【愛知県】一生モノのチェアを人生の相棒に theToolsのRLT Chair
インタビュー
ハンモックのような座り心地、使いやすさを追求したデザイン、経年変化を楽しめる天然素材……。キャンパーがアウトドアチェアに求める要素を兼ね揃えたtheTools(ツールズ)のRLT Chair。私たちラ・カーサが2024年10月に瀬戸市で開催した「アウトドアライフ体験イベント」にも出展いただき、注目を集めました。そんな話題のプロダクトRLT Chairの開発ストーリーをお聞きしに、ヴァンガード・ジャパン代表の鈴木啓介さんとプロダクトデザイナーの本田敬さんに会いに行ってきました。
純国産のものづくりで、日本を元気にしたい
ヴァンガード・ジャパン代表の鈴木さんが立ち上げたtheToolsは、アウトドア用品をはじめ、“一生大切に育てたい”こだわりのツールを揃えるブランドです。
鈴木さんは、前職で自動車関連の技術営業として14年間を欧米で過ごしました。海外でものづくりの現場に立って気づいたのは、日本のものづくりの素晴らしさだったといいます。
「グローバルなものづくりの現状は、スピードもコストも品質も各国が日本を追い上げています。とはいえ、日本人の粘り強さや課題解決力は素晴らしく、日本は世界的に見ても高いアドバンテージがあります。theToolsでは、日本のものづくりを体現するような方々と組んで独自性のあるプロダクトを生み出し、日本のものづくりを元気にしたいと思っています」
鈴木さんは生粋のキャンパーでもあり、キャンパーとしての視点とグローバルなものづくりの経験を生かして、「自分が本当にほしいものだけをつくる」というスタンスで、theToolsのプロダクトを生み出しています。
RLT Chairは、約2年の試行錯誤の末に商品化したtheToolsを代表するプロダクトです。社会課題に取り組みながらものづくりをするプロダクトデザイナーの本田さんとタッグを組み、共にアウトドア好きな鈴木さんと本田さんが、自分たちがほしいと思う究極のチェアを妥協なく製作。こだわりの素材を使って丁寧につくり上げる純国産のアウトドアチェアが完成しました。
経年変化を楽しめる、一生モノのアウトドアチェア
theToolsのRLT Chairは、一生ものとして大切にしたくなる要素にあふれています。
まず注目したいのは、素材へのこだわり。要となる木部フレームは、木製家具の名産地である岐阜県・高山市の広葉樹を使用。地元の職人が木のもつ個性やクセを見極めながら製材し、木工家が木目の表情を生かして切り出しています。シートはデニム生地で有名な倉敷の高密度帆布を、木部フレームをつなぐガイロープは繊維ロープの製造が盛んな静岡でオリジナルを製作。さらに、保護パーツや留め具、自在金具には真鍮を使用。どの素材もなるべく自然素材を選び、経年変化を楽しめるプロダクトになっています。
SDGsに配慮しているのも特徴。高山の広葉樹は、林業や道路開発のために伐採される “支障木”を採用しています。小径木が多く、建材や家具づくりには適しません。安価な木材チップになってしまうことの多い小径木を、軽量・小型化を目指すアウトドアチェアに適した素材として有効活用しています。さらに、RLT Chairのパーツは全て分解して単一素材に戻せるようになっており、最後は木を燃やして自然に返すことができます。
オプション販売しているレザーのフットカバーは、障がい者就労支援施設の協力を得て、ひと針ずつ丁寧に縫い上げています。地域貢献や多様性を意識することで、より愛され、語りたくなる製品づくりを目指しているのです。
そして、何より注目したいのはさまざまなシチュエーションで心地よい座り心地を実現できる設計です。木部フレームをガイロープでつないで帆布をかける構造で、しっかりと腰を支えながらもハンモックのような座り心地を実現。腰を少し落として背中と頭を帆布に預ければ、空を眺めるシチュエーションにも最適です。さらに、肘掛けを少し短くすることで、前屈みで焚き火をしたり、読書をしたりする姿勢にも最適化されています。
クラフトマンシップを感じられる、唯一無二のプロダクト
RLT Chairと一緒に使いたいサイドテーブルは、RLT Chairをつくる際に出る木の端材を集合材にし、アップサイクルしています。天板に真鍮板を少し浮くようにはさみ込んでいて、熱い鍋やスキレットを置くことができる仕様に驚かされます。よく見ると、真鍮板は天板の端に向かって凹凸がなくなるように設計されていて、デザインの美しさにもこだわりがみられます。
2024秋に新作としてリリースされたオットマンは、RLT Chairと並んだときに美しく見えるフレームワークのこだわりが光る一品。RLT Chairのフレームと同じく通常は左右方向にかける貫材を省いて、すねや足首に木のフレームが当たらないよう設計し、リラックス感を重視しています。ワンタッチで折りたたむことができ、機動力にも優れています。
theToolsには、ほかにもアウトドアシーンで使いたいデザイン性と機能性に優れたプロダクトを多数ラインアップ。有松絞りのランタンシェード、一宮で作られるカシミヤ素材のブランケット、尾州産地のメリノウールを使ったソックスなど、どれもクラフトマンシップを大切にしていて、「日本のものづくりを元気に」というtheToolsのビジョンが体現されています。
ものづくりの本質を大切にして、ワクワクの輪を広げていく
ものづくりへの真摯な眼差しをもつ鈴木さんと本田さん。お二人が見ているこれからのものづくりのあり方とは?
「根源にあるのは、『ワクワクの輪を広げたい』という思いです。持っていてうれしいもの、ワクワクするものを生み出したい。持っていてうれしいとは何かを考えると、私の答えは長く使いたいもの、自分好みに育てられるもの、ストーリー性のあるものです。そのために、素材、デザイン、性能にとことんこだわり、日本のものづくりにこだわり、SDGsや多様性にこだわる。自分自身が常にワクワクを求めていて、そのワクワクを一緒にものづくりをする作り手とも道具の使い手とも共有したいのです」(鈴木さん)。
「鈴木さんとタッグを組んだのは、ものづくりに対する思いに共感したからです。私は長いことプロダクト製作に関わってきて、今は大学に入り教育や研究にも携わるようになりました。視座を変えてデザインを見るようになり、自分も含めてものを作りすぎてしまったのではないかと顧みています。社会はものづくりの本質を見直す段階にきているのではないでしょうか。消費される道具ではなく、一生付き合える道具をつくろうというのは、RLT Chairをデザインした際の一貫したテーマでした」(本田さん)。
鈴木さんの会社では自社ブランドtheToolsの運営に加えて、新規事業や商品開発をサポートするコンサルティング事業を行い、2本柱で事業を展開しています。
「theToolsのものづくりの考え方をコンサルティング事業でサポートしている全国のものづくりの現場にも伝えています。本田さんが実践するインクルーシブデザイン(※1)やSDGsの考え方を広めながら、日本のものづくりを元気にできるような新規事業や商品をこれからも生み出していきたいと思っています」。
(※1)
「インクルーシブデザイン」とは、社会の課題を解決する参加型デザインである。これまでの製品やサービスの対象から無自覚に排除(Exclude)されてきた個人を、デザインの開発過程の初期段階から“デザインパートナー”として開発に巻き込み(Include)、対話や観察から得た気づきをもとに、一般的にも手に入れやすく、使いやすく、魅力的な、他者にも優しいものを新しく生み出すデザイン手法である。(本田さんの論文より抜粋)