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【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜

インタビュー

2025.03.21

大崎町宮園集落では地域住民や企業、就労支援施設が行っている「竹・福・商連携」により、10月から3月の時期に竹の資源化モデルが構築されています。今回、このモデルの構築に尽力した一人でもある慶應義塾大学大学院研究員・田中力さんの案内のもと、地域住民や関係機関に話を聞き、その背景に迫りました。

【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
画像提供:田中力 「竹の資源化」モデルについて

生きづらさを生きやすさに

田中さんは生まれつき聴覚障害があり、コミュニケーションをとる上で、話す人の唇の動きとわずかな聴力で聞き取った音で内容を理解しないといけなかったといいます。さらに、コロナ渦になるとマスクをしないといけない状況になったため、コミュニケーションが難しくなり、そういった自分の生きづらさや困りごとを世の中に発信したい気持ちがあったといいます。

“どのようにしたらコミュニケーションがとりやすい社会になるのか?どういう社会なら自分が生きやすくなるのか?”

“障害がある・なし関係なく、一緒に過ごせる空間づくりが必要ではないか?それなら、目的は違っても目標が一緒な場をつくろう。”

当時、広島県の職員として従事しつつ、地域おこし協力隊とも交流があったことから、自ら地域に入り、自身の困りごとを解決するモデルをつくりたいと思うようになったのだとか。そんな時、リサイクル率日本一を幾度も達成している大崎町のことを知り、2022年4月に大崎町地域おこし研究員(※1)として大崎町へ移住することになるのです。

「大崎町はリサイクルを通したコミュニティ力が根強いのが一つの特徴です。そして、住居を構えていた宮園集落では高齢化による住民の孤立や放置竹林の課題に直面していたので、それらと障がい福祉を掛け合わせて竹の資源化モデルができないかと考えました。暑い時期だと熱中症の可能性があるので、10月から3月という時期に絞って行っています。(田中さん)

(※1)全国の自治体と慶応義塾大学SFCの連携のもと、地域の現場に根ざした「地方創生の実践」と「研究開発」の相乗効果を追求するプログラムのこと。

【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
慶應大学大学院研究員・田中力さん

一人ひとりの気持ちを汲み取った関わりから得る学び

取り組みを進める上で田中さんがまずアプローチしたのが「ひふみよベースファーム大崎」(以下:ひふみよ)の諸木大地さん。農福連携をしていること、農業の閑散期が10~3月の期間であることに着目し、その時期に宮園集落住民と竹林整備が一緒にできないかと田中さんから相談に行ったのがこのモデルに携わるきっかけだったといいます。

諸木さんにの時の印象について聞きました。

「田中さん自身が障がいの当事者でしたし、障がい福祉分野の私たちの状況を汲み取りコミュニケーションが取れることは大きいと感じました。前例はなくても、まず返答としてはNOではなく、できることはやってみたい気持ちでした。」(諸木さん)

取り組みを進めるにあたり「何かをしないといけない」「やり遂げないといけない」というルールにはしない。そこは意識したといいます。あくまで情報提供に留め、「やってみたい」と思った利用者(※2)に参加してもらい、その利用者のできる能力で無理なく作業をしてもらいたい。そんな気持ちで今でも臨んでいるそうです。

「地域と福祉は近いようで遠く、中々接点が少ないので、それがずっと課題でした。全員ではありませんが、竹林整備を通して、少しずつ地域との繋がりが生まれてきているのは私たちとしてもとてもありがたいです。また、将来的に一般就労を目指す利用者さんにとっては試行錯誤する良い機会にもなっています。」(諸木さん)

(※2)障がい福祉サービスの利用者のこと。

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ひふみよベースファーム大崎 諸木大地さん

竹林整備を通し、今までひふみよ内で行ってなかった作業をこなす様子を見て、利用者の新たな一面や能力の発見に繋がったこともあったそうです。他にも宮園集落住民との距離感を見ながら、利用者の成長を感じることも多いのだとか

「中には大人数の場が苦手で竹林整備に行かなくなった利用者さんもいらっしゃいます。でも、それが決して悪いという意味ではありません。一つひとつが私たちにとって学びなんです。支援ではなく、利用者さんとともに学ぶスタンスで毎回現場に足を運んでいます。」

【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
ひふみよベースファーム大崎の利用者も作業に
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伐採した竹を切る様子
【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
竹林整備に参加しているひふみよの利用者と諸木さん

配慮の浸透の先にあるもの

宮園集落の人口は73人。その一人が竹・福・商連携に尽力した中野耕造さんです。田中さんから相談を受け、ある不安がよぎったといいます。

“高齢の自分たちに竹林整備ができる体力があるのか?そもそも、障がいがある人たち(ひふみよの利用者)と今まで交流がないが、どうコミュニケーションをとればいいのかわからない…。

集落で話し合い、結論として出たのは「何もしないうちからNOと言ってはいけない、とりあえずやってみよう」でした。

取り組みが始まると最初は参加者が数名で、利用者と距離があったものの、次第に打ち解けてきたそうです。

私たちができないことをお願いすると彼らは積極的に動いてくれましたし、私たちのことを信頼してくれるようになったと思います。集落のメンバーが作ったお菓子などを気に入ってくれて、彼らから声をかけてくれるようにもなりました。」(中野さん)

