建築士 酒井一徳 編 -
写真提供:酒井一徳 報恩寺納骨堂

また、離島でよく問題にあがるのが塩害。奄美大島もその一つです。酒井さんは塩害に強いも強い「高炉セメント」という材を使うことによって普通のコンクリートよりも強度が増す建築をつくることが可能になります。普通セメントに比べて、施工方法などで工夫が必要で「高炉セメント」を扱うのは土木の分野では当たり前であっても建築分野では活用機会が非常に少ないのが現状です。同業種の仲間と勉強会などを通し啓蒙活動にも励んでいるとのことでした。

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写真提供:酒井一徳 高千穂神社手水舎 塩害対策を兼ねて耐候性、請求性向上のために高炉セメントを使用したという

さらには移住者向け住宅のための空き家改修に携わった事例についても。奄美群島内において空き家改修費用で自治体から出る費用は約600万円だそうです。しかし、その費用だと改修にも限度があり、実際に移住しても生活ができない状態になってしまいます。そこで、600万円という予算の中で材料を切り詰め、出来るだけシンプルに、でもプライバシーを確保したお試し住宅ができたそうです。集落で暮らしながら、仕事を探し、地域にも溶け込み、移住のハードルを下げる一つの取り組みになっているのだとか。

KOSHIKI ART 2024 トークイベント「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」- 一級建築士 酒井一徳 編 -
写真提供:酒井一徳 match guest house(龍郷町) シングル・カップル向けの規格住宅のモデルハウス 集落(シマ)とお客様をつなぐゲストハウスとなっている

価値観と生き方に焦点を当て、暮らし方を見つめなおす

「皆さん、自分の暮らし方が“普通”だと思っている人が多いと思います。でも、千差万別で当たり前ってないんです。生まれや育ち、価値観、生き方も違う人たちが同じ家族として暮らせば何かしたら不満も発生してきます。そして、ライフステージが変われば、求めているものや求める質も変わってきます。細かいところまで向き合い、それぞれの価値観や生き方に焦点を当てながら暮らしのあり方や住まい方を見つめなおしてほしいです。」

そんな酒井さん。昨年、株式会社オフグリッドを設立し、行政と対話を重ね、人口減少や消滅都市といわれる時代の中でいかに自分たちで循環をつくりながら暮らしの選択肢を増やしていけるかという事業に挑戦しています。

「集落が消滅し、インフラが無くなると受けたいサービスが受けられなくなり、その土地で暮らし続けたい・最期を迎えたい人たちにとっての選択肢も無くなってしまいます。僕が好きな建築と今まで培ってきた知識や経験をもとに、いかにエネルギーをうまく活用しながら快適な暮らしを作っていけるか。そこを今模索している段階です。」

KOSHIKI ART 2024 トークイベント「島で生きる〜私らしく最期まで、島で暮らしていくために〜」- 一級建築士 酒井一徳 編 -

屋号

KOSHIKI ART 2024

URL

https://www.koshiki-art-project.com

備考

【酒井一徳さん関連情報】

●酒井建築事務所 HP

https://sakaiarchitects.com

KOSHIKI ART 2024 関連情報】

●インスタグラム

https://www.instagram.com/koshiki_art/

●Facebook

https://www.facebook.com/p/KOSHIKI-ART-PROJECT-100064698396255/

●real local インタビュー記事

https://www.reallocal.jp/117225