【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
宮園集落 中野耕造さん

モデルを構築していく上で
・作業内容の把握
・作業の効率化
・ケガがないような動線づくり
そこに時間がかかったと田中さんは話します。

「障がいのある方は場所が変わっただけで戸惑ってしまう方もいらっしゃいます。同じ作業内容も場所が変われば作業できなかったりしますし、トイレに行きたくても行けないなどといった問題も出てきました。そのため、一人ひとりの気持ちを汲み取る・理解するという配慮の浸透が必要だったかなと思います。」(田中さん)

作業に慣れてきたタイミングで、3ヶ月を目処に竹林整備をする場所を少しずつ変えるなど、ステップアップを図ってきたのだとか。

また、集落からの参加者も増え、現在は15名前後になっているそうです。

「接しているうちに障がいがある人たちも私たちと全く変わらないんだと感じるようになりました。今ではお互いの家族のことや悩み事を話せるぐらいの仲になっています。集落に若いメンバーがいないので継続できるかどうかが一つの課題ですが、竹林整備の日を楽しみしていることはこのモデルを始めてよかったなと思います。」(中野さん)

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伐採した竹を運ぶ様子
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伐採した竹を蓋に入れている様子
【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
お茶の時間はみんなで茶菓子をいただく 集落メンバーが作ったもの

挑戦する気持ちが紡ぐ結のまち

宮園集落でつくった竹炭は大崎町内の社会福祉法人愛生会(以下:愛生会)が購入し、さつまいもを栽培する畑に散布。その畑で育ったさつまいもを干し芋に加工を行い(加工は株式会社コーセンが行う)、販売する流れとなっています。

田中さんが一番意識したのは愛生会の収益性確保。元々、愛生会は有機栽培に取り組み様々な作物を収穫していた背景もあったこともあり、他県のモデルケースを参考にしながら、徐々にさつまいもを栽培する面積を増やしているのだとか。干し芋は人気商品となり、商品が並ぶ時期にあるとすぐに売り切れるそうです。

愛生会の福重順一さんはこう振り返ります。

「正直、竹炭についての知識はほとんどありませんでした。田中さんから竹炭が土壌改良に繋がることを教えてもらったこともですが、さつまいもを加工する提案も含めて、今まで私たちが考えたこともない取り組みでした。挑戦する気持ちは常に持っているので、愛生会としても嬉しい提案だったと思います。」(福重さん)

干し芋をきっかけに行政や地域との関わり、そして、作業する職員や利用者自身の楽しみが今まで以上に濃くなったとも話します。

【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
社会福祉法人愛生会・福重順一さん

干し芋の商品名は「結紡」。そのネーミングは田中さんが考えたのだとか。その由来を聞きました。

「大崎町は繋がりを大事にしているまちです。“みんなで・チームで紡ぐ結のまち”をスローガンとして掲げています。また、食は繋がりを生む一つのキーワードになります。それで結紡と名付けました。」(田中さん)

「竹炭はあくまでも土壌改良のみの話で、収穫量が増えるかどうかは別の話なんです。それでも前例がない状態で僕たちの提案を受け入れ、宮園集落のことをいつも気にかけてくださっている愛生会さんには感謝しかありません。」(田中さん)

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宮園集落で作った竹炭
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竹炭は土壌改良のため愛生会内の畑にて散布される
【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
愛生会の干し芋「結紡」 竹炭を散布した畑で育ったさつまいもを使用している

どんなに時が経っても失われないもの

2025年1月末。「ノウフク・アワード2024」にて優秀賞を受賞し、竹林整備の日に合わせて表彰状授与式が開催されました。関係者が一堂に介し、喜びを共有し合っている光景が印象的でした。

これまでの変遷を踏まえ、現在の心境を田中さんに聞きました。

「福祉は今まで“支援する・される”の考え方でしたが、時代の流れとともに、する・されるの壁をなくした“共に幸せに”という考え方になってきていると感じています。それは宮園集落や大崎町内限らず、地域外からの関わりも含めて、自由に人や情報が行き来することが良いなと思っています。皆さんでお腹を抱えながら笑い合って、一緒にご飯やお酒の場を共にできるような関係性を続けていきたいです。」(田中さん)

現在、このモデルが薩摩川内市にも展開されているのだとか。

“大崎町内だけでなく、他の地域にも広がってほしい。それが結果として自分や同じような境遇の人にとって生きやすい社会に繋がれば。”

 そんな想いもあるといいます。

【鹿児島県大崎町】「竹の資源化」モデルの構築と実践 〜生きづらさから生まれた“共にある”空間〜
ノウフク・アワード2024を受賞 表彰状授与式が宮園集落にて開催された

「僕はこのモデルが今日なくなったとしても、それでもいいと思っています。だって、集落や関係者の皆さんとの関わりがそれで失われるわけではないですから。違うカタチで何かやろうとなった時にすぐ動ける関係性であること。それが一番大事かなと。」(田中さん)

そう力強く語る田中さん。

最後に宮園集落と関わる上で幸せな瞬間について聞きました。

「この数年でモデルや繋がりだったり、その他にも色々と生まれてきました。その中で関係者にとって共通する何かはずっと残っていくと思います。だからこそ、どんなに時間が経っても楽しい瞬間にいつでも戻れるんです。集落の皆さんが楽しそうにしている瞬間に立ち会えたこともですし、それに携われたことが何より幸せです。」(田中さん)

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表彰後、宮園集落メンバーとひふみよ利用者で集合写真
屋号

「竹の資源化」モデル 構築と実践